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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、料理対決の賭けとされる


 「え…えっと?」


 突然の勧誘に思わずたじろんでしまうサード。

 言葉が詰まっている彼本人に代わりこの店の店主たるレンゲが当然待ったをかける。


 「ちょっと待ちなさい。彼はこの店の大切な従業員なのよ。それをなに店の店主の目の前で引き抜こうとしているのかしら」

 「あら、私は彼の安全面を考慮した上でこの提案をしているのよ?」

 「…それはどういう意味かしら?」


 メイシが不機嫌そうな目を向けながら問うと、フルドはサードの手を離し自身の髪を搔き上げながら彼女へ指を突きつけた。


 「今言った通りアナタはこの街では過去に問題を多く起こした惹起者! そんな女が今は全世界共通たる宝である男の子を手元に置いて居るだなんて言語道断!!」

 「じゃ、惹起者とはオーバー過ぎる表現よ! 主な被害者はアンタだけなんだから!!」


 必死に弁明している様に聞こえるが、正直な話、立場はどう考えてもメイシの方が弱いだろう。言いすぎとは言っても過去に被害を受けていたのだから……。

 

 「だいたいこの店に来るたびに過去の事を持ち出して陰湿だとは思はないのかしら?」

 「…そうね」

 「え?」


 メイシの言葉に素直に頷くフルド。

 正直、こうもアッサリと引き下がられるとは思わずメイシの口から疑問の声が素直に漏れる。だが、古い馴染みである彼女はすぐに悪寒を感じた。ここまでアッサリと引き下がる場合、この目の前の女は何かとんでもないことを言ってくるに決まっている。

 そしてその予想を裏切らず、フルドはサードを自身の元へと抱き寄せて声高らかに言った。


 「これまでの私へ働いた愚行を全て清算する代わり、この子を頂いていくわ!!」

 「はあッ!? なんじゃそりゃ!?」

 「あら、文句あるのかしら!」

 

 席を勢いよく立ち上がり大声で叫ぶメイシ。

 そんな彼女に劣らない声量でフルドはサードを抱きしめながら叫び返す。その際に彼女の胸で顔を埋もれているサードは恥ずかしさと苦しさから顔が赤くなるが、興奮気味のフルドは気付かずに話を続ける。


 「アナタの店の看板息子君を渡せばこれまでの事は水に流すと言っているのよ!」

 「冗談じゃないわ! サード君は関係ないでしょ!」


 そう言ってサードを自分の胸元に引き寄せるメイシ。

 再び女性の柔らかな胸へとダイブするサード。


 「メ、メイシさん。離して…」

 「ホラ嫌がっているじゃない!」

 

 フルドがそう言って噛みつくが、逆にメイシも噛みつき返す。サードを離して互いに詰め寄り激しい口論を交わし、それを困った様に眺めるサード。そこへ今まで忘れられていたレンゲが近づきサードへそっと耳打ちする。


 「ねえサード君…ゴショゴショ…」

 「ええっ、なんでオレがそんな事しなきゃ…」

 「サード君がやれば間違いないって! ホラ、試してみて」


 この場を諌める為にサードに骨を折ってもらう様に指示するレンゲ。

 彼女の提案は少し不満を感じるが、自分がちょっと演技するだけでこの場が収められるのならば仕方がないと思い、未だ激しく論争している2人へと近づくと両者の腕を掴んで。


 「ふたりとも…」


 消え入りそうな声で二人に呼びかけるサード。

 サードに声を掛けられ、しかも消え入りそうな声色だったので二人そろって彼へと振り向く。


 「ふたりとも、ケンカは止めてほしいな…」


 眼の端に涙を溜め、潤んだ瞳を向けながら切実に懇願するサードの姿に2人は揃って胸を押さえる。年下男子のこの振る舞いの破壊力は強力で2人は数秒前まで言い争っていた事など忘れ、互いに謝罪をする。


 「言い過ぎたわ。ごめんなさいねメイシ」

 「いいのよ。私の方こそ謝らせて頂戴」


 素晴らしい程までの変わりようにやはりサードの存在の大きさを再認識するレンゲ。

 今の世では男性の力は大きく、それが可愛い年下男子ならば尚の事。現に彼をけしかけたレンゲも今のサードの演技におおっと声を漏らしてしまっていた。

 逆にサードは今作っている表情とは裏腹に正直呆れていた。


 「(オレのこんな大根演技で場が収まるなんて……)」


 相変わらずこの世界の女性は男性に対して寛容的な気がする。この言葉が正しいかどうかはさておき……。

 

 「んんっ…サード君をこれ以上困らせない為にもいい加減に話を収めないとね……」


 咳ばらいをしてチラリとサードを見ながらそう言うフルド。

 

 「そうね…それならこうしないかしらメイシ。ここは一つ私たちで料理対決でもしないかしら?」

 「料理対決?」

 「そう、料理人同士で正々堂々と。私が負ければもう過去のあなたの行為をネチネチと言わないと約束するは。ただし、コチラが勝てばサード君を私たちの店にしばらく貸してほしいの」

 「待ちなさい。そこでどうして関係の無いサード君が出て来るのかしら?」


 自分になにかリスクが発生するならばともかく、何の関係も無いサードを巻き込むことは流石に納得のいかないメイシ。

 それに対してフルドは否定的な発言をして来る。


 「無関係…とも言い難いのではないかしら? 彼はあなたの店の看板息子。そしてコレは私とあなたの飲食店による料理対決…で、あるなら、その賭けの対象に彼に目が向けられても」

 「リスクを背負うのは私で十分よ。サード君を巻き込まないでくれるかしら」

 「でも一度の勝負でアナタの過去を清算する条件と言えばこれぐらいしか思いつかないわ」


 再び2人の熱が高まり舌戦の方も高まり始める。このままは同じことの繰り返しだと判断したサードは一歩前に出て2人の注目を集めて発言する。


 「メイシさん。その条件、呑んでもいいとオレは思います」

 「ええっ!」

 「あら♪」


 それぞれの口から対の意味で驚愕の声が漏れる。メイシは戸惑い、そしてフルドは喜々とした声色だ。

 まさかのサード本人からの提案にメイシは彼の肩を掴んで小さく揺らし何を考えているのかを問いただし始める。


 「ど、どうしたのサード君! なんでこんな提案を吞むの!?」


 戸惑い気味の彼女を諌めつつ、小声でサードが耳打ちする。


 「でもこのままじゃいつまでも話は平行線のままでしょ。それに当初は引き抜きをしようとしていたけど、今回は最悪負けても少し向こうの店で働けばそれですむし…」

 「でも…」

 「オレはそれで構いません」


 サードは迷いのない瞳でメイシへと告げる。

 ここでこの提案を受ければメイシの過去を清算してくれる。メイシ本人やそしてこの安腹亭に世話になっている借りを返す事が出来るのならばサードにとっては自身に対するリスクの少なさからこの料理対決は受けてもいい提案であった。

 だが、やはり自分の蒔いた種が原因でサードに苦労を掛ける事にまだ抵抗があるメイシ。そこへレンゲからも賛成の声が上がる。


 「大丈夫なんじゃないですかメイシさん。流石にこの店から引き抜くというのであれば私も黙ってはいませんが少しの間という条件なら」

 「でもやっぱり…」

 「それに、サード君も中々に意地っ張りですし…」


 それには確かにメイシも納得できていた。

 ファストに特訓を付けてもらってからは彼は以前より肉体だけでなく精神も強くなり、同時に少し頑固にもなっていた。

 チラリとサードの方を見ると、彼は何一つ迷いのない瞳をしていた。


 「分かったわフルド。その料理対決…受けようじゃない」


 メイシの口から勝負を受けると言う言質を取れた事でフルドはとてもいい笑顔をする。

 思わず昔の血が騒ぎフルドを殴りたくなった衝動を抑る。


 「だけどもしも私たちが勝てばもう過去の事を持ち出して突っかからないでよ」

 「ええもちろん♪」

 「それで、勝負は何時何処で行うのかしら」

 「明日には分かるわ。それじゃあね♪」

 「はあっ、ちょっと…」


 メイシがどういう意味かを尋ねる前にフルドはそそくさと店を出て行った。

 その素早い行動に呆気にとられ、残された三人は呆然としながらも閉められた扉を眺めていた。


 「どういう事ですかねぇ…明日になれば分かるって? メイシさんが勝負受けた途端あっさり帰りましたよアノ人」

 「…何か…嫌な予感がするわ」


 言いようのない不安を感じるメイシ。レンゲの言う通り、今の彼女の行動はおかしい。勝負が受理された途端に店を出た。まるでこれ以上は会話を避けるかのように……。

 そうこの時、メイシ達はすでにフルドの罠にはまっていたのだ。


 翌日、メイシはこの料理対決で自分側の勝利を収める事は九分九厘不可能であるという残酷な現実を叩き付けられる事となる。

 



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