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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、店主の過去を知る


 意識が回復したメイシとそれを気遣うサード。そして自身の料理の危険性をイマイチ理解しきっていないレンゲの三人は新作メニュー作りに没頭していた。案の定レンゲの他の案はどれもが罰ゲームでもなければ口にしない料理の数々であった。

 何故彼女は甘い物や苦みのある物、そして辛い物を一緒に摂取させようとするのか? 何故彼女は舌が麻痺する危険性のある唐辛子が致死量含んだ料理を客に食べてもらえると思ったのか? 何故彼女は果物を揚げてみようなどと考えるのか?

 どれもこれも奇抜すぎるそのアイディアの数々にメイシは頭を抱えていた。

 だが、レンゲの表情を見る限り大真面目にアイディアを出している事は間違いない。


 「メイシさん…厨房に入った事ない俺が言うのもなんだけど…レンゲってここまで料理できなかったの? というより何でレンゲはこの店に入れたの? というか入ったの?」


 飲食店で働く娘が全く料理が出来ない。いや、ホールスタッフであるレンゲはお客の対応や食べ終わった食器の片づけや清掃などの店内の美化の仕事を中心に割り当てられているので料理の腕が低いのならばまだしも、それを下回る危険兵器を作りかねない腕前なのだ。さすがに食事にたずさわる場所でなぜ働いているのか疑問に思ってしまう。


 「あの頃はまだ人手が足りなくて、ホールスタッフなら料理経験が無くても大丈夫だったから……」

 「…レンゲもレンゲでこの仕事を選んだ理由は何故なんだろう?」


 二人が小声で話しているとレンゲが何を話しているかを尋ねる。


 「何話してるの二人共?」

 「いや、こっちの話だよ」

 

 サードが適当に誤魔化しておくと、レンゲはまたしても新しく思いついたアイディアを二人へ話そうとする。

 だがその時、店の扉が開かれる――――


 「ああすいません。本日は休業でし……アナタ」

 「お邪魔するわよメイシ」


 店の扉を開き表れた人物を見てメイシの表情が仏頂面となる。

 赤茶色の長髪をポニーテールに纏めたメイシと同じくらいの年齢の女性、不敵な笑みを浮かべながら店の中に居る三人を眺めている。

 メイシの反応を見る限りこの店に訪れたお客という訳ではないようだが……。

 サードには心当たりのない人物であるが、レンゲは彼女の顔をしているのでサードにそっと耳打ちする。


 「あの人は確かフルドさん…ていう別の飲食店の店主さんだったかな……?」

 「別の飲食店の…」


 アゲルタムの街にはこの安腹亭の他にもイロイロと飲食店が勿論存在する。だが、いうなればそれらはライバル店とも呼べる存在の筈だ。その店の最高責任者がワザワザ他の店へと足を運ぶなんて一体何の用なのだろう? しかもメイシの反応を見る限りこの2人、見知った仲の様ではあるが余りいい関係とは言えない気がする……。

 それを裏付ける様にメイシはげんなりとした表情で用件を尋ねる。


 「それで…何の様かしら?」

 「あらご挨拶ね。真っ先に出て来る言葉がそんなモノだなんて…」


 嫌味ったらしくフルドという女が毒づく。

 僅かにイラッと来るが傍にいるサードに悪いイメージを持たせたくないと思い我慢をする。すると何も言って来ないメイシのその反応にフルドは小さく笑った。


 「あらあら…いつもの威勢の良さを感じないわねぇ~。そんなに自分をキレイに見せたいのかしら?」

 「どういう意味かしら…?」

 「判り切っているクセに…そこの子に自分をキレイに見せようとしても無駄なのよ」


 フルドは席で座り様子を眺めていたサードを指差した。突然自分に振られて少し戸惑うサード。

 するとフルドはサードの傍まで寄って行くと、彼に耳打ちして来た。


 「知ってるサード君、あなたを雇っているそこの女、こう見えて昔は凄い問題児だったのよ」

 「ちょっ、何を言い出すの!?」


 サードに話している内容はメイシの耳にも聞こえ、彼女は焦り気味で立ち上がる噛みつく。先程までは相手にしないスタンスを通そうとしていた彼女の変わりようにサードだけでなく傍に居たレンゲも気になり深く尋ね始める。


 「メイシさんが問題児だったってどういう意味ですか?」

 「ちょっとレンゲ、そんな事聞かなくてもいいでしょ!」


 何とか話を打ち切ろうとするメイシであるが、彼女のことなどお構いなしにフルドは話を続けた。

 

 「少し昔、彼女がギルドで仕事をしていた頃ね…」


 いきなりメイシの意外な経歴を語られ傍で話を聞いていたサードが反応する。

 

 「ええっ、メイシさんって昔はギルドで仕事していたの!?」


 思わずいつの間にか隣に座っていたフルドへと顔を近づけて驚きを表すサード。すると間地かに顔を近づけられた彼女は一瞬だが心を奪われたかのようにだらしない顔になるが、すぐに元の表情に戻す。僅かに頬は朱く染まったままであるが。

 だがサードもこの店を初め街の女性達が幾人も同じ表情を向けて来て慣れているので特にはそのあたりに対して反応を示さない。この辺りを見ると、彼もこの街に馴染んで居る事がよく分かった。


 「ええそうよ。昔は中々悪名が高くて手の付けられない子でね~。何度もウチの店で食い逃げしたり、罪もない一般市民からカツアゲしたりと本当にまったくなヤツだったわ」

 「ええ…マジですか?」


 レンゲが少し引いた目でメイシの顔を見る。

 しかし今の発言に対してメイシは訂正をする。


 「ちょっとそれは少し言い過ぎよフルド! 何度もではなく私が食い逃げした回数は一回だけの筈よ! それにカツアゲだってあなたからしかしていないわ!!」

 「……それで弁解しているつもりならアナタってほんと凄い根性してるわよ?」

 

 フルドの発言を一部訂正したと言っても食い逃げやカツアゲの事実は有ったようだ。しかも、その被害者は今まさに眼の前に居る女性。何故この二人が険悪なのか…というよりフルドが彼女に対して嫌味ったらしく接していたかを理解する。

 痛い過去を暴露され焦るメイシ。そこに追い打ちをかけるかの様にサードが子供特有の綺麗な瞳で確認を取って来た。

 

 「…したの…食い逃げ…?」

 「えっ! あ、いや…そ、ソンナコトシタカナ…?」

 「さっき自分で言っていたけど……」

 「ま、まあ…若気の至りとやらね!」


 なんだか今まで抱いていたメイシのイメージが少し崩れかけるサードとレンゲ。しかもフト思ったがなぜ元冒険者が今は飲食店を経営しているのか?

 その辺の質問をしようとするが、その前にフルドが先に発言する。


 「まあ今聞いてもらった通り、彼女は昔は中々の悪女だったという訳よ」

 「悪女は言いすぎでしょ…その分、冒険者として街に貢献した事もあるんだから…」

 「それを良い事にイロイロな人にタカっていたわよねぇ?」

 「…奢ってもらっただけだもん…」


 意外な経歴と、そしてそれ以上に意外過ぎるメイシの過去を聞きサードは内心で驚いていた。レンゲの方は驚きを通り越し興味すら持っているようだ。

 とりあえずは彼女が余計な横やりを入れないように喚起しておくとしよう。


 「レンゲ、とりあえず今は黙ってようね」 

 「え~どうして? 凄い面白そうじゃん…二、三個質問したいんだけど…」

 「自分の店の店主の株を下げたい?」

 「ん~…」


 とりあえずもっともらしい事を言って動きを止めておくサード。

 過去はどうであれ、今のメイシにはサードは強い恩義を感じているのだ。ならば彼女の味方として振る舞うのは当然であろう。となれば同僚を押さえるだけでなく少しメイシを援護してやらなければ……。


 「でも過去はどうあれ今のメイシさんは店の従業員達や街の人からも愛されています。かくいうオレだってメイシさんにこの店で住まわせてもらっていますし……」

 「サ、サード君…」


 自分を庇ってくれるサードの良心に喜びを表すメイシ。それに対してフルドは少し面白くなさそうな顔をしている。

 

 「そうねぇ…でもサード君、どうせなら悪名の無い潔白な飲食店で働いた方が安全だとは思わない? もしかしたら過去の出来事が原因でこの店に何かよからぬことが起きるかも…」

 「それはどういう…?」


 サードが怪訝な表情をしていると、フルドは彼の手を握り笑顔で言った。


 「サード君…あなた、ウチの店に来ないかしら?」




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