少年、決闘に決着をつける
ドンッ、と地面を蹴りつける音と共に大検を片手で握っているブレーがファスト目掛け、一直線に跳んできた。
間合いを詰めながら、右腕と共にその巨大な剣を振り上げ、それをファスト目掛けて振り下ろす。
「ハアッ!!」
「ッ・・・」
気合の籠った掛け声と共に迫る刃を後方に二歩下がって回避する。大剣を振り回して発生する風圧がファストの髪を靡かせた。
更に連続で大剣を振り、攻撃を繰り出し続けるブレー。
「(あの大きな大剣を軽々と・・・パワータイプか)」
攻撃を回避しながら冷静に相手のタイプを観察するファスト。
「だが、威力はあっても当たらなければ・・・・・」
ファストは刀を両手で握り、それをブレーに勢いよく斬り付ける。
大剣は一撃一撃の重さは凄まじいだろうが、その質量故に速度が死んでいる。つまり手数では自分の武器の方が断然上回るだろう。
「フッ!」
「ふん!」
ガキィンッ、という金属同士が擦れる音が観客達や、得物を振り回す自分たちの耳に響く。
「ハアアアアアアアアッ!」
速度を乗せ連続で刀を振るうファスト。しかし、ブレーは大剣を巧みに扱いそれを盾の様に扱いファストの剣戟を防いでいく。そして、隙を見てカウンターの様に大剣を振るってくる。
「吹き飛べぇッ!!」
「ちっ・・・」
彼女の振るう大剣を刀で防ぐが、そのまま力づくでファストの体をガードごと弾き飛ばす。
弾かれたファストは空中で軽やかに回転をし、そのまま地面へと着地、そしてすぐに刀を構え直す。
「なるほど・・・少しは出来る様だ」
ファストと僅かに打ち合い彼が他の男達とは違うという事を認識したブレー。だが、彼女の顔には未だに余裕の笑みが張り付いていた。
「それはどうも・・・それで、お前もこれで少しはやる気が出たか?」
ブレーはファストの言葉に一瞬驚きが現れるが、すぐにそれは笑みに変わる。
「気付いていたか、私がまだ全力ではないことに」
「舐めるなよ、それぐらい見抜けないと思ったか」
ファストがそう言うと、今まで口元に笑みを作っていたブレーの表情が変わった。今までのどこか余裕がみられた表情とは違い、明らかにやる気が今の彼女からは感じられる。その証拠に、彼女から感じる威圧感が変化していた。今までは肌をピリピリと刺激する程度であったが、今はまるで刃物で刺しているかのような鋭い威圧感。そして、微かな殺気すら感じ取れた。
「ここからは、遊び抜きの様だな・・・・・」
ファストがそう言い終わった時には――――――すでに自分の眼前にブレーが迫っていた。
「! くっ!!」
迫り来る巨大な刃を刀で受け止めるファスト。しかし、彼女は両腕で大剣の持ち手を握りしめ、唾競り合いの状態から大剣でファストの体を押していく。
「(くっ、コイツ、パワーが明らかに・・・)」
速度だけでなく、パワーも明らかに上昇しているブレー。
「どうしたぁ! 望み通りの全力だ、それともやはり男には荷が重いか・・・なッ!!」
ドンッ、と地面が爆ぜる音と共に目の前のブレーの姿が消える。
ファストは意識を集中し、そしてその場を跳躍して離れた。その数瞬後、自分の居た場所に大剣が振り下ろされ地面を砕く。
粉塵が周囲へと吹き荒れ、その中でブレーが好戦的な笑みを浮かべている。
「逃げは一流だな、ふふふ・・・」
「・・・・・」
広場で行われている決闘に観客達は半分は盛り上がっているが、もう半分は不安でハラハラとしていた。
「ああ、ファストさん、大丈夫かな」
「やっぱりブレーさんに勝つなんて・・・」
ファストの敗北の空気が濃色になっている中、一人の女性がある事に気付いた。
「あっ、でも、もし彼が大怪我をしたら看病という名目で彼により近づけるのでは!」
「「「それだ!!」」」
彼の身は心配であるが、彼が負ければ負けたでおいしい思いが出来るのではと考え始める観戦者達。そんな彼女達を見てヤイバは少し呆れてしまう。
「まったく、そんな不純な理由で近づこうと目論むなんて。大体、彼が負けることが前提の話じゃない・・・」
呆れまじりのため息を吐きながらそう言うヤイバ。そんな彼女同様、サクラも内心では周囲の考えに不満を抱いていた。此処にいる大半はすでに彼の勝利を信じていないと思ったからだ。
「(ファスト・・・頑張れ・・・!)」
だが、そんな空気の中でもサクラはファストの勝利を信じている。
彼が信じろと言ったのだ。ここで信じず自分が諦めてどうするというのだ。
視線の先に映るファストを見て、彼女は胸の前で両手を握って彼の勝利を祈った。
「さて、では一気にかたを付けるぞ!!」
ファスト目掛けて一気に弾丸の様な速度で迫るブレー。その勢いのまま大剣を振り上げて、ファスト目掛けて振り下ろす。
「(獲った!!)」
ブレーがそう思った刹那、目の前の少年の姿がブレた。
「なっ!?」
ブレーの口から驚愕の声が漏れた。
目の前にいたファストの姿が一瞬で消えたのだ。だが、彼女の驚愕は一瞬、すぐにその口元は弧を描いた。
「速いが・・・・・見えているぞぉッ!!!」
ブレーはすぐに彼の行方を捕らえ、そしてその場所目掛けて跳躍する。
「そこだぁッ!」
視界の先にいるファストに大剣を横なぎに振るうブレー。今度こそ確実に捉えたと思った彼女であったが、その斬撃は彼の肉体ではなく、何も無い空へと振るわれた。
「なっ!?」
確実に捉えたと思ったが、再びその姿が消えてしまう。
しかも、今度はブレーの目でとらえることが出来なかったのだ。
「(アイツ、まだ速く動けるのか!?)」
そんな思考が頭をよぎった直後、彼女の背筋に冷たさが走った。
「くぅッ!!」
ブレーは咄嗟に大剣を盾の様に構えながら背後を振り向いた。
その直後――――――彼女の展開した大剣にファストの刀が衝突した。
「防いでくるか、やるな」
「ちぃッ! 舐めんなぁ!!」
小馬鹿にされてるように感じたブレーの口から怒りの籠った怒声が広場に響く。
その怒りを乗せた大剣の一撃を振り下ろすブレーであったが、ファストはそれを刀で受け止める。
「ぐ・・・!」
ブレーの一撃は軽々と受け止められ、大剣ごと彼女は後方へと吹き飛ばされる!
「ぐっ・・・!」
そのままブレーへと一気に駆けていくファスト。それを迎えようと大剣を構え、そして迎撃の体制を取るブレー。
「ハアアアアアアアアアッ!!!」
「オオオオオオオオオオッ!!!」
掛け声と共に両者はそれぞれの武器を振るった。
両者の刃が衝突し、広場には激しい金属音が響き渡った。
そして――――――キィンッ、という音と共に、ブレーの大剣はファストの刀と衝突した部分から綺麗に折れていた、いや、斬られていた。
そして流れる様にブレーに刀を突きつけるファスト。
「勝負ありだな」
「そ、そんな・・・・・」
自分の敗北が信じれず、呆然とするブレー。
ファストの勝利が決まった事で、周囲からは歓声が響き渡った。
「ファスト!!」
そこへサクラが小走りでファストの元へとやって来た。
そんな彼女にファストはにっ、と笑みを浮かべてピースサインを送ったのだった。