少年、1日の疲れを取る
ファストの口から闇ギルド、ビィトゥレェィアルに関する話を聞いたその後、今度はその事とは全くの別件の話題が彼の口からは出て来ていた。ソレは先程、受付嬢から話された〝ある依頼〟についてであった。ブレーとクルスは既に知っているがサクラは何も聞いておらず、その〝ある依頼〟とはいったい何なのか質問した。
その質問にファストは以前自分たちが受けたとある仕事を話題に挙げた。
「憶えているかサクラ? 俺たちが以前受けた依頼の1つ。遺跡の調査に関する仕事をがあっただろ」
「あ…あ~、あったねぇ。うん、憶えているけど…」
まだクルスが仲間になるよりも以前の話、ファストがギルドに入ったばかりの頃に初めて受けた仕事である。同じ仕事を受けたサクラが忘れる筈も無い。
4人の内、唯一その仕事に行っていないクルスはブレーに質問をする。
「遺跡に行って何をしたの? お宝でも探してたの?」
「いや、遺跡内に突如ゴーレムが発生してな、依頼の内容はソレの討伐というものだったのだ」
その時の現場の情景を思い返す3人。
自分たちより大きく頑強な体をしたゴーレムとの激闘は今でも印象強く3人の胸に残っているのだが……。
「遺跡内のゴーレムとの戦いは中々面白かったのだが、ゴーレム共を制作された理由はこの上なくしょうもないものだったな」
ブレーの言葉にファストは力の抜けた笑みをこぼし、サクラも苦笑を漏らす。
3人のその不自然な反応にクルスは不思議そうにしていると、ブレーから追加の説明が加えられる。
「そのゴーレム共は遺跡内に潜んでいた1人の女に作られた物でな、遺跡に侵入した者を追い払う様に命令をされて動いていたんだ」
「じゃあそのゴーレムは魔法で作られていたんだ。何気にとても凄い魔法だと思うけど……」
「ああそうだな。中々に難しい魔法なんだがなぁ…あの阿呆女はソレを呆れた目的で制作していてな…はあ……」
「?? しょうもない?」
「いや…何でもない」
ゴーレムを制作していた女、フリーネ・ゴームのことは出来る事なら余り口にしたくなかったブレー。
彼女がゴーレムを制作していた理由は〝男の子を創りたい〟などと言う馬鹿々々しいもので、それをクルスに話す気にはなれなかった。というよりこんな不純な動機など聞く価値がゼロだ。
「(…そういえばあの時、ファストはフリーネさんに抱き着かれていたよね…)」
「(いや待て! アレは彼女から突然抱き着いてきた事はサクラも見ていただろ!)」
「(なーんか鼻の下伸ばしていた様な…)」
「(伸ばしていない!!)」
なにやら小さな声でヒソヒソと話している2人をジト目で見ているクルス。
自分たちを訝しむ視線に気付いた2人はとりあえず話を打ち切った。まだサクラが少しファストの事を横目で見ているが……。
「んんっ、話を戻すぞ。それで俺が聞かされた話っていうのは事件解決後にフリーネは遺跡を管理していた村へと罪滅ぼしも兼ねて生活することになっただろ。だがそこでまた問題が起きたみたいでな、俺達を指名した専属の依頼が送られて来たらしいんだ」
「フリーネさん、また問題起こしちゃったのかな…」
「…あの女ならやりかねんな」
自分達を指名した、かつて依頼を引き受けた村からの再依頼。そこに住んでいるフリーネのことを考えると彼女がまた面倒事を引き起こしたのではないかと3人は思わず勘ぐってしまう。依頼の内容は伏せられておりただ来てほしいとの事。それが尚更フリーネが何かしたのではないかと勘ぐってしまうのだ。
「それでだ、闇ギルドのことは気にはなるが…まずはこの専属依頼を引き受けて欲しいと受付で頼まれてな…」
「…無視してもいいのではないか?」
白状とも取れるブレーのセリフではあるが、わざわざ指定までしてきて送られた仕事である。それを無下にすればアゲルタムのギルド全体に対して不評が高まりかねない。その辺についての話も受付で聞かされていたのでファストはこの依頼を引き受ける様に既に承諾済みだ。
「まあ、先程は俺達を指名したと言っていたが最悪俺だけでも来てくれればいいと言っていたからな。それに大至急という訳でもないらしい。お前たちは気乗りしないなら残ってもらっても構わないが…」
「おい、本当に何か問題が起きているのか? ただお前に逢いたいだけの口実なのではないか? ましてや早急でもないのなら尚更だ」
「どう…だろうな…」
ブレーの考えは正直なところ自分ももしやと感じていた。だが、もしも助けを求めているなら放置しておく訳にもいかず、それに既にファストはこの依頼を引き受けると承諾してしまっているのだ。
「とにかく、後日に俺は出かけるつもりだが他の皆はどうする?」
「私は一緒について行くよ。ファスト独りで遠出させるのは少し危ない気がするし…」
「まあそうだな。闇ギルドの連中が道中狙ってくる危険もある」
「私も行きたい。純粋に興味もある」
こうして他のメンバーも今回の依頼に同行する事となった。
こうして話も終わり、ブレーは自身の家へと帰って行った。他の3人は同じ宿に住んでいるのでブレーを見送った後はそれぞれ自室へと戻って行った。
「ふう…」
自分の部屋の中で小さくため息を吐くファスト。
ベッドの上に腰を下ろし、そのまま背を倒して仰向けになる。力の無い目で天井のシミを見つめながら、今日1日の出来事を振り返る。
「中々にハードな1日だったな…」
闇ギルドの女剣士との戦い、そして自身のマスターからの愛の告白を受け、彼の体力と精神は随分と疲弊していた。特に精神面の方の疲労はとても大きかった。
ブレーに引き続きサクラにまで告白をされ、独りになった今ではイロイロと悩んでしまう。
「ブレーに返事を出していないのにサクラからも告白されるとは…」
自分のいったいどこが良いのか本人には理解できなかった。
だが、それでも2人の少女が自分を好きだと言ってくれたのも事実。2人が自分に放った〝好き〟という言葉を脳内で再生すると、彼の頬が僅かに赤くなる。改めて思い返してみると中々に恥ずかしい……。
しかし恋に現を抜かしている暇など今の自分には無い気がする。闇ギルドもそうだが、自分がこの世界に呼ばれた理由はこの世界の男性減少の謎の解明を任されたからである。しかし、この世界で産まれてしばらく経つが未だに有力な情報は得られていない。
「(闇ギルドの連中はどうなんだろうな? もしかしたら表側の人間より情報を持っているかも…)」
裏の世界で生きている人間は世界の汚い部分、一般の者では知り得ない事実をごまんと熟知している筈だ。そして自分が知りたい男性が消えた理由なども、そういう裏世界では何か一つは有力な情報が転がっているかもしれない。
「(世界から消えて行った男性達。そして何故かそれを深く疑問視しない女性達の対応…男性が消えただけでなく、もしかすれば女性達も気付いていないだけで何か被害を受けている可能性もあるよな……)」
天井に視線を固定しながら色々と頭の中で考えるが、この場で考えても答えが出るわけも無い。手掛かりが一切ない状態でどれだけ考えても予測など無尽蔵に湧いて来る。だったら今はどれだけ考えたところで時間の無駄だと判断したファストはそのままゆっくりと瞼を降ろしていき、視界を完全に閉ざした。それからすぐに意識が底へ底へと沈んでいき、夕食まで一眠りしようと考えたと同時に彼の意識は闇に溶け込んで行った。
「すー…すー…」
規則正しい寝息を立てながら眠りにつくファスト。
しばしの間、彼は夢の中へと飛び立ち今日1日の疲労を回復させるのであった。




