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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第八章 弱気な少女、生まれ変わり編
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少年、共に戦ってくれるように頼む


 道中で気絶しそうなサクラを何度も支えながら、行きの倍近くの時間を消費してようやくアゲルタムの街へと帰還を果たしたファストとサクラ。街に着くころには彼女の精神状態もようやく安定したようで、今は僅かに照れを見せてはいるが道中の様に気絶する心配はないだろう。

 最悪、お姫様抱っこをして街に戻る事になるかもと懸念すらしていたファスト。そんな事になれば街中から注目される事は間違いないので一先ずは安堵した。

 しかし、残念ながら彼には新たな面倒事がギルドで用意されていたのであった。




 ひとまず2人はギルドへと足を運んだ。

 依頼の魔獣は結果的には討伐した事になるが、それを実行したのは自分たちではない。目的地に到着した時には既に魔獣は狩りつくされ、しかもそれを実行したのは闇ギルドの女性であったのだ。とりあえずはこの事実の報告はして置かなければならないだろう。

 ギルドの中に入ると、受付にはクルスとブレーの2人が受付嬢と何やら話し込んでいた。


 「ブレーとクルスじゃないか。何しているんだ?」

 「何か話しているみたいだけど…」


 二人が受付まで足を運ぶと受付嬢と話していた2人もこちらの存在に気付いた様で、ブレーが自分たちへと手招きをする。

 

 「2人共、仕事はもう終わったのか?」

 「ああ、別段難易度も高くない仕事だったからな。しかしお前たちもやけに早くないか?」


 クルスとブレーの2人はこの街中で行う星一つの軽い仕事ではあったが、ファストとサクラの2人は難易度はそこまで高くはないがこの街の外での仕事である事は受付嬢から聞いていたので予想よりも早い帰りに少し驚いていた。

 

 「ああ…少しイロイロあってな。後で話すよ」


 自分たちの仕事が早く終わった理由は既に討伐目的の魔獣達が惨殺されており、そもそも仕事をせずにただ往復しかしていないのだ。となれば予測より早く帰って来れて当然である。

 兎に角2人には今回の出来事は追々話すとして、まずこの事実を受付嬢へと話しておく事とする。しかし何故2人は仕事が終わった後もこのギルドに留まって居たのだろうか? 


 「お前たちはどうしてまたギルドに? たった今仕事が終わった所だったのか? それとも後日受ける仕事を予約でもしていたのか?」

 「いや、実はお前とサクラを待っていてな。詳しい話は彼女から聞いてくれ」

 

 ブレーはそう言って受付嬢に目配せする。

 ファストとしても彼女に報告して置く話があるので丁度良い。


 「サクラ、少しいいか?」

 

 仕事結果を報告しに行ったファストをよそにブレーはサクラへと近づき、彼女の告白の行方を尋ねる。


 「どうだったんだサクラ? ちゃんとアイツに自分の気持ちを告げれたか?」

 「……」


 ブレーの質問に頬をほのかに朱に染めるサクラ。

 返答はなかったが、彼女はハッキリと首を縦に振って応える。その仕草だけで彼女が自分と同じく彼に好きだと告げたことを理解でき、彼女はまるで自分のことのように嬉しそうに笑ってくれた。


 「そうか…良かった」

 「…はい、やっと言えました」

 「これでようやく同じ条件だな。ふふ……ん?」


 サクラが自分と同じくファストに想いを気付いてもらえたにも拘らず、彼女の表情は僅かばかりの曇りが見え隠れしたのだ。

 

 「…何かあったのかサクラ? 今のお前からは違和感が感じるぞ」

 「…鋭いですねブレーさん。実は…仕事で大きな問題が発生しまして…」

 「問題だと? 何かミスでもしたのか」

 「いえ、そういう訳ではありません」


 そう言ってサクラは受付で仕事の結果を報告しているファストに視線を移す。それになぞられる様ブレーの視線もファストへと向けられる。

 会話内容までは聞こえないが、ファストの話を聞いている受付嬢はなにやら驚いた様な表情をしている。


 「…本当に何があった?」


 視線をサクラに戻して2人がこの仕事で何を体験したかを追求するブレー。


 「あとで話すつもりです。クルスちゃんにも…」


 そう言ってサクラはクルスに視線を向けながら、後で必ず話すと約束をする。

 そんな話をしてると報告が終わったファストが自分たちの元へとやって来た。


 「とり合えず今回の仕事に関しての報告は終了だ。一応…報酬も貰えたが……」

 「何やら含みのある言い方だな。一応とは…」

 「サクラ、まだ話してないのか」


 ファストが事情説明を済ませたかどうかを聞くと、彼女は首を横に振った。

 

 「そうか…ブレー、それからクルス、少し大事な話があるんだ」


 そう言ってファストはブレーとクルスを連れてギルドを出る。

 何やら異様な雰囲気にクルスは始終首を傾げ続け、ブレーは緊張した面持ちであった。そのまま四人はファストとサクラが宿泊している宿屋ヒールへと足を運んだ。




 宿に到着した四人は全員ファストの部屋へと入室する。

 そしてそこでファストはブレーとクルスの2人へと話す。依頼のあった場所に現れた闇ギルドからの刺客。そして彼女がファストを狙ってやって来た事も。

 闇ギルド、ビィトゥレェィアルの名を聞き、ブレーの表情は驚愕に染まっていた。サクラの言っていた通り、そうとう有名な悪名高いギルドである事を彼女の反応から再認識した。クルスの方は奴隷として扱われていた過去があるので世間の情報には少し疎かったようでファスト同様話を聞いてもピンと来なかったようだが、ブレーの反応を見て危険な相手である事は認識できた。


 「まさかそんな事態になっていたとはな…」

 「でも二人共無事で良かった」


 とりあえず無事に帰って来てくれた事に安堵する2人。

 だが、肝心の襲撃者に逃げられた以上は再びファストの前に敵が表れる可能性は十分にあった。


 「それでファスト、話した結果なんて言われた?」

 「それぞれの地方ではギルド同士で連盟が築かれているんで、この情報を盟約を結んでいる他のギルドにも報告し、連盟の管理を行っている〝魔法評議院〟にも連絡を送るそうだ」

 

 ファストが話し終えると、ブレーは大きくため息を吐いた。彼女は何処か諦めた風に口を開いた。


 「過去にも別のギルド経由で闇ギルド討伐に関する仕事がこの街のギルドにも回って来たが、結局は何の手がかりも見つけられず、トカゲの尻尾程度の雑魚しか狩れずにうやむやに終わった事がある」

 「…随分と詳しいな」

 「まあな。なにしろその討伐依頼は私も引き受けた一人だからな」


 その話を聞きファストだけでなくサクラも驚いていた。


 「ブレーさん、イトスギの街以外でも闇ギルドと戦った経験が…?」

 「ああ、と言っても私が討伐を受けた闇ギルドはビィトゥレェィアルの様な大物ではなく雑魚であったがな」

 「……そうか、ブレーは闇ギルドとは何度も戦っている訳か」


 彼女のその経験は非常に心強くはある。しかし狙われているのは自分なのだから、2人は戦う必要がない。だが、それでも力を貸してくれるのならばとても嬉しい。


 「ブレー、クルス、二人に頼みたい」

 「…何だ?」

 「なに?」


 ファストはサクラの時と同様に頭を下げ、共に戦ってくれるように頼む。

 

 「この先もしもビィトゥレェィアルの連中と戦う事となった場合、力を貸してくれるか。もしも無理だと言うならそれでも……」

 「ふん…愚問だな」

 「うん。そんなの決まっている」


 ファストが全てを言い切る前にブレーとクルスは各々の答えを告げる。


 「仲間の頼みを無下にはせん。ましてや好きな男が狙われているのならば尚更だ」

 「うん。私もファストに助けられた。だから恩返しする」


 その言葉はファストにとってとても嬉しい返答であった。

 戦いに巻き込んでしまう申し訳なさはあるが、それ以上に自分を想ってくれる気持ちはとても嬉しく感謝した。

 そんな風に胸の内で喜んでいると、サクラが自分へと微笑んだ。


 「だから言ったでしょ」

 「ああ…そうだな…」


 自分は改めて最高の仲間に巡り合えた事を実感するファスト。

 この時ほど、自分を彼女達の元へ産み落としてくれた創造主の神に感謝した事は無かったかもしれない。

 いつの間にかファストの表情はサクラと同じく優しい笑みが浮かんでいた。


 

 

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