少女、勢い余って告白してしまう
「くそッ、まんまと逃げられた!」
目の前の死人を一刀両断しながら、ファストの悔し気な叫びが森の中に木霊する。
死人達を呼び出した主は既にこの場に居ないにも関わらず、亡者たちは構うことなく2人の行く手を阻み続ける。
「フレイムスピア!」
サクラの投擲した炎の槍が死人の1人に迫るが、それを回避して手に持っている斧を振り下ろす死人。
明らかに以前の墓地で戦った死人よりも今回の死人はレベルが上であり、サクラも苦戦を強いられていた。
「っ、避けられ…!?」
「伏せろサクラ!!」
「!!」
ファストの声に反応して勢いよくしゃがみ込むサクラ。その直後、彼女の頭上を突風が吹き抜けて行き、彼女の前方に居た死人達はまとめて吹き飛ばされる。
「今だサクラ! 撃てぇッ!!」
「やあぁぁぁぁッ!!」
マナを最大限まで高め、無防備に空を舞う亡者達に広範囲で炎をぶつける。
そこへファストが刀に風を纏わせ、亡者たち目掛けて刀を思いっきり振るった。風の斬撃は空中で身動きが取れない死者達の上半身と下半身を二分した。
全ての亡者を片付け、サクラの元へ駆け寄るファスト。
「大丈夫かサクラ?」
「うん、大丈夫。ファストの方は?」
「こっちも無事だ。それにしても……」
クチナシの消えて行った方角を眺めて歯噛みするファスト。
闇ギルドの人間をムザムザと逃がしてしまい悔しそうな表情をする。もしもあのクチナシとやらを捕縛できていればイトスギの街で逃がした仮面の女、ひいてはギルドその物を壊滅に追い込めたのかもしれなかったのだが……。
それにしても彼には他に1つ気になっている点があった。
「あの女、俺を狙って来たと言っていたが…」
「…どうしてファストのことを……」
「いや、それよりも……どうして奴は俺が此処に現れる事を知っていたんだ?」
クチナシは自分たちよりも先にこの森へと間違いなくやって来ていた。
自分たちが討伐依頼を受けていた魔獣を惨たらしく惨殺していたことから、偶然この場に居た訳ではないだろう。つまり、あのクチナシは知っていたという事だ。自分が今日、この森にやって来る事を……。
「……」
もしそうだとすれば、考えたくはないが自分が所属しているギルド、もしくはアゲルタムの街には内通者が居る事となる。
「サクラ、今日俺たち2人がこの森にやって来る事…今回の仕事を引き受けた事を話した相手は誰だ?」
「え…?」
ファストの質問を聞き、彼女は彼が何を言いたいのかよく分からず疑問を感じながらも質問に答える。
「えっと…あの時はギルドの掲示板前には他にも大勢人が居たし、それに受付に依頼書を持って行った時にも他にも大勢人が居たし…う~ん…」
「つまり…この依頼を引き受けた目撃者は大勢居ると……」
それにその場に居なくとも後からギルドに訪れた者が自分たちの行方を受付で訪ねた可能性だって十分考慮できる。そもそも、アゲルタムの街に内通者がいるという保証はない。もしかすればあのクチナシは他の方法で自分を見つけた可能性だってある。
「サクラ…聞いてほしい」
「え、何?」
「……」
ファストは少し言いづらそうに目を伏せる。だが、自分の考えがもしも的中していれば彼女は自分の傍から離れた方が良いかもしれない。そうすればこの先、少なくとも今回の様にサクラが巻き添えを食う可能性は無くなるだろう
「これから先、俺とお前は一緒に居ない方が良いかもしれない」
「………え?」
少年の言葉が理解できず、間抜けな声を出してしまう。
突然そのような事を言われても理解など出来る筈も無い。あまりにも唐突な彼の発言はサクラの思考を停止させるには十分であった。
そんな彼女から目を逸らしながら彼は続ける。
「あのクチナシの所属しているギルドはどうやら俺を狙っているようだ。しかも、今回ピンポイントでこの場に姿を現したことからアゲルタムの街には内通者が居る可能性もある。まあ街に内通者という考えは俺の杞憂なのかもしれないが…だが、少なくとも危険な闇ギルドが俺を標的としたのは事実だ」
「…それで…?」
「…少なくとも俺は街を出た方が良いかもしれない」
ファストの話が終わり、森の中は再び沈黙に包まれる。
突然別れを切り出してもサクラはきっと納得出来ない事だろう。だが、これが一番最良の選択であるはずだ。そうすれば少なくとも彼女は危険から遠ざけられるのだから。
だが、ファストは一つ読み違いをしている部分があった。それはサクラが自分に恋をしているという事だ。唯の仕事仲間と言う関係であれば彼女も納得したのかもしれないが、恋する乙女はそんな言葉では止まらない。
「…イヤだよ」
「え…?」
「そんなの嫌!!」
「お、おいサクラ?」
突然大声を至近距離で発っせられ思わず後ずさるファスト。
サクラはぷんと怒った顔をしながらズンズンとファストに詰め寄り、彼の胸元に指を指しながら怒りを露わにする。
「どうしてそんな風に自分を犠牲にしようとするの! そんな事言われて私が自分は助かるんだと安堵すると思っていたの!!」
「いや、別にそうは考えては…」
「嘘だよね。考えていたでしょ! そうじゃないならこんな馬鹿な事言わないもの!」
「えっと…いえ、安堵すると言うより渋々納得してくれるのではと自分は思っていました…」
「同じ事だよね!?」
「……はい」
マシンガンの様に彼女は怒りの言葉を捲し立てる。
今まで大人しいイメージがあったサクラの豹変に思わず彼は敬語で話してしまう。それ位に今のサクラは怖かった。普段大人しい人間ほど怒るときは怖いものだと聞いたことはあるが、まさかそれを自分が体験するとは思いもしなかった。
尚も彼女の怒りは収まらず、今度は胸倉を掴まれる。
「そもそも私は今日自分の想いを伝えようと覚悟を決めていたのにそれよりも先にそんなこと言われてしまえば怒りも倍増するよ!」
「な、何ですか? その伝えたい想いとやらは……」
「ファストのことが好きだってことだよ!!!」
「……え?」
「あ…言っちゃった…」
今まで怒鳴っていたサクラであったが、勢いに任せて今まで言えずにいた告白をアッサリと伝えてしまった。今までの興奮が徐々に引き、彼の服を掴んだまま俯く。
「あ~……」
突然告白され恥ずかしそうに頬を掻くファスト。
正直、この状況をどう収めればいいか分からず立ち往生してしまう。まさかこの場面で告白されるとはファストにとってもサクラにとっても想定外の事であった。
今まで口に出せずに困っていたのだが、こんな状況で勢いに任せて告白してしまった事が正解とも思えなかった。
「サ、サクラ。その…お前、俺のことが――――」
「もうッ! そうだよ、好きだったの!!」
もう好きだと告げてしまったので吹っ切れたのか、開き直った様にサクラはファストに再三思いの丈をぶつける。もはや羞恥心など捨て去り、このまま勢いに任せてしまう方向へと持って行ったのだ。
「ずっと前からあなたのことが好きになったの! だからブレーさんが告白したって聞いて驚いていたんでしょ!!」
「え、あ…そうだったのか」
「そうだよ! と言うよりもうこの際言わせてもらうけどファストは少し鈍いよ! ふつう少し位は思わないの? あれ、もしかしてオレに気があるんじゃないかなっ…とかさ!?」
「いや…全然」
「この鈍感男め!!」
顔を真っ赤に染め上げ、それが最早怒りが原因か羞恥心が原因かサクラ自身判別が出来なくなっていた。
先程まで重い空気が漂っていたにもかかわらず彼女のこの告白で場の空気は一変してしまっていた。
ファストも今の今まで自分が狙われた事実など完全に抜け落ち、目の前で混乱しているマスターをなんとか落ち着かせようと奮闘していた。
「と、とりあえず落ち着けサクラ! 多分今のお前、興奮しすぎて半分位何を言っているのか理解できていないぞ!!」
「もう、口にしないでよ! 冷静さを取り戻すと尚更恥ずかしいんだから!!」
「ぶべらッ!?」
サクラの勢いよく振りかぶった平手打ちがファストの頬を直撃した。
甲高い音と共に先程のクチナシの攻撃に引けを取らない衝撃がファストの身体を吹き飛ばしたのだった。




