少年、闇ギルド相手に圧倒する
森の中では二人の男女が激しく刀をぶつけ合い対峙していた。
互いに超高速で刀を振るい続け、相手よりも先に目の前の敵に自らの刃を通す事に全神経を集中する。
「シィッ!」
「ふッ!」
ガキィンッと一際強い金属音が鳴り響き、戦っている男女が唾競り合いの状態となる。だが、敵の女性は自ら身を後ろへと引き、そのまま空中へと跳躍する。その後を男性が同じく空へと跳んて追撃を加えんとする。
空中へと飛びあがった二人の勝負を地上からは1人の少女が呆気にとられながら眺めていた。
「は…速い」
地上から2人の勝負を眺めているサクラがそう呟く。
空中ではそんな彼女を置いてきぼりに2人の男女、ファストとクチナシが高速で刀を振るっていた。
「はあぁぁぁぁぁッ!!」
「ぐ…くく…くぅ…っ!」
気合の籠った声を発しながら刀を振るうファスト。
その無数の斬撃をなんとか必死に受け流すクチナシ。
「なんとか援護をしたいけど…」
サクラはマナで変換した炎をその手に宿してはいるが、それを敵であるクチナシにぶつけることが出来ずにいた。
なにしろ、空中で戦っている2人の速度は圧倒的に速く、サクラは目で追うのがやっとなのだ。下手に攻撃を加えようとすれば狙いがそれてファストに攻撃をぶつけかねないのだ。その一瞬が彼の命取りとなるかもしれない。
「でも…」
上空の戦いを見つめながらサクラは自分の手助けは必要は無いと半ば感じていた。
「落ちろ!!」
「ぐはッ!!」
ファストの風を纏った拳の攻撃で地面へと弾き飛ばされるクチナシ。
拳自体は避けたが、拳の周辺を渦巻く風の塊が彼女の身体を大きく吹き飛ばしたのだ。
「ぐふっ…」
口元から僅かに零れる血を拭いながら、彼女は地面へと激突する直前に落下しながらも近くの木を蹴りつけ、そのまま木々を蹴り移りながら下降して行きダイレクトに地面へと激突するのを避ける。
落下の威力を分散したとはいえ、風の打撃による勢いで地面に勢いよく滑るように着地する事となったクチナシ。
彼女の脚には強い衝撃が加えられ、今まで能面の様であった彼女の顔には僅かではあるが苦悶が表れる。しかし、すぐに元の無表情へと戻る。
そして後を追う様に上空からファストがクチナシと対峙するように着地する。
しばし睨み合う2人、静寂の中先に口を開いたのはクチナシの方であった。
「本当にお強いですね。私も多少腕に覚えはあったのですが…正直押され気味です」
「それが分かっているなら大人しくしてくれると有り難いんだが?」
「申し訳ありませんがそれは容認できません」
そう言って再び刀を構えるクチナシ。
この状況でもなお自分の命を狙うクチナシにその理由を問うファスト。
「そもそも何で俺の命を狙う? 俺に何か恨みでもあるのか?」
「いえ、私個人は貴方に恨みは一切ございません。しかし〝組織〟は貴方の存在を疎ましく思っている様ですので」
「…組織だと?」
どうやら目の前のクチナシとやらは個人的な憎しみではなく、組織とやらの命令で自分を狙っているようだ。だが、ファストには恨みを買う様な事を働いた組織などには心当たりなどない。
それにはサクラも同じ想いであった。そもそもファストが誰かに怨恨を持たれるような行為を働いているとは思っていない。
「どこの誰だ、俺を邪魔だと思っているのは…?」
「それは答えられません」
期待はしていなかったが、やはり彼女は自分を狙う存在、そして自身が所属している組織について話す気は無い様だ。
これまでの自分の行いを振り返るが、アゲルタムの街では身に覚えがない。となれば街の外へと仕事に出た際に自分でも気づかないうちに因縁が出来上がっていたのか?
「(これまで俺が出会ってきた人物、そこから今の状況に繋がりを持つ人物と言えば……)」
そこまで思考が行くと彼の中に一つの可能性が導き出された。
「そういえば少し前に闇ギルドの女と戦ったが…そうか、お前の言う組織は以前俺が戦った闇ギルドのことか」
「……」
「その沈黙は肯定だと捉えてもいいのか?」
そこまで言うとクチナシは観念したように大きくため息を吐いた。
「その通りですよ。我々のギルド〝ビィトゥレェィアル〟のマスターの命を私は受け、貴方の排除にやって来ました」
「ビィ、ビィトゥレェィアル!?」
クチナシが告げたギルド名を聞き、サクラが驚愕を表す。
告げられたギルド名に覚えがないファストはサクラにそのギルドについて質問をする。
「知っているのかサクラ? コイツのギルドを」
「…有名だよ」
この世界へとやって来たばかりのファストが知る由も無いが、クチナシの所属しているギルドは数ある闇ギルドの中でも凄まじい悪名を轟かせていた。
自分たち、アゲルタムの街には訪れていないが他の国のギルドをいくつも壊滅させたという話は何度も耳にしており、時には小国に大打撃を与え大勢の死者を出し、隣接している国にまで恐怖を与えたという話も聞いている。
メンバー構成は少数だが、その中には指名手配を受けている凶悪犯も所属しているらしい。
サクラから話を聞いたファスト。そうなれば益々目の前の女を逃がす訳にはいかない。
「以前、イトスギの街で私の仲間の1人が手酷い迎撃を受けたと報告がありました。放っておくには危険だと我らの長は判断し、ギルドの中でもそれなりに腕の立つ私が送り込まれたという訳です」
「なるほどな。あの死者を弄んでいた仮面女の仲間か……」
「はい…しかし話に聞いていた以上のその腕前、正直参りましたよ。今の世の男性方はハッキリ言ってその心は腐敗していると思っていましたが貴方はソレとは真逆にとても勇猛果敢ですね」
素直に今の攻防を始終押されていたクチナシは純粋に賞賛の言葉を送る。
「残念だったな。少なくとも俺は国宝として崇められて何もしない男共よりは働き者なんだ」
「でしょうね。まさかここまで歯が立たないとは…」
クチナシはそう言うと刀を鞘に納め始める。
「このまま戦っても私に勝ち目はありません。ですので――――」
「だったら何だ? 大人しく降伏してくれるのか?」
「いえ、尻尾を巻いて逃げさせていただかせてもらいます」
堂々と告げられる敵前逃亡に一緒に話を聞いていたサクラは思わず「ええっ」と声を出してしまっていた。そしてファストの方は瞳が鋭くなり、彼の身体から風が小さく吹き荒れる。
マナによって変換された風は草木を揺らし、クチナシの長髪が風になびく。
「…このまま逃がすと思うのか?」
風を巻き上げながら刀を構えるファスト。
一見無表情を貫いているクチナシであるが、その内心はかなり緊張していた。
「(まさか更に力が上昇しようとは……)」
ファストのマナは今まで自分と戦っていた時よりも遥かに上昇しているのだ。
先程まででも自分よりも上の領域の存在である事を痛感されていたにも関わらず、今は更に目の前の少年の力は強大さを増している。それなりに腕に自信を持っていた自分であるが、目の前の少年に浴びせられるこの力を前に自分が井の中の蛙である事を思い知らされる。
しかし、相手の実力がどうであれ捕まる訳にもいかない。
「(いざという場面に備えて彼女からコレを借りて正解でしたね)」
クチナシは懐から1枚の紙を取り出す。
彼女が取り出した紙は魔法陣が描かれており、それを見てファストがイトスギの街で戦った仮面の女を思い出す。
「あれは…!?」
「足止めお願いしますよ」
ファストが動き出すよりも早く、クチナシが取り出した紙に描かれている魔法陣が光り輝き、クチナシの前に壁の様に複数の兵士が立ちはだかる。
壁となって立ちはだかる兵士は皆、身体が腐敗しており肌が土色に変色している。
「これは…死人!?」
サクラが炎の槍を作り出し、それを構える。
彼女の脳裏にはイトスギの墓地での戦いが蘇えって来る。
「またあの魔道具か!?」
「それでは、私はこれにて」
「!? 待てッ!!」
兵士を囮にその場から全速力で離れるクチナシ。
追いかけようにも死人がファストとサクラ目掛けて襲い掛かって来て行く手を阻む。その僅か数秒の間にクチナシの姿は完全に二人の視界から消えてしまっていた。




