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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第八章 弱気な少女、生まれ変わり編
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少女、自身の恋心と向き合う


 ファストにすでに告白を済ませていた事実を知り戸惑うサクラ。

 自分の失言に気付いたブレーは思わず自らの口に手を当てるが、時すでに遅し。すぐ傍に居たサクラの耳にはばっちりと聴こえている。

 重苦しい空気が三人を包み、誰も言葉を発する事が出来なくなる。

 そんな空気の中、クルスが三人の元までやって来る。


 「おーいみん……あれ?」


 不穏な空気を感じ取ったの不思議そうな顔で首を傾げるクルス。

 ファストはその場から無言で立ち上がるとクルスの腕を掴んでその場から少し離れようとする。


 「ファスト? どうかしたの?」

 「一旦離れてようか……」


 後ろの二人に振り返る事はせず、ゆっくりとその場を離れる二人。

 残されたブレーとサクラの2人、特にブレーは気まずそうに視線を地面へと向け目の前の少女と直接目を合わせられなかった。

 

 「あの…ブレーさん」


 サクラが口を開くとブレーの肩が小さく揺れる。

 いつもは堂々としたブレーも今のサクラからは寒気を感じ、委縮してしまう。


 「その…告白していたんですか?」

 「……うむ」


 小さな、本当に小さな声で肯定するブレー。

 彼女が自分と同じくファストに恋心を抱いている事に関しては既に分かっていた事なのでそこについては文句などは一切ない。自分もブレーには誰が誰を好きになるかは自由だと言っていたのだから。

 だが、すでに告白を済ませていたという点は初耳だったのだ。故に彼女もそこに戸惑いを隠す事は出来なかったのだ。

 

 「その…ブレーさん。私はべつに怒ってはいませんよ」

 「そ、そうなのか」

 「はい…でも、出来れば告白した事は…その、教えてほしかったかなぁ…て……」

 「す、すまん」

 「ちなみにその告白、ブレーさんがファストが好きだと私に教えてくれた後ですか、それとも前ですか?」

 「……前です」


 言いようのない雰囲気に呑まれて思わず敬語で答える女戦士。

 ブレー本人としても別段隠しておくつもりなどは毛頭なかったのだ。だが、あの日サクラに自分の想いを告げた事で全てを彼女に言い切った気分になってしまっていたのだ。

 だが、あの日にファストを巡って正々堂々と勝負しようと言った手前、確かに自分のこのフライング気味の告白は卑怯な気がしてしまい軽い自己嫌悪の状態に陥る。

 少し気落ち気味の状態になっているブレーの姿にサクラは少し慌てて彼女のことをフォローことをする。


 「あ、あの! 別に私は攻めている訳では…!!」

 「いや、それは分かっているのだが…」


 サクラとしては戸惑いこそあれ怒りは無いが、逆にブレーの心には小さな棘が刺さっているようであまり良い気分はしない。

 すると、ここでブレーはサクラにやけくそ気味に提案する。

 

 「そ、そうだ。ソレならばサクラもファストに思いの丈をぶつけてみてはどうだろうか!?」

 「え…ええッ!?」

 「そ、そうすればお互い対等な条件ではないか!? そ、それがいい。うん!!」

 「そ、そんな事…言われても……」


 自分と同じようにファストに思いの丈をぶつける…つまりは「好き」だと告げる。それはサクラにとっては跳び越えるにはとても巨大な壁であった。彼女はブレーとは違って剛胆な性格とは言えない。引っ込み思案という訳でもないが、少なくとも意中の相手に堂々と告白する程の気概が備わっているとは思えなかった。

 ブレーの思いつきに今度は逆にサクラが視線を地面へと落としてしまう。そこへブレーが少し真剣な声色で彼女に声を掛ける。


 「サクラ…私が偉そうに言えた義理ではない事は分かっている。だが、ファストに想いをぶつけてみてはどうだろうか?」

 「…ブレーさん」

 「今のファストは私の告白をどうすべ気か悩んでいるかもしれない。いや、まあ己惚れた考えではあるがな。だが、もしそうだとすればヤツはサクラの気持ちに気付かず私のことばかり考えるかもしれない」

 「……」

 「そのような展開…私の望む所ではないんだ」


 ブレーは自分のその考えを自惚れと言ってはいるが、サクラは今の話を聞いて正にそうだと考えてしまっていた。

 これまでファストと一緒に行動して彼の性格は大体把握しているつもりだ。彼は少なくとも自分に向けられた想いを適当に考えはしない。ブレーが自分へと贈った恋心、その想いを真剣に考え答えを出す筈なのだ。その際、自分がファストに「好き」だと言わなければ彼は自分よりもブレーのことばかりに悩むかもしれない。


 「(そうなれば…ファストはブレーさんばかり気にして自分の想いに気付かないかもしれない……)」


 そしてもし、そのまま自分の想いを告げる事無くファストとブレーさんが結ばれてしまったら――――


 自分は彼に好きだと言う資格すら無くなってしまう。


 「(そんなの…イヤッ!!)」


 思わず自分の拳を強く握るサクラ。

 そんなのは嫌だ! もし彼が自分を選んでくれなかったとしても、この恋を伝える権利すら剥奪されるなんてイヤだッ!!

 

 「サクラ…」


 拳を振るわせるサクラにブレーは少し躊躇いがちに彼女の名前を呼んだ。

 そして、サクラは視線を地面から目の前のブレーへと向ける。その瞳はとても力強く、先程までの困惑の色は消え失せ何かを決意していたように思えた。

 

 「ブレーさん。私…決めました」

 

 サクラは両手をぐっと握ると、ブレーの眼を見ながら自分の覚悟を伝える。


 「私、この後にファストと一緒に仕事に行く予定があります。そこで私……」


 一度ゴクリと唾を飲み込むと、その続きの言葉を口に出す。


 「私…ファストに好きだと言います」


 目の前のライバルと同じ位置に立つ為、彼女は同じように自分の気持ちを伝える事を口に出す。

 その言葉を聞きブレーは小さく笑った。


 「ああ、変な言い方だが応援してるぞ」

 

 自分の好きな男に告白する目の前の少女を素直に応援するブレー。

 矛盾しているセリフに、自分で言っておきながら思わず小さく噴き出してしまっていた。


 「…ふっ」

 「…ぷっ」


 ブレーが噴き出すと何故だか分からないがサクラも小さく笑い声を漏らしてしまう。


 「ふふ…」

 「あはは…」


 気が付けば二人して小さく笑い声を出して笑っていた。その時の二人の表情は憑き物が落ちた様にとても爽やかな物であった。そしてひとしきり笑うと、二人は互いに挑戦的な笑みを浮かべる。


 「私、負けませんよ」

 「ああ、私もな」


 たとえ結果がどうであろうと二人の関係は決して変わらず、大切な仲間のままでいられるだろう。だが、だからと言って引くわけにはいかない。何よりもここで自分から身を引くなど、目の前のライバルにもファストにも失礼なだけだ。


 「さて、そろそろ戻るか。ファストだけでなくクルスも心配してるだろうからな」

 「そうですね」


 二人はそう言って離れた場所で様子を見守っているファストたちの元まで歩いて行く。

 遠目からファストの少し心配そうな表情が見えた。この後、自分はあの少年に告白するんだと考えると顔が熱くなり、心臓の鼓動が速まる。だが、迷いはもう晴れた。

 そこへクルスが自分へと近づき、少し心配そうに話し掛けて来た。


 「サクラ…ブレーと何を話していたの?」

 「ん~、何でもないよ」

 「…喧嘩…した?」


 クルスがそう聞くと、サクラは笑顔で否定する。


 「喧嘩じゃないよ。ただ、宣戦布告…かな?」

 「??」


 サクラの言葉の真意がつかめず首を傾げるクルスであったが、二人の様子を見る限りでは喧嘩をした訳ではない事は理解できたので一安心する。

 クルスの頭を軽く撫でると、サクラは次にファストに話しかける。


 「ねえファスト」

 「な、何だ?」

 

 彼女はファストに近づくと、彼の手を握ってそっと言った。


 「今日…大切な話があるんだ……聞いてくれるかな?」

 



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