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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第八章 弱気な少女、生まれ変わり編
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少女、選択を迫られる


 武器を手に持ち人質など意に介していない様子のフォルスに盗賊の頭の焦りはより濃くなっていく。

 

 「(は、ハッタリに決まっている。ああして脅しをかけて私がこの女を解放する機会をうかがっているだけだ)」


 恐らく眼前の少年の狙いは人質など無意味であるという態度をとり続ける事で自分がヨミのことを解放してこの場から逃走するタイミングでもうかがっているのだろう。ここで人質から離れてしまう事こそが命取り。

 フォルスが近づいて来る度に恐怖は少しずつ増していく。しかし、その重圧に負けてこの場から逃げ出せば自分は一瞬の内にあの鎌にこの身を刈り取られてしまう事だろう。


 「(お、落ち着け。ここで弱気を見せればあの男の思うつぼだ。まずは一度落ち――――)」


 その時、頭の頬を何かが掠めて行った。

 

 「!?」


 頬に残る僅かな痛みに目を大きく開き、何かが飛んできた前方に意識を向けるとフォルスが鎌を使い地面をコツコツと叩いている。その鎌の付近にはそこそこの大きさの小石が転がっている。自分の頬を掠めたのはあの鎌で弾いて飛ばした飛礫の様だ。

 とうとう直接手を出して来た事により頭は焦りを堪えながら更にフォルス目掛けて警告を発する。


 「おいッ! そのまま足を止めろ!! それ以上近づくならこの女の身の保証は本当にできないぞッ!!!」

 

 自らの腕の中で震え続ける小娘を決して逃がさぬように強く握りしめながら頭が喚くが、それでも少年の不気味さを含んだ笑みは収まらない。だが、代わりに彼の歩行は止まりまだ彼の攻撃が突然来ても対処が出来るギリギリの位置関係で対立する。

 近づきこそしたが、ちゃんと足を止めた事でやはり人質を無視する事はないと心の中で安堵する頭。そしてそれとは対照的にヨミの震えは少しずつ大きくなる。

 腕の中で身震いするヨミの振動を煩わしく思いながらも、再び余裕を取り戻した頭は再度フォルスに武器を捨てるように命じる。


 「はははっ、やはりこの女を見殺しにするほどの冷血男ではないようだ。さあ、武器を捨ててもらおうか」

 「………」


 頭がそう言うと、フォルスは鎌を握りしめている腕を頭上に掲げる。


 「…?」


 その不審な動きに攻撃してくる気は無い様だが、かと言って武器を捨てる様にも見えない。そしてフォルスはそのまま頭上に掲げた鎌を、柄を強く握りしめた状態で勢い良く地面へと突き刺した。

 その行動に頭の身体が一瞬だけ震えた。


 「おい…ヨミよぉ……」


 フォルスが人質とされているヨミへと言葉を掛ける。

 その声色はとても呆れの色が強く含まれており、その瞳はとても退屈げであった。


 「お前…いつまでそうしているつもりだ?」


 フォルスのその問いに情けなく人質に取られた事で幻滅されていると胸が痛むヨミであったが、続く彼の言葉に今の彼が何に対して自分を失望しているのかに気付く。


 「俺と出会ってからオメェはそう…ウジウジウジウジ、ボソボソボソボソとよぉ…何だってそこまで怯えをみせんだよ?」

 「…!」

 「今のお前のその状況、ハッキリ言って自業自得だ」


 人質にされているヨミに対して容赦無く『お前が悪い』と断言して、その言葉がヨミの胸に突き刺さった。だが、それはこの状況でも冷たくそう言われたこと以上に、まさに彼の言う通りではないかという自己嫌悪から来る感情が何よりも強かった。


 「(本当に…フォルスさんの言う通りだ……)」


 この状況、それを作り出したのは他でもない自分の弱さである事が彼の言葉で実感させられた。

 今自分を人質に取っている盗賊も自分が一目見ただけで〝弱い女〟だと、そう思ったからこそフォルスを牽制するために使えると思わせてしまった。もし、自分がフォルスと共に戦うほどの気概を見せていればこのように彼の足を引っ張る状況は発生しなかったかもしれないのだ。

 その事実はさらに彼女の精神を削るには十分であった。だが、そんな彼女にフォルスは続ける。


 「このままでいいのか?」

 「…え?」

 「え? じゃねぇよ。テメェは今の情けねぇままで良いかどうかを聞いてんだよ?」


 フォルスがそう問いかけると、ヨミは下唇を噛んでいた。


 良いわけがない。絶対に良いわけがないのだ。この先の人生をずっと今の性格のまま、弱い自分のままでいいわけがない。そんな事、彼に言われずともずっとずっと自分に言い聞かせて来た。それでも、自分は胸の内の問いかけるだけで今日まで弱いままであった。そして今だってそうだ。悔し気に一丁前に唇をかみしめている癖に、言葉が出てこない。

 

 本当に…どうして自分はこうまで臆病なのだろう……。


 そこへ自分を無視し続けて会話をするフォルスたちにいい加減にしろとばかりに頭が横から口を挟んで来た。


 「おいおいおい、内輪話をしている状況じゃないだろ。今は私がこの〝腰抜け〟の生殺与奪を握り、お前達はそれに従う時間だ」

 

 頭はそう言って再度フォルスに武器を捨てるように警告をする。しかも今度は手に持っている武器の刃でヨミの頬をペチペチと叩いてより強く脅しをかけて来る。

 だが、それでもフォルスはその頭の行いを無視し、ヨミに言葉を送り続ける。


 「なあヨミ、お前は多分心では今の自分のままで良くねぇと叫んでんだろうが……それじゃ結局平行線なんだよ」


 その言葉にヨミの体が恐怖から来る震えとは違い、一際強く震えた。


 「心で思おうが口で声にしようが変わりゃしねぇ。テメーが変わりたいと願うならそれを行動で示さねぇと意味がねぇ。言っておくが俺はいざという時の覚悟なんざ簡単にできる。見本を見せてやろうか?」


 フォルスはそう言うと地面に突き刺していた鎌を抜き、それを構えた。

 だが、武器を再び手に取った所で頭の余裕の笑みが崩れることはなかった。


 「おい…そんなハッタリが通用すると思うなよ」


 そう、いくら構え様が彼が自分が人質に取っている少女を見捨てる事をしない事はもう分かっている。

 自分を無視してこの状況で会話をしていたことは腹立たしいが、あの様子からこの二人の関係は少しばかり深い物と見た。

 この頭が知る由も無い事だろうが、フォルスとヨミの出会いはまだ一日も経ってはいない。だが、二人の関係が少しばかり深いという読みは確かに正解ともいえる。ヨミはフォルスを目覚めさせたマスターなのだから。

 

 だが、彼女は一つ勘違いをしていた。


 「おい、盗賊団の頭さんよぉ…俺がハッタリで乗り切るペテン師扱いは…そろそろやめた方が良いぜ」


 フォルスがそう言うと、彼のマナが一気に高まり彼を中心か風が巻き起こり始める。

 

 「なっ!?」


 その様子から再び彼女の顔には明確な焦りと戸惑いが表れた。

 

 「(ハッ、ハッタリだ! ただの威嚇に決まっている!!)」


 しかし、いくらそう自分に言い聞かせても彼女の中の不安はドンドンと大きく膨れ上がる。

 彼の瞳は今までとは違い、明らかに何かを決意しているように感じて仕方がないのだ。


 「おい、マスター…よく聞けよ」

 「…フォルス…さん?」

 「俺は今から五数えたらそこの薄汚ねぇ盗賊のボスに斬りかかる」

 「な、なんだとッ!?」

 

 余りにもあっさり、そして平然と告げるフォルスの攻撃予告に声を上げて驚きを露わにする頭。

 そんな彼女の反応など気にも留めずに彼は自身のマスターに選択肢を与える。


 「このままそこの女に殺されるか、それとも今のクソ情けのねぇ自分から脱却するかを決断しろ。五秒以内に決めねぇとお前はそこの女に道ずれにでもされ死ぬしかねぇぞ」

 「お、おい! キサマ正気か!?」

 「この五秒で…いい加減に決めろや……」

 「無視をするな!! お前、本気で人質ごと……」


 しかし、頭の叫びは空しく少年は無慈悲に数を数え始めた……。


 「い~~~ち…」

 「(ほ、本気か!?)」


 この時、頭は目の前の少年に気を取られ過ぎて気付かなかった。



 いつの間にか、今まで感じていた腕の中の震えが収まっていた事に……。




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