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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第八章 弱気な少女、生まれ変わり編
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少女、過去の自分を思い返す


 多くの人々が暮らすとある村。そんな村の、人里から少し離れた場所には大きく寂し気な洞窟がある。

 そこは人を喰らう魔獣達が住み着いている獣たちの居住区であった。村の住人達はこの洞窟に住み着いている魔獣達には数年間もの間、頭を悩ませていた。

 村の畑を荒らされるなど可愛いモノ。その村に住まう自分たちすら魔獣達は喰らおうとしてくる。幸い、村の中にも腕が立つ者もいるので死者の数はごく僅か。だが、逆に言えば命を落とした者も少なからずいるのも事実。


 村の者達も魔獣を討伐しようと意気込み、その住みかへと足を運んで討伐を試みるが、残念ながら達成は出来なかった。魔獣の強さもあるが、それ以上に数の多さ、物量の部分が大きかったのだ。それなりの強さを兼ね備え、数も多い魔獣達に苦汁を飲まされる村の者達。

 それ故、村の女性達は外部にこの問題の解決を要請するしかなかった。

 村の女性達はこの村から最も距離が近い町であるロメリア、その街のギルドへと依頼を出した。


 そして、依頼を出してから数日後――――







 村の住人たちを苦しめていた魔獣達の住み家である洞窟、その入り口周辺では赤い液体が四方八方へと飛び散っていた。

 そして、赤い液体と共に大型の魔獣が何匹も横たわっていた。そのどれもが光の消えた虚ろな瞳をしており、頭部や腹部など体のあちらこちらを切り裂かれた跡があり、ソコからは周囲へとまき散らしているモノと同じ赤い液体をドクドクと排出している。


 すると、洞窟の入口から一人の人影が現れた。


 「あ~、つまらねえなぁ…」


 小さな声で何やら不満を漏らしながら一人の朱い髪をした少年が洞窟の内部から出て来た。


 その少年は全てが〝赤〟で染まっていた。


 その少年は朱い髪、そしてその手には赤い鎌も持っている。その鎌の刃には赤い液が滴り落ちている。

 周囲の魔獣の死骸と、少年の持つ鎌に付着している液体から周囲の惨状を作り上げた人物がこの少年である事は明白である。


 「たくっ…あの程度の畜生の始末位テメーらでやれってんだ」


 毒を吐いて鎌に付着している血をピッピッと鎌を振ることで地面へと振り落とす。


 この少年はこの村からの救援の依頼を見つけ、その依頼を引き受けたロメリアのギルドに所属している一人であり、今回この村の魔獣討伐を引き受けた。

 だが、この依頼を無事終えたにもかかわらず、少年の表情は決して満足した晴れやかなモノではなく、それどころか不満に満ち溢れていた。


 「ちっ…難易度が星三つでこれかよ」


 はあ~っと落胆の色を隠そうともせず不満を吐き出す。

 そんな少年に一人の人影が近づいて来る。


 「終わった様ね。お疲れさま」


 仕事終わりの少年の元に水色の髪の少女がやって来て、労いの言葉を投げかけて来た。

 この少女もまた、少年と同じギルドから派遣された今回の仕事仲間、否、正確にはこの二人の関係は唯の仕事仲間というだけではないのだが……。


 「けっ、お疲れなんて労われるほどの仕事なんざしてねえよ……」

 「あらそう…。それより、その服、何とかならないの?」


 少女は少年の今の身なりを見ながら言った。

 

 「あ? 服?」

 「何を不思議そうな顔をしてるのよ。そんな返り血まみれの体で村の人達の前に姿を現せるわけないでしょ」


 呆れた様子で少女は少年の身なりを指摘する。

 少年の着ている服は少女の言う通り、狩りつくした魔獣の返り血に塗れ九割がたが真っ赤な色彩で彩られている。そんな状態で人前に出れば騒ぎになりかねない。

 だが、当の本人は少女の言い分に小さく欠伸をしながら答える。


 「たかだか服に血が付いている姿位、どうってことねえだろ?」

 「あなたはね。でも一般的感性の人間からすれば薄気味悪く映るものよ」

 「そう言うお前は平然と俺をみてんじゃねぇかよ」

 「あなたが私をそう変えたんでしょ…はぁ~…報酬は私が受け取っておくからあなたは此処で少し待ってなさい。ついでに村の人から衣服を譲ってもらってくるから」

 「おいおい、この村、つーか今の世は女ばかりなんだぜ。男の俺が着れる服なんてあるのかよ?」

 「探せば一着位はあるんじゃない? なければ女物で我慢しなさい」


 少女がそう言うと少年は冗談ではないと食って掛かる。


 「ざっけんなッ! それならこの服のままで結構だ!!」

 「主の命だと思う事ねフォルス」

 「いくら主でもきけるモンときけねぇモンくらいあらぁ! てっ、聞いてんのかヨミ!!」


 不満を大声で口にする朱の少年の五月蠅い声を無視しながら水色の少女は依頼達成の報告及び報酬を受け取る為に依頼した村へと足を運ぶ。

 ついでにあのやかましい相方の服も譲ってもらうために……。







 依頼を無事に達成したヨミとフォルス。

 依頼を達成し、村からの報酬を貰い二人は自分たちの住んでいるロメリアを目指して歩いていた。二人の移動手段は徒歩であり、依頼を受けた村までは一日の時間がかかったので、今日もどこかで野宿しなければならない。

 その事にフォルスはうんざりとした表情で思わずダレる。


 「あ~今日も野宿かよ。馬車でも予約しときゃよかったんじゃねぇのか?」

 「別にいいでしょ。馬車賃だってそこそこするのよ」


 ロメリアから今回の依頼を受けた村までは中々距離がある。

 もしもフォルスの言う通り馬車を予約していればそれなりの費用が発生していた事だろう。


 「ハっ、只より安いものはないってか」

 「そんな言い方はやめて。せめて経費節約と言ってちょうだい」

 「まあそれはさておき、お前が見繕ってきたこの服…何とかなんないのかよ」


 自分の今着ている服の襟元を摘まみながらパタパタとばたつかせて隣で歩いている少女に不満をぶつけるフォルス。

 

 「あら、何が不満なの?」

 「これって女モンだろーが」

 「しょうがないでしょ女性しか居なかったんだから。その中でも異性が着用して違和感が感じられない物を選別したのよ」

 「そりゃ分るけどよ…センスじゃねぇんだよな…」


 ヨミの言い分は理解できるためこれ以上強く不満を漏らす事も出来ず、かといって完全に納得したという訳でもない複雑な表情をする。 

 しかし、今の彼女の姿を改めて見てみるとやはり以前の姿とは重ならないものだ。


 そう、まだ自分と初めて出会った頃のあの弱々しさ溢れるあの頃とは。


 「……何かしら?」


 訝しむような目でフォルスのことを見つめるヨミ。

 先程まで移動手段のことや服のことでブツクサと不満を漏らしていた相方が突然静かになったので視線を向けてみると、彼は口元をニヤつかせながら自分を見ているのだ。

 

 「何も面白いことは言った覚えはないんだけど…何か可笑しい事でもあったかしら? 少し薄気味悪いんだけど」

 

 ヨミが毒を吐くと、たまらず思わず吹き出してしまうフォルス。 

 その反応が不快だったのか、ヨミの表情が僅かにしかめっ面になる。


 「何なの?」

 「いやわりぃ。なんだダブらなくてよ」

 「ダブる…?」

 「以前のオメェと今のオメェがだよ。まるで別人じゃねぇか。初めて出会った頃はイチイチビクついて小動物そのもの…いてっ!」


 ニヤニヤ嗤いながら過去の自分を話題にしてくる隣の朱い少年が癇に障り、少年の足に蹴りをお見舞いしてやった。

 しかし、蹴りを入れられても少年は嗤い続ける。蹴られた足を軽く擦りながら「こういう事も前のお前ならやらねぇだろ」などと言って茶化して来る。


 「さっきも言ったでしょ。私がこんな風になったのはあなたのせいだって」

 「そうムクれんなよ。お前自身、昔よりも今の自分の方が好きなんだろ」

 「……ふん」


 フォルスから視線を外すといそいそと先程よりも少し早歩きをして彼から距離を取るヨミ。

 その反応を見てまだ少し、かつての子供らしさも残っているなと小さく内心で笑うフォルス。


 「………」


 ヨミは脚を動かしながら、背後に居る少年の言ったかつての自分のことを思い返していた。

 情けなく、脆弱な精神の持ち主。周囲の目を気にして日陰で生き続けた惨めな頃の自分。そして、その生き方をただ黙って受け入れ生き続けていた。


 だが、そんな自分の生き方を変える転機は訪れた。


 「……」

 「ん、どした?」

 「…何でもないわよ」


 そう、この少年の存在が弱い自分から脱却させる後押しをしてくれた。


 「(過去の私が今の私を見たら、その変わりようにどんな顔をするのかしらね)」


 過ぎ去った過去を思い返す事をしても意味はない。だが、今の生まれ変わった自分の生き方を見直すと時折考えてしまうものだ。

 もしも彼と出会わなければ、自分は今も泣きじゃくるだけの無能のままであったのだろうかと……。

 



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