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少年、明日の決闘に備える

 

 食堂の中へと入って行くと、視界の先には大人数が共同して使うであろうテーブルに、三人の女性が座り話し込んでいた。


 一人はサクラと歳も近く同年代と思われる黒髪の少女、腰まで届くであろう長い長髪。そしてそんな彼女と同じく黒髪で髪を頭の両サイドで束ねたツインテールの年下の少女と思われる子。そして最後は肩よりも僅かに伸びた橙色のミディアムヘアの大人びた雰囲気の女性だ。


 三人は何やら談笑していたのだが、やって来た二人、というよりもファストを見て話しを中断し、こちらに意識を傾けて来た。

 

 「あの人が噂の…」

 「わぁ~、私、男の人を生で初めて見た♪」

 「あら、中々イケているじゃない」


 やって来たファストを見て三人はそれぞれ彼に対して興味津々といった態度を示す。

 

 「三人共揃っているね。皆、この人が今日からここに宿泊するファストさんだよ」


 そう言ってサクラは隣に居るファストに手の平をかざした。そしてそれにつられファストも頭を軽く下げる。


 「これからこの宿で世話になるファストだ。その…よろしく頼む…」

 

 ファストがそう挨拶を三人にすると、彼女達もファストにそれぞれ自己紹介をしてくれた。


 「私はヤイバ・ブシよ、これからよろしくね」


 サクラと歳も変わらないような黒髪の少女がファスト同様に頭を下げて挨拶をする。それに続き、彼女よりも幼い黒髪のツインテールの子が手を上げて元気よく挨拶をしてきた。


 「私はアクア・ネネっていうの! よろしくねおにいちゃん!!」

 「ああ、よろしくな…(おにいちゃん…か……)」


 年下の少女におにいちゃんと呼ばれ僅かに動揺を示すファスト。もちろん表情には出さないように気を付けているが、そんな彼の変化を見通してか、年上と思われる三人目の女性がファストへと顔を寄せてクスクスと笑ってきた。


 「あらあら、おにいちゃんて呼ばれてドキドキしている?」

 「え、いや、別にそんな事は…」

 「えぇ~、そうかしらぁ~」


 ファストの頬をツンツンと突っつく女性。この世界に来てから初めて絡むタイプだったので、僅かに対応に困るファスト。そんな彼の様子を面白そうに眺める女性。


 そこにサクラがファストに対してのフォローを入れてくれた。


 「もう、ヨウカさん。あんまりからかっちゃダメですよ」

 「うふふ、ごめんなさいねぇ」


 そう言って彼女はファストの頭を撫でながら謝罪を述べる。

 そんな彼女の行動にサクラが慌てて彼女の腕を掴んで止める。


 「なっ! 何やっているんですか!!」

 「えぇ~、何って頭を撫でてあげているのよ~」

 「そ、それは見たらわかります!」


 ファストの頭を撫でているヨウカと呼ばれる女性を慌てて止めたサクラ。そんな動揺しているサクラを見て彼女はクスクス笑いながら彼女にも自分と同じ行動を取るかどうか勧めて来た。


 「あなたもやってみたら? 男の子の頭を撫でるなんて一生にあるかないかのチャンスよ~」

 「うえぇぇ!? そ、そんなたいそれた事…」


 顔を赤くしながら悶えるサクラ。

 そんな彼女をからかい楽しそうな女性。しかし、ここでヤイバがその女性に早く自己紹介を勧める様に促してくれた。


 「ヨウカさん、まずはちゃんと自己紹介をして終わらせないですか。このままでは話が進みません」

 「そうねぇ、ごめんなさいねぇ、紹介が遅れたわ」


 そう言うとヨウカと呼ばれていた女性は髪を搔き上げてようやくファストに挨拶をした。


 「初めましてファスト君、私はヨウカ・ドクカ。これからよろしくねぇ♪」


 そう言って彼女はファストの鼻をつんと突っついた。

 余裕のあるその姿にファストは少し戸惑いながら挨拶を返す。


 「よ、よろしく頼む」


 こうして各自、自分の事を紹介するとファストとサクラもテーブルに付き、五人で談笑を始める。その中でファストはサクラと同様に、この世界の男性減少の謎についてそれとなく聞いてみるが、その答えはやはりサクラと似たり寄ったりの答えしか返ってこなかった。


 「(サクラと同じ回答か…やはり誰かが意図的に何かしたとしか……)」


 考えに耽り突如無言となったファストにアクアが彼の服の裾を引っ張って声をかけて来る。


 「おにいちゃんどうしたの?」

 

 そんな彼女にファストは何でもないと答える。


 だが、やはりこの世界は異常だ。彼女達も自分の親など男の縁者関係についてはあやふやだ。そしてなにより、彼女達はそれを――――――疑問に思わないのだ……。


 「(それとなく聞いたが、誰も男性が消えたこと、男性の出生率が低下したことをそこまで危険視していない?)」


 それはこの三人だけではなく、自分を召喚したサクラも同じであった。

 彼女もどこかこの事実に対して普通にしていたというか、そもそも自分からこの疑問を口に出した女性は今のところいないのだ。


 「……」


 明日の決闘に対しての意識が全く向いていない訳ではないが、しかし、それ以上に自分が、いや自分たちが解明を任されたこの謎に関しての疑問、ひいてはこの世界についての現状に彼はますます疑問を深めたのであった……。







 食事が終わり皆との少しの談笑の後、ファストは自室へと戻っていた。


 「明日は決闘だし、そろそろ寝るか…」


 睡眠を十分にとらずに決闘に臨むなどという愚行を犯す訳にもいかない、なにしろ明日の決闘で負ければ自分はギルドに加入する事すらできなくなる。出来る事ならば情報収集のためにもギルドに加入はしておきたい。


 「寝るか……」


 そう言ってベッドに潜ろうとするファストだが、そこへ扉を叩く音が聞こえて来る。


 「ファスト、今は大丈夫?」

 「サクラ、何だ?」


 ファストは扉を開き、サクラの前に姿を現す。


 「その、心配になって…」


 手をもじもじと動かしながら、サクラは下を向いてそう言った。

 そんな彼女にファストはため息をついて答える。


 「意外と心配性なんだな」

 「だ、だって…」


 ファストは握りこぶしを自分の胸の前に構え、彼女の不安を拭おうとする。


 「信じていろ、お前がわざわざ召喚した男だ。そんな男が主の前で無様を晒す気なんてないさ」

 「うん…」


 彼はまだ不安が抜け切れていない彼女の頭をぐしぐしと撫でる。


 「ひゃあ! ファ、ファスト……」

 「そうだな、不安に思い悩むくらいなら、明日は声を出して応援でもしてくれよ」

 「う、うん。そうする…」


 ファストに乱暴ながらも優しく撫でられ、彼女は頬を僅かに赤く染めながらも小さく頷いた。


 「それとお前、もう少し俺に慣れた方がいいぞ。俺の行動にいちいち赤くなっていたらキリがないぞ」

 「ど、努力します」


 そこは普通に分かったと返してほしかったが・・・・・。


 「ファ、ファスト頑張ってね」


 そう言って彼女は自分の部屋へと戻って行った。


 「ふっ…マスターから激励まで貰ったんだ。明日は負けられないな……」


 そう言うとファストは扉を閉めてすぐに布団へと入って行った。


 明日の決闘に備え、万全の体調で臨むために。

 






 その頃、街のはずれ方面にある一軒家では、その家の主であるブレーが家の前で腰を下ろし、空に広がる星を眺めていた。

 彼女の頭の中には明日に決闘をするファストのことを考えていた。


 「あの男、決闘を挑まれても怯まなかったな。そこそこ腕に自信はあるということか…」


 だが、結末は変わらない。他の男よりマシだといっても自分が叩き伏せてそれで終わり、終幕だ……。


 「明日が待ち遠しいな、ふふふふふ……」


 彼女の冷えた笑い声が、黒く染まった中で星により点々と輝いた空へと響いていった……。




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