少年、この世界の謎について考える
外の世界の色が次第に変わっていき、先程まで青い空も、今はどんどん夕暮れの茜色へと変色していっている。このままあと少し待てば、そんな空も全てを塗りつぶすような黒色へと変わって行くだろう。
「………」
自らの部屋でベッドに体を預け、寝ころびながらファストはサクラから聴いた話を改めて思い返していた。
それは、この世界から男性が突如として減少するよりも、それ以前に存在した男性達の行方。しかし…残念なことにその明確な答えはサクラの口から聞くことは出来なかった。
何故なら、彼女にも彼らがどこへ姿をくらましたのか解らないのだから……。
数十分前、ファストの部屋に訪れたサクラから聞いたその答えは予想外のものであった。
「解らない…だと?」
「うん……」
サクラはコクリと首を縦に振って頷く。
「私に限った話じゃないの。他の人も皆、似たり寄ったりのことを……」
「でも、お前やこの世界の住人たちは皆、この世界に男性が居た事はちゃんと知っているんだろう? なのに、誰もその行方が解らないなんて…」
ファストがそう言うと、サクラは自分の中のあやふやな記憶について話し始める。
「ごめんね…その…上手く言えないんだけど、私たちの記憶には男性がこの世界には大勢、確かに居た、と言う事実は認識できているのに、その男性に関する記憶があやふやというか…」
「…? つまり、男性が減少する前まではこの世界の男女比率のバランスは取れていた記憶はあるが、しかし、気が付けば男性の姿は消え、そして男性の出生率が減少したと…?」
「うん…だいたいそんな感じかな…」
サクラがそう言うと、ファストは彼の両親などの情報について質問する。
「サクラ、お前の親は? 例えば父親とか…」
ファストがそう聞くと、彼女は首を横に振った。
「居た…と思うけど、思い出せないの。お母さんは数年前に病で……」
「そうか…」
ファストは頭に手を置き、情報を整理し始めたいとサクラに言うと、彼女は気を使い一度彼の部屋を退出したのであった。
一人になったファストは、ベッドの上で寝そべりながらこの世界の謎について思考を巡らせ始める。
この世界は突然男性の出生率が低下、それ以前に存在していた男性は突如消失、しかも、その消えた男性の記憶が朧だと言う。
これには大きな矛盾が存在する。初めから男性に関する記憶が一切ない方がまだ理解できる。しかし、彼女達は男性が居た記憶はあるのに、その男性に関する詳しい記憶はとても薄い……。
これではまるで、この世界に居た女性達は男性に関する記憶を一部分、いや大部分が都合よく消され、あやふやにされている様に感じる。そう、頭の中にあるこれまでの男性に関する記憶だけを消され、そして片隅には男性が大勢存在したという記憶だけが残っている…そんな感じだ……。
「だが、世界に居る全ての女性に催眠、それとも記憶の消去を施すなんて人間に可能なのか?」
彼の独白がこの一人だけの空間に響いた。
これが魔法の類による影響ならば、最早人の力の域を超えている気がするが……。
「この大きな謎が…俺達がこの世界に呼ばれた理由…か……」
そんな彼の独白に答えてくれる者など存在しない。
この問題の謎を解き明かすのは自分、いや、自分たちの仕事なのだから。
「そういえば…俺以外にもこの世界に送られた奴がまだ何人かいるが…俺の様にもう目覚めているのだろうか?」
ファストは自分以外に送り込まれた少年達の事を想いながら、窓の傍まで移動してすっかりと黒くなった夜の空を眺めた。
空の上では昼間には捕らえることのできない星空が空一面に散らばっていた。そんな星を見ながら、ファストは一つ小さく息を吐いた。
「あ~あ、ブレーさんも勘弁してほしいなぁ…」
夜の街中で、一人の少女が同じギルドに所属している同僚に対し、不満を口にしていた。
綺麗な長髪の金髪に、宝石の様な緑の瞳をした少女が今朝のギルド内での出来事を思い返していた。
彼女の名はライティ・シャーリー。ギルド内ではサクラとは付き合いがそれなりにある少女である。
サクラの連れて来た男性、今や貴重な存在である男を見ることが出来ただけでも幸運なのかもしれないが、しかし、そんな彼が自分たちのギルドに所属する気でいると分かった時は興奮したが、しかし、あのブレーによる提案により、彼は明日の決闘で勝利しなければギルドには入れない事となっている。
「勝てるかな、あの人…」
そう呟く彼女であったが、すぐに自分の考えを否定的にとらえる。
「たぶん無理だろうなぁ…ブレーさん強いし……」
ブレーではないが、今の世では男性より女性の方が強い、という風潮が高い。彼女の言っていた様に男性は自分たちが危険を冒すような生活をする必要がないと分かると、それを甘んじる傾向が強かった。
「でも、今日来た人は違ったな……」
まっすぐな瞳のあの青髪の彼はそんな男達とは違った。そんな彼の姿はとても逞しく、勇敢に思え、彼女や他の女性達にも好印象を与えていた。
「ウチに入って欲しいなぁ…」
しかし、自分がそんな発言をしたところで何かが変わる訳でもない。
ここは、彼の実力に期待するしかないのだが……。
「どうなるかな~…ん?」
自分が宿泊している宿に向かう途中、ライティは何か光っている物を目の端に捉えた。
「何か落ちてる…」
それに近寄って行くと、そこには黄色に光る宝石の様な石と思われる物が地面の端に転がっていた。
「わあ綺麗…ちょっと持って帰ろうかな。どうせただの石だろうし……」
それを手に持って宿へと向かうライティ。
この翌日の朝、彼女は自分の部屋で混乱の極みに陥る事となる。
ファストが自分の部屋でこの世界の男性減少の謎や、自分と同じくこの世界に居るであろう少年達の事を考えていると、部屋の扉が再び叩かれ、そしてその後にサクラがやって来た。
「ファスト、そろそろ夕食の時間だよ」
「ん? ああ、そうか…」
少し考えにふけていたらいつの間にかそんな時間、この宿は宿泊だけでなく食事も出されることは聞いていた為、ファストは宿にある食堂の方へと足を運んだ。
食堂へと移動しながらサクラはファストにこの宿に宿泊している他の人物達について語り始める。
「この宿には今、他に三人の人間が宿泊しているんだ。食堂でファストの事を紹介するから仲良くしてね」
「おいおい、子供じゃないんだからそんな母親の様な言い方をしなくても…」
ファストがそう言うと、サクラは苦笑しながら、今日のギルド内でのいざこざを話題に持ち出してきた。
「そうは言うけど、今朝はギルドであんな事になったから…」
「うっぐ…そ、それはスマナイ。だが、その心配をするならその三人の性格の方は大丈夫なのか。あのブレーの様に好戦的じゃないか不安なんだが……」
ファストが他の三人の宿泊している女性たちの性格を懸念していると、サクラは笑いながら手を振って彼の不安を拭う。
「そこは心配しなくても大丈夫、みんなとてもいい人だから」
そう言っているといつの間にか食堂の入口まで来ていた二人。
サクラがその扉を開き、そして二人は中へと入って行った……。