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少年、報復をされる


 アゲルタムの街に戻って来たファスト達はその日はそこで解散となった。

 クルスの当面の住む家についてはファスト達が滞在しているヒールに身を置くこととした。その際、お金がないから野宿すると言い始めるクルスにサクラが宿賃ぐらい貸してあげるからと慌てていた。

 

 「じゃあ、また夜の夕食の時間に」

 「うん、お疲れ」

 「お互いにな…クルスもまた後でな」

 「うん…」


 それぞれ自分の部屋の中へと入って行くファストたち。

 ちなみにサクラはしばらくクルスを自分の部屋に泊めると言って共同生活をする事とした。まだクルスを一人にするのは心配の様だ。

 なんだか…本当の姉妹の様に見えて微笑ましさを感じる。


 「ただいまっと…」


 誰も待っている人などいないが、とりあえず帰りの挨拶を一人でしておくファスト。

 自分の部屋へと戻った彼は布団に背中から軽く飛び込み、横になって今日一日の出来事を振り返る。


 ヒールに滞在している他の住人たちもクルスのこれまでの境遇を聞き、彼女を快く受け入れてくれたから

良かった。ちなみに、意外と涙もろかったアーシェはクルスの話を聞いて号泣していた。


 『ぐずっ…だ、だいへんだったね…ぐずっ』

 『でも…サクラやファスト、それにブレーのお蔭でもう大丈夫…』

 『よ、よがっだねぇ…うう…』


 ハンカチで顔を覆って涙声でよかったよかったと何度も頷くアーシェ。その様子を皆は苦笑して眺めていた。ファストもまさか彼女がここまで涙もろいとは思わず、内心では泣き過ぎだろうと呆れていた。


 「まあ…それだけ優しい…と考えれば悪い事ではないがな」


 とりあえず、今までの仕事で今回は一番疲労がたまった。

 夕食の時間まではしばらくおとなしくしておく事としよう。


 「(だが…やはり気になるな…)」


 移動の馬車の中でも考えていた事なのだが、ファストには少し気になる事があった。

 あの仮面の女が蘇らせた死人…その外見は肉が腐り顔の判別がつかない程にひどい状態であった。だが、顔の区別はつかずとも性別の違い位は容易に判別できた。


 そう…あの死人の中には男性の死者も混ざっていたのだ……。


 「(世界から現状では男はほとんどが居なくなった…だが、男の亡骸は存在するのか…?)」


 世界から突然男が消え、更にはそれ以前の記憶もこの世界の住人達からは消えていた。もっと深く言えば、だれもこの世界から突如として男が減少した事実を深く捉えてはいない。正直これまで見て来た街の住人達を見てみると、どうでもいい事…そのように片づけている気がする。


 「(はあ…なんだかますます分からなくなる)」


 この世界で男性が減少した謎の解明、しかし今の所は手掛かりが何もない。

 誰が、何故、何のためにこんな事をしたのか……。


 「寝るか……」


 布団の中に潜り込み、一度寝て頭をリフレッシュしようとするファスト。

 今日は沢山の出来事があり過ぎた。闇ギルドの存在、死者との戦い、そしてクルスがギルドに加入したことなど……。

 

 「(あ…もう一つあったな…そういえば……)」


 クルスを奴隷として扱っていたあのデーブという男。この世界の数少ない同性との顔合わせなど中々に大きなイベントだと思うのだが、記憶にとどめておくことが嫌だったのかすでにファストの脳内からあの男に関する記憶は抹消しようとしていた。

 だが、思い出してみると少しは気になる物だ。そういえばあの後、あの男はどうしたのだろう……? 







 イトスギの街から少し離れたクリスタル王国に行く際に通過する林道。

 そこでは通常よりも豪華そうに仕上げられた馬車が横転しており、その周りには鎧で武装している騎士たちが血濡れの状態で倒れていた。


 その屍が転がっている地獄の中でただ一人、体中を返り血で染めた一人の赤毛の少女が立っていた。

 

 「……がんばるわねぇ…」


 少女の視線の少し先には、肥満体に鞭を打ち全力でその場から走り去っている人影が一つ確認できる。


 「ひっひっひっ…!!」


 少年は涙目になりながら全力で逃げ続ける。

 どこへ逃げればいいか、逃げた後はどうすればいいか、そんな事を考える余裕も無い。ただ今は、自分を殺そうとしているあの少女の皮を被ってる悪魔から逃げおおす事だけが全てであった。


 「なんで、なんでこんな事に!?」


 クリスタル王国からイトスギの街へと出向いたデーブはどうして自分がこんな目にあっているのか分からなかった。

 確かに今日一日は今までにない程に散々な目にあった。鼻を折られ、コレクションの魔道具も盗られ、挙句に奴隷として使っていた女も盗られた。


 だが、今自分が直面しているこの出来事はそれをはるかに上回るものであった。


 「ひっひっ…くふっ…!」


 脇腹を抑えながら必死に走るデーブ。


 どうして、どうして自分が命を狙われなきゃならない!? 


 「遅いわね」


 必死に走っていたデーブの前に、今まで背後に居た少女が一瞬で目の前に移動していた。

 

 「ひぃッ!?」


 進行方向に回り込まれ、すぐさま後ろを向き逃げ出そうとするが、後ろを向くと同時に背中に凄まじい衝撃が走った。少女がデーブの背中に跳び蹴りを入れたのだ。


 「ぶびっ!?」


 短い悲鳴を上げて地面にキスをするデーブ。

 無様に這いつくばるデーブの姿を見て少女はゲラゲラと笑いだす。

 

 「あはははは! 随分無様な姿ねぇ…国の宝ともあろう御方の姿とは思えないわ…」


 ゆっくりとデーブに歩み寄る少女。

 近づいて来る足音にデーブは背筋が凍りすぐさま起き上がって走りだそうとするが、彼が立ち上がるよりも早く少女は倒れ込んでいるデーブの背中を踏みつけ、地面へと固定する。


 「た…たす…助けて…」

 「……」

 「な、なんでこんな事を…俺がお前に何をしたっていうんだ!? そもそもお前は誰なんだ!!」


 突然現れたこの少女はそもそも誰かすら自分には分からない。

 クリスタル王国に帰国の道中、突然現れたこの少女は自分の護衛の騎士を一人残らず殺し、そして自分の命をも奪おうとしている。

 そんな足元で必死に逃げ延びようと足掻くデーブを、まるで虫けらでも見るかの様な目で見ている少女。

 

 「私が誰か分からない…?」 

 「え…何を言って……」

 「よく私の顔を見て見なさいよ……」

 「……あ…ああああああああっ!?」

 「思い出してくれた様ね」


 クスクスと笑う少女の顔。デーブは自分を踏みつけている少女が誰かを思い出した。

 彼女はかつて、自分がクルスを手元に置く前に奴隷として扱っていた少女であったのだ。


 「なんでお前が…生きていたのか…」

 「そうね…ストレス発散の為のサンドバッグとしてアンタには随分と痛めつけられたからね。全身の至る所がアンタに殴られ続け………あの頃はつらかったわね」

 「あ…ああ………」

 

 ガタガタと体を震るわせるデーブ。

 彼女が自分にこれから何をするのかが容易に想像が出来るからだ。


 この赤毛の少女は元はクリスタル王国で暮らしていた少女であった。

 彼女は早くから親を亡くし身寄りのない貧しい生活をしていた。そんな自分にデーブは手を差し伸べてくれ、自分はこの人に救ってもらえたんだと思っていた。

 だが…デーブが欲しかったのは身寄りもなく、頼る当てもない都合のいい少女であった。彼は彼女のことを玩具としてしか見ていなかったのだ。

 デーブに騙され、彼の所有物とされた後は今まで以上に悲惨で苦痛の伴う毎日であった。拳で殴られることは当たり前、酷い時には棒で全身を殴打された事もあった。


 「骨折も何ヵ所したかしらね? 最後は「もう壊れた玩具は要らないんだ」と言われ、クリスタル王国から離れた何処ともわからぬ人気のない場所にごみの様に捨てられた」

 「ゆ…許して……」

 「でも、私は悪運が強かったみたいでね……そんな私を救ってくれた人がいたの。闇ギルドって…知ってるわよね?」

 「お…お慈悲を……」


 恐怖の余り涙を流しながら助けをこうデーブ。

 そんな身勝手な男に少女はにっこりとほほ笑んだ。


 「大丈夫よ…私はこう見えても優しいの」


 少女はデーブの背中から足をどかすと、踏みつけていた部分を優しく撫でる。

 もしかしたら自分は許されたのかと、思わずほっとするデーブであったが、次の瞬間――――


 「あなたみたいにボコボコ殴ったりしないわ。すぐに消し炭にしてあげる」


 彼女の手の平から炎が出て、デーブの全身を一瞬で炎で包み込む。


 「がああああああああああッ!?」

 「どう、私も魔法を覚えたのよ……」

 「あぎぃぃいぃぃいいぃぃッ!? あつ、あづいいいいいいいいいいい!!!」

 

 地面を転げまわり必死に火を消そうともがくデーブだが、炎はどんどん大きくなり彼の全身を焦がし、焼き尽くしていく。


 「ブタの丸焼き一丁、なんて…ふふふ……」


 目の前でもだえ苦しむブタの様子を眺めながら、少女はクスクスと笑い続けていた……。

 



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