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少女、新たな道を進む


 アゲルタムの街ではファスト達が別の街で仕事をしている間、この街の中でも同じく仕事をこなしている者たちも当然いる。


 「ありがとうございました。うちの子を探し出してくれて」

 

 歳を重ねた老婆が目の前に居る二人の女性にお礼を言いながら頭を下げている。その老婆の腕の中には小さな子猫が抱きかかえられていた。

 子猫は老婆の腕の中で安心しきった顔でスヤスヤと眠っている。


 「これは少ないですがお礼です」

 「たしかに…これからは逃げ出さないように気を付けてくださいね」


 女性の一人が老婆から小さな袋に入っている依頼達成の報酬を受け取る。

 それをポケットにしまうと、自分の相棒に顔を向ける。

 

 「無事依頼達成ね」

 「うん…」

 

 依頼を達成した二人組は、ライティとセコンド。

 彼女達は老婆に別れを告げると、その場を後にして歩いて行った。







 「どうセコンド、仕事にはもう慣れた?」

 「うん。もう大丈夫だよぉ、ライティがいつも付いてくれたからぁ」

 「ああ……その笑顔最高だわ♡!」

 「むあぁぁぁ…」


 愛らしい笑顔で答えるセコンドに興奮して、自分の胸元に彼女を抱き寄せるライティ。

 はたから見ればこの光景は仲の良い女性友達が騒いでいる、という風に映っているのだろう。だが、実際は少し違うのだ。


 何故ならこの二人組は女性同士ではなく――――男性と女性の異性の組み合わせなのだから……。


 セコンドと呼ばれているこの少女、実は少女ではなく女装をした少年なのだ。そしてもっと言えば彼はこの世界の住人でもない。

 サクラが呼び出したファストと同じく、彼もまたこの世界の男性減少の謎を解き明かす為に送り込まれた神の使いともいえる存在の一人なのだ。

 

 「おなかがすいたでしょ? 何か食べて行こうか」

 「うん…でも、そのまえに離してぇ……」


 ライティの胸の中で苦しそうな声を出すセコンド。

 苦しそうなその姿に慌てて彼を解放してあげる。


 「ああ、ごめんなさい。余りにも可愛かったから」

 「むぅ…」


 ある日、自分が偶然にも拾ってきた宝石のように輝いている奇妙な石。まさかそれが、今や出会う事も難しい男性、しかもこんな可愛らしい子となり自分を主人として見てくれるなんて夢のような状況であった。

 だが、ライティには少し気がかりな事がある。


 「(とりあえず…セコンドに女装をさせてからというもの、街を出歩いても彼を男とは誰も認識していないわね)」


 セコンドの存在が男であると周囲に広まれば騒ぎになると判断し、彼は街に出る際には女性として振る舞う様に言っている。

 だが、彼女自身は気付いていないが、彼女がセコンドの正体を隠そうとしているのにはもう一つの理由があった……。


 「ねえねえライティ」

 「ん~、なーに?」

 

 手を繋ぎながら歩いていると、セコンドの方から話し掛けて来た。


 「ボク…街の外に行ってみたい」 

 「え…外…?」

 「うん…この街の外、見てみたいからぁ」


 ギルドに登録した後、ライティと共に一緒に仕事をこなしてきたが、それらは全てこの街の中での仕事ばかり。様々な依頼がある中、この街の中で解決できる仕事ばかりでセコンドは内心退屈になって来ていた。


 「この街の外での依頼かぁ…」

 「だめぇ?」

 

 甘ったるい声を出されて思わずクラっとするライティ。

 だが、なんとか倒れそうになるところを持ちこたえ、隣に居る天使のような存在をなだめる様に、優しく約束をしてあげる。


 「分かったわ。確かにこの街だけの依頼じゃつまらないわよね。今度、この街の外まで足を運ぶ依頼を一緒に受けましょう」

 「うん」


 こくりと頷くセコンド。とりあえずは約束も取り付けたので納得をする。


 「その時はどうする? ボクとライティ以外にも誰か誘って仕事……「行かないわ」…ふぇ?」

 

 ライティは笑顔のまま、セコンドが話している途中に食い気味に答えた。


 その時、セコンドは気にしていなかったのだが、彼女の瞳からは光が完全に消え失せていた……。

 

 「ねえセコンド。あなたが男とばれるのは避けた方が良いでしょ? なら、仕事なら私たち二人だけですべきだと思わない?」

 「う~~ん…」

 「ねえ…思わない?」

 「でもぉ…ん~~~……」

 

 首を捻り考えていると、更に顔を近づけてライティは改めて同じセリフを言い聞かせるように繰り返した。


 「ライティ…私たちだけで仕事すべきよ………ソウオモワナイカシラ?」


 鼻が触れそうな距離まで顔を近づけるライティ。

 狂気すら感じる彼女に対し、セコンドは特に動揺を見せることも無く表情を一切変えてない。そしてしばらく考え、彼女の言い分に納得をする。


 「うん、ライティがそう言うならそうする~」

 

 マスターであるライティがそう言うのであれば、それがきっと正しいのだとまるで子供の様に考えているセコンドは彼女の言葉に素直に従った。

 

 「……そう、分かってくれたのね♪」


 セコンドが納得してくれると、再びライティの瞳に光が灯り禍々しい雰囲気も消え去っていく。

 

 彼女がセコンドの正体を隠す理由、それはとても醜い独占欲であった。

 自分をマスターと呼んでくれるこの少年が他の女にすり寄られるのは我慢が出来ない。この子は自分一人だけの存在、自分以外の女が彼と仲良くしている光景を想像するだけで腹の底がとても熱くなるのだ。

 誰にも渡したくはない。セコンドは自分だけの存在。自分だけの…じぶんだけの…ジブンダケノ……大切で、愛おしい存在なのだから。


 「ライティ、どうしたのぉ?」


 とても心地の良い甘ったるい声で名前を呼ばれ、無意識に険しい顔をしていたライティであったがすぐに元の優しい表情に戻る。

 

 「何でもないわ。さ、ご飯でも食べに行きましょ」


 そう言って彼女は、セコンドの手を決して離れぬ様に強く握った……。







 場面は切り替わり、イトスギの街で死人の依頼を解決したファスト達は馬車に乗ってアゲルタムの街へと帰っている最中であった。

 馬車の中には行きは三人であったが、帰りの今は四人となり一人分の人数が増えていた。

 

 「もうすぐ街に着くぞ」


 自分の対面に座っている少女、クルスに話しかけるファスト。

  

 彼女が出した答え……それは自分たちが住んでいる街へと一緒に行きたいとの事であった。


 『私は…ずっと奴隷として扱われていた。でも…もし許されるのであれば…あなた達と一緒に行きたい……』


 とても小さな声であったが、彼女ははっきりと自分たちと共に行きたいと表明してくれたのだ。

 随分とすんなり決めたもんだと思っていたが、恐らくサクラが彼女の心を解きほぐしてくれたのではないかと思う。その証拠にサクラと二人で入浴した後、クルスは自分とブレーに比べるとサクラに少し懐いているように感じた。


 こうしてクルスはアゲルタムの街へと移り住む事となった。

 しかも、彼女は自分たちと同じギルドで働きたいと言ってきたのだ。正確に言えばサクラがギルドに所属している事に興味を持ち、サクラと同じ仕事をしたいと望んだのだ。

 思いのほかなつかれ、サクラも困り顔で苦笑していた。


 その後、街を出る前にファストは街の人々にこの世界で過ごしていたが、突然消えた男性の情報を集めようと聞き込みをしたのだが、結局成果はゼロであった。


 だが、今回の事件でファストには一つ引っかかる点があった……。


 


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