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少女、決断をする


 イトスギの街で巻き起こっていた死者が蘇る事件、その依頼を無事に達成したファスト達一行。

 三人…いや四人はデーブを放置し少女を連れて供に、まずは依頼を無事に終えたことを報告する為に再び町長であるローラの屋敷へと赴いた。

 その後、依頼達成の報酬を受け取り屋敷を出る。その際、万が一に何か再び大きな事件が起きた時は報告が欲しいと伝えておく。


 「(闇ギルドの一件があるからな……)」


 万が一にも、あの仮面の女が再び襲い掛かって来る事は考えておいた方が良いだろう。

 

 とにもかくにも依頼についてはこれで終了した訳だが、ファスト達にはまだ問題が残っている。


 「さて…あとは……」


 ローラの屋敷を出た後、ファスト達は昨日やって来た宿屋へと再び訪れていた。

 ファスト達三人ならばそのままアゲルタムの街へと戻っていたのかもしれないが、今は新たに一人のボロボロの少女が自分たちと供に行動をしているからだ。

 デーブから保護したその少女は体の青アザもそうだが、見る限りまともに入浴もしているようには見えなかったのだ。そこで再び昨日と同じ宿にやって来てお風呂に入れてあげようという事になったのだ。


 二日続けて自分が訪れた事に宿屋の従業員は驚いていたが、それはまあいいとして、ファストとブレーは昨日と同じ部屋でサクラと少女が入浴しているので、二人が上がって来るのを待つ。

 

 「ブレーも風呂に行かなくてよかったのか?」

 「ああ…実はお前に頼みがあってな……」

 「頼み?」

 

 ブレーの表情はなにやら真剣なもので、ファストもつられて同じような表情へと変わる。


 「どうした?」

 「…今日のお前の戦いは正直私の予測を上回っていた。お前の強さは理解していたつもりではあったのだが…そんな私の中の想像の域などお前は軽々と超えていた……」


 一度手合わせした時、負けはしたが自分は目の前の少年の強さを理解していた…つもりであった。

 だが、今日の戦い、闇ギルドに所属している仮面の女を圧倒し、さらにはあれだけ大量の死人達を数十秒で片付け、星四つの依頼をここまで無傷でこなせる者など、どこの街のギルドでもそうそういないだろう。


 「ファスト…私の頼み事…それは――――」


 ブレーはファストの眼をまっすぐと見つめながら、その場で頭を下げて頼み込んだ。


 「私を鍛えてくれ!!!」

 「なっ…」


 予想外の要求に思わず小さく驚きの声を出すファスト。

 まさか自分に指導を頼み込んでくるとは思いもしなかった。だが、ブレーの姿を見れば、これが冗談でもなく真剣に頼み込んで来ている事だけは分かった。


 だが…鍛えてほしいと頼まれても……。


 「鍛えてくれ…か…」

 「ああ、是非ともお前にお願いしたい事だ」


 真剣なその瞳に強い熱意は感じるのだが……。


 「だがなぁ…」

 「頼む!! 迷惑な事は分かるがこの通りだ!!」


 先程以上に頭を下げるブレーにファストは慌てて頭を上げる様に言う。


 「やめろってそう言う事は! はあ…ブレー…俺ははっきり言うが魔法を覚えたのもつい最近の事だ。そんな素人の俺が誰かを鍛えるなんておこがましいと思うんだが……」

 「…逆に言えば、お前はその短期間であそこまでの暴風を引き起こす程の力を手に入れたともいえる……」

 「う…まあ…自分で言うのもなんだが…うん……」


 ファスト自身はまだあまり実感のない事なのかもしれないが、彼の成長スピードははっきり言って規格外もいいところであった。その証拠に彼よりも前から魔法にたずさわっているサクラは彼ほどの魔法を扱えない。いや、もっと言えばアゲルタムのギルド内に彼と同レベルの魔法を使えるものが居るかどうかすらも……。


 「うーむ…」

 

 チラリと見ると、ブレーは相も変わらず熱い視線を自分に送り続けている。その熱視線に思わず体を焼かれているかのようにすら錯覚してしまう。

 とはいえ…自分が誰かに指導をして今より成長を促せる自信は今いち湧いてこない。


 「ブレー…さすがに指導は無理だが、一緒に鍛錬をするという事なら…」

 「! あ、ああ。それで構わない!」

 「そうか、じゃあ今後はお前と一緒に――――」


 ファストと一緒に鍛錬をする事を取り付けれたと同時に、部屋のふすまが開いた。


 「ふう~…さっぱりしたぁ」

 「……」


 風呂から上がって来たサクラと少女の二人が戻って来たのだ。

 サクラも少女も顔に赤みが差し、サクラはとてもすっきりとした表情をしている。一仕事つき、戦闘で溜まった疲れを全て吐き出せたようだ。少女の方も、汚れていた髪が綺麗になっており今では綺麗な金髪がはっきりと露わになっていた。


 「(おお…見違えたな…)」

 

 先程までは全身の汚れ、そして髪も汚れていたため髪の色が若干黒く見えるほどであったが、今では美しい汚れの一つも無い綺麗な金髪がはっきりと表れている。

 その変わりようにはブレーも驚いた様で「おおっ…」と呟いている。


 「綺麗になったな(まだ青あざが少し目立つが…まあ、これはじきに消えるだろう)」

 「……」


 ファストが綺麗になったなというと、彼女は視線を横にそらしてしまう。

 ここに来るまで、彼女は今のところ何も話していない。デーブの元から離れる時も何も言わず、この宿にやって来て風呂に入るまでずっと言われるがままであった。

 だが、入浴中に少しは進展があったみたいだ。


 「さて、じゃあクルスちゃん。とりあえずは自己紹介から」

 「…うん…クルス・イヤシです……」


 小さな声であるが、ハッキリと自己紹介をしたクルスと名乗る少女。

 それより、今彼女が名乗る前にすでにサクラが彼女の名前を名乗っていたが……。


 「サクラ、彼女の名前を知っていたのか」

 「うん、お風呂で色々と話をして。ちなみに私と同じ歳」

  

 サクラと同じ年齢…。正直、少し小柄な体系なので一つか二つは年下かなと思っていたのだが…。しかし、名前や年齢をすでに話していたところを見ると、それなりに心を開いてくれているようだ。

 この状態なら少しは話しが出来るとふんだファストは、早速クルスにこれから先についての話を始める。


 「さて、クルス…お前はあのデーブという男からこれで解放されたわけだが、お前はどうしたい? 俺たちは仕事でこの街に来ていたがそれももう終わり。これから自分たちの街まで戻るつもりなんだがお前はどうする? 俺たちではなく、あのデーブとやらの元に戻りたいか?」

 「!? ファ、ファスト、何を言っているの!!」


 サクラが思わず大きな声でファストに食って掛かる。

 あの男の元に戻るなんてとんでもない。これまで散々この少女を痛め続けた男の元に戻れだなんて非情もいいところだ。

 だが、ファストはサクラを手で静止して静かしろとジェスチャーする。


 「サクラ…お前の言いたいことも分かるが、言うなれば俺たちはクルスを無理やり自分たちの元へと引き寄せた。彼女の意思を一度も確認せずに彼女の今後を決めるのはいくらなんでもおかしいと思わないか?」

 「それは…でも…」

 「サクラ、悪いが私もまったくの同意見だ」

 「ブ、ブレーさん……」

 「彼女がどうするのか、それを最終的に決断するのは彼女、クルス・イヤシが決めることだ」


 ファストだけでなくブレーにまでそう言われ、黙り込んでしまうサクラ。

 だが、確かに二人の言う通りだ。とても見ていられないほどに傷ついている彼女を放っておけなくあのデーブから引き離したが、それを彼女が望んでいるとは一言も言ってはいない。

 

 不安げな表情でクルスのことを見つめるサクラ。


 そして、改めて自分がどうしたいのかをファストはクルスへと問う。


 「クルス…お前はどうしたい?」

 「……私は――――」




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