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少女、かつての自分と重ね合わせる


 仮面の女が所属している闇ギルド――――それは正規ギルドとは違い、犯罪に手を染める様な仕事も報酬次第では請け負うギルドである。それは最悪、人を殺めることすらも前提とした依頼すらも報酬が良ければ請け負う。

 もちろん、この様なギルドの設立などは許されておらず、非合法のギルドである。正規ギルドの中にはこれら闇ギルドを壊滅する様な依頼が回される事もある。

 そして、そんな犯罪組織に身を置く者達もまたまともな者とはいえないだろう。


 現にファスト達の前に立ちはだかる仮面の女は、死者を蘇らせそれを戦力にしようとしているのだから。




 サクラから闇ギルドに関して大まかな説明を聞いたファスト。

 金次第でどんな依頼も請け負う。ならば、ファストは少し気になる事があった。


 「裏の世界とはいえお前もギルドの一員なんだろ。なら、この死人を蘇らせるのも何かの仕事なのか?」


 もしそうだとすれば、ここでこの女を倒すだけでは駄目だ。

 この女に依頼をした依頼人の存在も無視できないだろう。


 「ザンネンダケド、コノケン二カンシテハホントウニセンリョクノゾウキョウモクテキナンダケド……。デモ、ナカナカオモウヨウ二イカナイモノネ」

 「どういう意味だ……?」

 「ワタシガイチバンモトメテイルノハ、ゾンビタチガセントウヘイグライハリヨウデキルグライ、ツヨイジョウタイデヨミガエラセルコトナンダケド……」


 仮面の女は、蘇らせた死人達が戦闘で使えるレベル程の存在として生み出される事が一番の目的である。 だが、これが中々成就してくれず、復活する死人達は一般人とさほど変わらぬ力しか持っていない。

 このイトスギの街以外にも、他の街で色々試してはいるが死人の強さはやはり一般人に毛が生える程度……。今の所、突出した強さを持つ死人は一体たりとも生み出せてはいない。

 

 仮面の女が死人に対して求めている物、そして現状の力の無さを嘆いているとファストの後方より凄まじい怒気を感じた。


 そこには、自分を射殺さんばかりに睨みつける大剣を持った女戦士が居た。その隣には同じく厳しい目を向けている炎を操る魔法使いも。


 「他の街でもこのような事を繰り返して…つくづく救いようがない」

 「あなたは…ここで倒します!」


 ブレーは大剣を構え、サクラは両手に炎を宿す。

 死人たちに攻め込ませようとする仮面の女だが、その時、周囲に凄まじい暴風が吹き荒れる。


 「きゃっ!」


 突然吹き荒れる風に思わず炎を消してしまうサクラ。

 風の発生源に目を向けると、そこには自分を中心に凄まじい風を吹き荒らしているファストの姿が在った。

 

 「ファスト……」


 ブレーもその光景に思わず大剣を下ろしてしまう。


 そして、その光景に最も驚いていたのは敵である仮面の女であった。


 「ナニ…コノイジョウナマデノマナハ……」


 風に交じり仮面の女に叩き付けられるとてつもなく濃厚なマナ。

 先程までも自分では反応できない程の力を見せつけていたが、今体感している彼の力はそれを更に凌駕していた。


 「お前…さっき俺に言ったな。お前のような女でも殺したくはないんだろうと…正直、少しはそう考えていた。だが……」


 刀を収めると、両腕に風を集約し始めるファスト。

 その様子を見て仮面の女が目に見えて焦り始める。


 「(ヤバイワネ、デカイイチゲキガクル!!)」


 仮面の女は呼び出した死人達に突撃命令を下す。

 それに従い、全ての死人達がファストへと迫り来る。


 「悪いな……」


 いいように操られている死人達へと謝ると、ファストは両腕を突き出し技を発動して全ての死人を吹き飛ばそうとする。


 だが、ここで余計な邪魔が入った――――。


 「そこまでだ死人ども! この俺様の魔道具の力の前に沈め!!」


 仮面の女よりもさらに後方から聞こえて来た声に死人以外の全員の視線がそちらへと向けられる。

 そこに居たのは、先程屋敷で出会ったデーブとボロボロの少女であった。

 

 「なっ!? あのバカ!!」


 ファストは技を放つタイミングが完全に外れ、目前まで迫った前面に居る死人を数人吹き飛ばし、一旦後ろへと跳んで距離を取る。

 

 「あの人、どうして此処に!?」

 「ちっ…何のつもりだあの間抜けは!!」


 サクラとブレーの二人も予想外の乱入者に戸惑っており、ブレーに至ってはせっかくのファストの攻撃のタイミングを外してくれたことで苛立ちを感じていた。

 だが、そんな周囲の考えなどお構いなしにデーブは手に持っているトランクを掲げ、声高らかに仮面の女へと告げる。

 

 「そこの怪しげな女! この俺が持つクリスタル王国で作り上げられた魔道具の力を存分に試せる機会をくれたことを感謝するぞ!!」

 「(…ナニ、アノバカハ……?)」


 正直、目の前の規格外の力を持つ男に焦っていたが、突然現れたあの馬鹿のお蔭でその空気が消えた。

 どうやら、この乱入者はあの三人の仲間…という感じではないようだ。


 「(デモ、コレハリヨウデキルワ!)」

 「さあくらえぇぇぇッ! これが俺の……」


 デーブはバカの様にでかい声を出しながらトランクを開けようとするが、仮面の女は一気にデーブへと跳躍する。そしてそのまま、彼がトランクを開けるよりも早く、そのたるんだ腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。


 「これが俺の魔道…ブボッ!?」

 

 道具を取り出す前に腹部に強烈な蹴りを入れられ、トランクを地面へと落とすデーブ。

 凄まじい衝撃が腹へと送られ、肉の壁の奥にある内臓にもその衝撃は伝わった。信じがたい激痛と、凄まじい吐き気が込み上げて来る。


 「うっ! ううう……ウッ!」


 両手で口を押えていたデーブであったが、我慢しきれずその場で嘔吐した。

 

 「うげぇぇぇぇぇぇッ!!」


 びちゃびちゃと不快音を立てながら、胃袋の中身を地面へと吐き出すデーブ。

 それを無視し、仮面の女はトランクを開き中を確認する。

 

 「ヘエ…ナカナカオモシロソウナドウグガイッパイ……」


 トランクを閉じると、仮面の女はデーブの傍に居たボロボロの少女を捕まえ、彼女の首に腕を回し人質にした。


 「コノコノイノチガオシカッタラ…トイウヤツヨ」

 「しまった…!」


 ファストが小さく舌打ちをする。

 あのデーブという男の心配は正直していないのだが、あの娘に関しては別だ。


 「そ、その娘から離れて!」

 「デキルワケナイデショ」


 サクラが炎を宿した手をかざすが、それがハッタリである事を見抜いている仮面の女は少女に回している腕の力を更に込め、自らの盾として抱き寄せる。

 人質となっている少女は苦しそうな表情をするが、対して抵抗のそぶりは見せなかった。その大人しさに疑問を感じる仮面の女。


 「アラ、オトナシイワネ……ヒトジチ二サレテルノヨ?」

 「………」

 

 仮面の女の問いかけに何も答えない少女。

 彼女の瞳は仮面の女に向けられておらず、ただ虚ろな目で虚空を見ている。


 「(コイツ二ズイブントミモココロモイタブラレタヨウネ…)」


 仮面の女は、未だえずいているデーブを冷めた目で見ながら、少女がこれまでこの男にいたぶられ続けた事を理解する。恐らく、人としての扱いをこの男から受けず、物の様に扱われ続けたのだろう。


 そして…彼女のその考えは見事に正解であった……。


 「………」

 

 仮面の女は人質にとっている少女を改めて観察する。

 光の灯っていない瞳、ボロボロの衣服、青アザが至る所にあり……余りにも惨めな姿といえるだろう。


 「ミジメネ……」


 少女にそう言うと、これまで人質に取られても無関心だった少女が自分に振り返った。


 「!!」


 少女の眼と自分の眼が合う。


 その瞬間、仮面の女はその惨めな少女の姿を見て、かつての己の姿が重なった。


 「(……ナンデ…イマゴロ………)」


 その時…少女を拘束する仮面の女の腕が少し緩んだ。


 


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