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少年、宿屋に到着する


 「ここが私の宿泊している所、宿屋ヒールだよ」

 「中々大きいな…」


 見た所、木造建築で建てられた宿屋のようだ。

 宿の規模も中々に大きく、大勢の人間が住んでいそうだ。実際、この宿屋にはサクラ以外にも何人かの人間が下宿している。


 「さて、じゃあ入ろうか」


 そう言って宿の扉を開いて中へと入って行くサクラ。

 ファストも彼女の後へと続いて行き、宿の中へと入って行った。




 宿の扉を開き、正面には受付所がある。

 そこに一人の若い女性がサクラが帰って来た事に気付き、彼女に出迎えの言葉を掛ける。


 「あっ、おかえりなさいサクラちゃん」

 「はい、ただいま。アーシェさん」

 「あら、もう一人、お客さ………」


 サクラの隣に居る人物に視線を移すアーシェ、しかし、彼女の言葉は途中で止まってしまう。

 

 何故なら、彼女の隣に居た人物は女性ではなく――――――


 「この宿の管理人か?」


 サクラにそう聞いているその人物は女性…ではなく男性だったのだから……。


 「(え、男の人? え? え?)」


 改めて目の前の人物を観察するアーシェ。

 しかし、どう見ても男性、目の前の人物は男である。それをはっきりと認識したアーシェは驚きの余り――――――


 「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」


 盛大に受付のカウンターから身を乗り出しながら、張り裂けんばかりの大声を上げたのであった。





 「ご、ごめんね。大きな声出して…」

 「いや、頭を上げてくれ。もう慣れたというか…兎に角気にしていない」


 頭を下げるアーシェに気にしてないと告げるファスト。それに続きサクラも彼女に仕方がないと肩を持つ発言をする。


 「無理も無いないですよ。男の人なんて今の時代、普通はお目にかかれませんから…」


 しかし、何故こんな場所に希少な存在である男性が訪れたのか、いや、ここは宿泊施設なのだから目的は一つなのだが。しかし、一応アーシェはファストにここに訪れた理由を尋ねる。


 「そ、それで、ここに来た理由は…いったい?」

 「え? いや、宿を借りに来たんだが…」 

 「ああ、やっぱり…」

 「もしかして都合が悪いか?」


 ファストがアーシェに都合が悪いのかどうかを尋ねると、彼女は両手をブンブンと振って誤解されないように僅かに身を乗り出し彼の勘違いを全力で否定する。


 「いえいえいえ! むしろ歓迎します!!」


 アーシェがそう言うと、ファストはほっとした顔でため息を吐く。

 

 「よかった。もしかしたら女性専用宿泊施設なのかと思ったぞ」


 いや、そんな女性に優遇される施設の方が今の世の中は珍しいでしょ、と思うアーシェであったが、しかしファストの正体を知っているサクラはファストが元々はこの世界の住人でないことを知っている為、ああ…と、いった表情をしていた。


 「で、では、今日からこの宿をご利用するという事ですね!」


 アーシェは少し興奮気味でファストにそう言うと、彼は頷いて改めて彼女に自己紹介をする。


 「今日から世話になるファストだ、どうかよろしく頼む」


 ぺこりと頭を下げるファストにアーシェも勢いよく頭を下げる。


 「いえいえいえいえ! こちらこそよろしくお願いしましゅ!!」

 「(あっ、アーシェさんも噛んだ…)」


 動揺をむき出しの彼女の姿に昨日の自分を思い出すサクラ。

 はたから見るとなんとも間抜けに見えてしまう。しかし、自分が同じ経験をしているとなると今の彼女を笑う資格などないだろう。

 

 ファストは僅かに取り乱しているアーシェに苦笑しながら、自分の割り振られる部屋へと案内をしてもらう。


 宿の二階へと上がり、空き部屋の一つへと案内されたファスト。

 アーシェはその部屋の鍵を彼に渡した。


 「この部屋の合鍵です。どうぞ」

 「ありがとう」


 そう言うとファストはアーシェの手に乗せられている鍵を受け取った。その時、彼の鍵を受け取ろうと伸ばした手と鍵を乗せている自分の手が微かに触れ、アーシェが頬を微かに赤く染めた。


 「(きゃあ! 手と手が触れ合った♡!!)」


 内心で激しく叫びながらもなんとか平静を保とうとす彼女であるが、しかし、動揺している事はファストの目にはバレバレであった。

 もちろん、彼女に恥をかかせない為に、その事についての指摘はしなかったが……。







 「さて、しばらくはここに身を置くわけだが…」


 用意された部屋のベッドに腰を下ろして座り込むファスト。

 彼はしばらく部屋を眺めた後、明日の決闘について意識を集中し始める。

 あのブレーという少女、中々に自信のありそうな強気な態度に表情、少なくとも腕に自信がなければあのような提案はしてこないだろう。

 それにギルド内の者達が彼女にひと睨みされると黙り込む事からギルド内でも上位の強さを兼ね備えていると考えるべきだろう。


 ファストが明日の決闘相手について考えている中、自分の部屋の扉が叩かれた。


 「ファスト、今、いいかな?」


 扉をノックしてきた人物は隣の部屋に身を置いている自分を召喚したマスター、サクラであった。

 ファストは一度考えを中断し、彼女に入ってもいいと声を出した。


 「大丈夫だ、何か用か?」


 ファストから入室の許可を貰い、部屋の扉をゆっくりと開き顔を覗かせ、そして部屋の中へと入って来たサクラ。

 彼女は少し不安の浮かんだ表情でファストへと近づいてきた。


 「ファスト、その…大丈夫?」

 「それは明日の決闘についてのことか?」


 ファストの言葉にサクラは小さく頷いた。

 明日、彼はあのブレーと決闘をするのだ。戦いの場に立つ本人以上にサクラは緊張していた。


 「お前が不安そうな顔をするなよ」

 「でも、ファストは知らないだろうけど、あの人…とても強いんだよ」

 「分かっているよ」


 サクラが彼女の強さに心配をしている中、彼は冷静にブレーが猛者であることをちゃんと理解しているという事を告げる。


 「自信がなければ決闘なんて提案する訳がないしな」

 「そう、だね。うん…」


 サクラは少し小さな声でファストに返事を返した。

 そんな彼女を安心させようと、ファストはベッドから腰を上げサクラに近づき、彼女の頭をポンポンと軽く叩く。


 「ふぁッ!?」


 ファストに頭を撫でられた事で、彼女の口から変な声が出てしまう。

 そんな彼女のことを少し笑いながら、ファストは明日の決闘で勝利をこの手に掴むことを誓った。


 「心配してくれてありがとう。大丈夫だ、俺は明日の決闘で必ず勝ってみせるさ」

 「ファスト…」

 「仮にも、主人の前で無様は晒さないさ。それに……」


 ここで彼の目つきが僅かに変化した。

 

 「この世界に降り立った目的、男性減少の謎を解き明かさないといけないしな…!!」

 

 この時ファストは、今更ながらに自分が一つ、この世界について見落としている事がある事に気付く。男性が居なくなったのはあくまでこの世界が誕生してからの途中経過、はじめから男が少なかったわけではない。ならば…男性の出生が減少する以前に居た男達はどうなったのか?


 「サクラ、遅れてしまったが教えてほしい事がある」

 「え、なに?」

 「この世界の男達は…世界から男性が減少するよりも以前に誕生していた男達はどうなった?」


 ファストが彼女にそう聞くと、彼女は顔を俯かせた。そんな彼女の反応に怪訝そうな表情をするファスト。


 「そうだね、ファストにも話しておいた方がいいよね…」


 そう言うと、彼女は俯かせていた顔を上げ、彼に話し始めた。


 現在、この世界に居た男性たちがどうなったのかを……。




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