少年、墓地で死者と戦う
屋敷から歩きようやく目的地である墓地まで辿り着いたファスト達。
見た所、自分たち以外の人間は居ないようだ。数多く並んでいる墓石たち。だが、よく見るといくつかの墓石が建っている地面の前が掘り起こされた形跡が確認できた。
そのうちの一つの掘り起こされた墓石の前まで移動する三人。
「なるほど…確かに掘り返された感じだな。目撃情報と照らし合わせるとやはり死人はここから這いずり出て来た…という事なんだろうが……」
しゃがみ込んで墓の状態を確認しながらそう呟くブレー。
ファストとサクラの二人もこの現場を目撃した以上は同じ感想であった。
「しかし…もしもこれが何者かの仕業なら…何のために?」
「まあ…余り、というより絶対にロクな事ではないんだろうが……」
ファストは周囲を確認しながら相槌を打つ。
とにかく、一刻も早くこの事件の真相を探ろうとするファスト達であったが、彼らが行動を起こす前にこの墓場周囲の事態は急変する。
「……おい、何か変だぞ?」
「ああ…私も違和感を感じる」
「え…なに…?」
なにやら突然、今居るこの場所の空気が変わった気がする二人。サクラは感じ取ることは出来ていないが、ファストとブレーの二人は周囲を見渡す。
すると、ファストの視界の隅になにやら掘り返されていない墓石の地面が盛り上がる光景が映った。
「気を付けろ! これは……」
ファストが叫ぶと、荒らされていなかった墓石の下から何かが地中から飛び出した。
「これは……」
「うっ…」
サクラが薄気味悪そうに…地中から現れた存在、肌が腐敗した人間と思しき存在を目撃した。
「死人か…やはりここで発生していたんだな」
ファストが現れた死人に対して構えを取る。
だが、現れた死人は一体ではなかった。次々と他にもいくつもの墓の下から続々と死人が這い出て来たのだ。
三人はそれぞれ背中合わせになり、ファストとブレーはそれぞれの武器を構え、サクラはマナを集中して両手に炎を宿す。
「くるぞ…」
ファストがそう言った次の瞬間、死人たちは一斉にファスト達へと襲い掛かって来た。
唸り声を上げながら迫り来る亡者たちだが、三人はそれを冷静に対処していく。
「おそい!」
「ハアッ!!」
ファストは凄まじい速度で刀を振るい次々と敵を切り捨て、ブレーは大剣を振るい目の前に迫る死人たちを吹き飛ばす。
「フレイムスピア!」
サクラの投擲した炎の槍は死人たちを燃え上がらせ、そのまま動きを停止させる。
「う…凄い匂い…うぇ…」
自分の炎によって焼かれる死人の臭いに鼻を摘まむサクラ。
しかし、攻撃の手は緩めず目先の敵を確実に減らしていく。
現れた死人たちは次々と駆逐されていく。見た目こそは中々におぞましいが、動きもノロくバカみたいに自分たちへと歩んでくる死人たちは正直三人の敵ではなかった。一般人ならまだしも、彼らはギルドに所属し戦いの中に身を投じている者達。この程度の相手はものともしない。
「(……スマナイ)」
ブレーは大剣を振るいながら、自分が蹴散らし地面に倒れて行く死人たちに対して心の中で謝罪をする。
彼女達だって元は自分と同じ人間なのだ。恐らくは何者かの手により強制的に望んでもおらずこの世に再び呼び戻されたのだ。しかも…不完全な生きているとはいえない状態で……。
「不愉快だな…!」
ギリッと歯を噛みながら誰にも聞こえない程、小さな声で呟くブレー。
最後の一体を切り払い、全ての死人を片付けた三人。しかし、倒れた死人たちの何人かは立ち上がることは出来ないようだが、何体かは地面をモゾモゾと動いている。恐らく、痛覚などは存在しないのだろう。
「くそ…余りいい気分はしないな…」
「うん…」
ファストとサクラの二人もブレーと同じ想いであった。
その時、三人の耳になにやらパンパンと乾いた音が聴こえて来た。
三人がその音に反応して振り返ると、そこには一人の女性が自分たちに拍手を送っていた。
「イヤー、ブラボーブラボー♪」
両手をパンパンと叩きながらこちらを眺め、賞賛の言葉を贈る謎の人物。
その人物はこの状況では明らかに異常な存在であった。
まずその人物の外観、全身が黒一色のローブであり、顔には怪しげな紋様が描かれた仮面。そしてこの場には似つかわしくない陽気な声色。
「オミゴト、イヤーオミゴト♪」
片言で尚も自分たちを賞賛する女性に三人は身構えながら何者なのかを問う。
「誰だ…お前…?」
刀の切っ先を向けながらファストが何者なのかを問うと、女性は少し興奮気味の声を出す。
「オオッ! アナタ、トテモカッコイイカオシテルネ。ドウ、ワタシトアソバナイ?」
「……言葉が通じていないのか? それとも会話が出来ないのか?」
一切の警戒を解かず、向けた刀ですぐに攻撃ができる状態を維持するファスト。
警戒心…というよりも敵意むき出しの状態にヤレヤレといった感じで肩を竦める女性。仮面をつけているために表情までは分からないが。
「モウ…ソンナ二コワイカオシナイデヨ」
こちらへとゆっくり歩みよろうとする女性。
だが、彼女が一歩踏み出した瞬間、ブレーが大剣を構えてファストたちよりも一歩前へと出た。
「おい…これ以上お前のくだらない不毛な会話は御免だ。単刀直入に聞こうか……お前がこの街で事件を起こした犯人でいいのか?」
「ジケン?」
こてんと首を傾げる女性。
その仕草に苛立ちながらも、改めて言い直す。
「この街で死者が突然蘇るという現象が起きている。今しがたもこの墓場の墓石の下から亡者達が這い出てきてな…それはお前が引き起こした事かを聞いている」
嘘は一切許さんぞ、と目で語るブレーに対し、仮面をつけているために相手の表情はうかがえないが黙り込む女性。だが、ブレーは見逃さなかった。
自分が犯人かどうかを問いかけた時、目の前の女の体が微かに…本当に微かにだが一瞬ビクッと反応を示したのだ。
「どうなんだ?」
武器をより一層力強く握り、地面を力強く踏む。
「ウーン…ヤッパリコノタイミングデデテキタラワカッチャウカァ…ソウ、ワタシガ――――」
仮面をつけた女が全てを言い切る前に、すでにブレーは地面を蹴って目の前の敵に跳躍していた。
大剣を渾身の力で女性目掛けて振り下ろす。勢いよく振り下ろされたその剣は、直撃しようものなら女の体を容赦なく切り裂くだろう。
だが、仮面の女はその場から後ろへと跳び、その一撃を回避する。
そのまま的を外した大剣は地面へと叩き下ろされ、その衝撃は凄まじく周囲を揺らした。
「ヒュウ、アブナイアブナイ…」
口笛を吹きながら、ブレーの一撃に軽い口調でそう言う仮面の女。
「何が目的で死者をこのような不完全な形で蘇らせ、玩具として扱っていたかは知らんが、お前はここで殺しても構わない人間であることははっきりと分かるぞ」
「ヒドイナー。コロシテモイイニンゲンナンテイルワケナイジャン」
その言葉にブレーの額には青筋が浮かぶ。
死んだ者を自分の勝手で無理やりこの地に再び蘇らせておきながら、よくもぬけぬけとこのような事を言えるもんだ。
「知っているか? お前の様に命を冒涜する輩は死んでもいいんだぞ?」
その言葉と共に、ブレーは再び仮面の女に目掛けて跳躍をした。




