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少年、陰で嫌われている


 ローラ町長の屋敷を出た三人は地図を頼りに死人の発生源と思われるこの街の墓地へと赴いている最中であった。その道中、サクラが先程屋敷へとやって来た男、デーブについて少し疑問に思った事があり、それを口にしていた。

 

 「それにしても…あの人が屋敷に来た理由は何なんだろう…」

 「もっと言うならそもそもこの街に来た理由すら解らないが…」


 先程の男、そもそも何が理由でこの街にやって来たのだろう。少し話をしてみて分かった事といえば、とても失礼な男…という無駄な情報しか得られなかった。

 二人がそう疑問に思っていると、ブレーが先程の少女の持っていたトランクについて思い出す。


 「あの男と共に居たあの少女の持ち物…あのトランクには見覚えがある」

 「トランク…ああ…」


 そう言えばそんな物を持っていたな……。

 ファストの脳裏にはトランクを落とし、それを叱りつけるデーブの姿が思い浮かんだ。何やら大事な物であったみたいだが……。


 「アレはクリスタル王国で採れる水晶を利用した魔道具の筈だ」

 「魔道具? あのトランクがか…?」

 

 見た感じではそこまで特殊なトランクには見えなかったが…。


 「確か…持ち物を収縮させることができ、一度に大量の荷物をあのトランクに納めることが出来たと思うが。しかもどれだけ詰め込んでも重量は軽減されたような……」 

 「す、凄い便利じゃないですか!」


 少し興奮気味の状態でサクラが驚く。彼女ほどではないが、今の話にはファストも驚いていた。

 これまで実際魔道具という物に関心を示さなかったが、今回の様に仕事に出かける際にはそういう道具はとても便利な物だろう。

 アゲルタムの街に戻った時は街中の商店を見回ってみるのも悪くはないかもしれない。


 「あの、ブレーさん。良ければ他にもどんな魔道具があったのか聞かせてもらっても…?」


 瞳をキラキラさせながらブレーを見るサクラ。

 彼女のこの反応は珍しく、ブレーも少し戸惑っていた。


 「あ、ああ…それについては仕事終わりでな。もうすぐ目的の墓地に着くんだ」

 「まあ…まずは目先の問題から片付けないとな……」


 そう言うとファストは少しテンションの高まっていたサクラをなだめながら、視線の先に映って来た墓地を眺めていた。







 「クソ、クソ、クソッ!!!」


 屋敷を出た後、デーブは人気のない路地裏までボロボロの少女と共に移動していた。

 この街にやって来て、ローマの屋敷を訪れ挨拶をするまでは上機嫌だった彼だが、この街で出会った自分と同じ男の存在、それが彼を普段の様に振る舞う事を許してくれず苛立たせた。

 最初に自分を馬鹿にしたブレーは口では色々言ってはきたが、直接暴力を振るってくる事はなかった。それは自分が世界全体で重宝される存在であるが故、手を出すのは不味いと分かっていたからだ。相手がブレーだけであれば自分は生意気極まりないあの女に何をしても文句など言われなかった……だが、自分と同じ男性が彼女を庇ったせいで自分は下手に手を出すことは出来なかった。

 

 「あの男めぇ…!」


 自分と同じ立場で自分より純粋に力のある男は彼の様な人間にとってはとてもやりづらい。

 あのままもし口論だけでなく殴り合いにまで発展し、その結果自分がボロボロにされても相手が自分と同じ男である以上は文句を言っても誰もファストを責められないだろう。

 

 「ぐぎぎぎぎぎ……ああッ! イライラするぅ!!!」

 「ふぎっ!?」


 デーブは思いっきり足を振りかぶり、それを自分の足元で横たわっているボロボロの少女へと叩き付ける。

 足のつま先に柔らかな肉を蹴り込む生々しい感触が伝わって来る。


 「えほっ! げほっげほっ…」


 体を丸ませながら、蹴られた腹部を抑えて涙目になりながらせき込む少女。

 少女の体には屋敷で見た時以上に体の数か所に暴行を受けた後が出来上がっていた。デーブがこの路地裏までやって来た後、彼はファストやブレーにぶつけられなかった怒りを何の罪も無い彼女のぶつけて発散させていたのだ。


 「この、この、このっ!!!」

 「ひっ、ぎゃっ!」

 「オラァッ!!」

 「がひっ!!」


 亀の様に丸まっている少女を容赦なく蹴り続けるデーブ。

 少女は体を丸めて怒りが収まるまで必死に耐え続ける。


 「はーっ…はーっ……少しは気が晴れた……」

 「ぐふっ……」


 呼吸を荒くしてぜえぜえと息継ぎをしながら、ようやく少女に暴行を働くのを止める。

 

 「さて…目的の死人が現れそうな墓地の辺りまで歩くとするか。その為にわざわざこんな街までやって来たんだからな」


 デーブは倒れている少女からトランクをはぎ取ると、少女の髪の毛を掴んで無理やり立たせる。


 「そら、早く行くぞ! いつまで寝てんだ!!」

 「うう…」


 短い呻き声を上げながら、ゆっくりと立ち上がる少女。

 デーブはそのまま少女の髪を引っ張ったまま、目的の場所まで歩いて行った。







 イトスギの街の入口では、鎧を着た数人の騎士が待機していた。

 彼女達はクリスタル王国からデーブと共にやって来た、国が護衛として派遣した騎士たちであった。希少な男性であるデーブが遠出する場合には必ず彼女達は彼を守る為に行動を共にしているのだが、今回は別であった。


 「まったく…あのデブ…勝手なことしてくれるわ」


 女騎士の一人が街中に居るデーブに向かって毒を吐く。

 護衛をする者の身である騎士からすれば、護衛対象に対してこのような発言は許されないだろう。だが、他の騎士たちは誰もそれを咎めようとしない。唯一、隊を仕切る隊長だけはやんわりと注意をした。


 「やめろ…聞かれたらどうする」

 「大丈夫ですよ。あのブタなら街中で死人とやらを狩るのに夢中になっているでしょうからね」


 今回、デーブがこの街にやって来た理由はこの街で発生しているという死人にあった。

 どういう経緯でこの街の現状を知ったかは定かではないが、この街で死者が現れることを知ったデーブはこの街に訪れた。


 その理由は――――


 「動く的を使って魔道具の性能テスト…なんてあのブタは言ってますけどそんなのは建前。あのブタは生きた人間が無理ならせめて生きているとは言い難いが、それに近い人間を使って魔道具で遊びたいんですよ。その証拠に私たち護衛に街の入口で待機するように命令したんですよ」


 まさにその通りであった。

 デーブがこの街にやって来た理由は生きている人に近い死人を魔道具を使い殺して愉しみたい…本当にそんなくだらない理由であった。

 彼はクリスタル王国で作られる魔道具を数多くコレクションしており、それを人形など相手によく使用して遊んでいた。だが、繰り返すうちにデーブの中には人間を撃ってみたい、などという不審な考えを持つようになった。だが、生きた人間を撃つ訳にはいかない…だが、死人ならすでに死んでいる存在。


 「こんなくだらない事に付き合わされる私たち国の護衛の気持ちも考えてほしいですよ、ねえ隊長」

 「………」


 無言ではあるが、その沈黙は肯定を示していた。

 いくら男とはいえ、必ず好かれるわけでもない。デーブの様に仕方なく重宝している存在もやはりいるのだ。


 「あ~あ…これで死人にでもあのブタが食い殺されてくれればいいのに。私たちは此処で待機するようあのブタに命令されていた訳だし、これなら誰にも被害を与えず処理できるんだけどなぁ…」

 「よせ……」


 口では止めるように言ってはいるが、この時、この場に居る者達の想いは皆同じであった……。




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