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少年、身勝手な男に怒る

 

 「そこまでにしたらどうだ?」


 まるで汚物でも見るかの様な目をしながら目の前で女性に寄生虫の様に絡んでいる男に注意するブレー。

 声を掛けられ、それまでは目の前の女性に夢中だった男が振り返る。自分の邪魔をされた事で睨み付けて来たが、ブレーの姿を見るや否やすぐに先程と同じ下衆な笑みを浮かべる。


 「おや…これは凄い上玉」

 「……」


 使用人の女性からは手を引いたが今度はブレーに狙いを変えた男。

 耳障りな小さな笑い声と共に気安くブレーへと近づくと、先程と同様に上から目線で口説き始める。


 「キミ…とても美しいなぁ…どうだい、この俺が良ければ遊んであげようか? ぷすす…」

 「……」

 「希少な男性たるこの俺に誘われるなんてとても光栄な事だと思うよ。さあ、早速街に出て…「失せろ」……なに?」


 これまで上機嫌だった男の顔色が変わった。


 「今…何か言った?」 

 「なんだ、聞こえなかったのか?……失せろ、そう聞こえる声量で言ったはずなんだがな」

 「何だと!? この俺様に向かってその口の利き方は何だ!?」

 

 薄ら笑いを浮かべていた顔は怒りで真っ赤となり、ブレーに掴みかかろうとした。

 だが、彼女はその手をパシンと叩き落とす。男の手に触れてしまった事が不快だったのか、彼女は男の手を叩いた手の平を服でゴシゴシと拭った。

 その失礼極まりない…まるで汚物でも触ったかのような態度を取られ男は目を血走らせ唾を飛ばしてギャンギャンと喚き散らす。


 「キサマ! この俺を前にしてその態度は何だ!?」

 「この俺を前に? 私はお前など名前も顔も知らないんだが? あなた様は何処のどなたでしょうか?」

 「ぎいぃぃぃぃぃッ!!!」


 耳障りな声を出しながら歯ぎしりをする男。

 

 「俺はクリスタル王国の宝である数少ない男たるデーブ・ピッブ様だぞ!!」


 男の名前を聞くと、ブレーはその場で腹を抱えて笑う。


 「ハハハハハハッ! デーブだと? それはお前のそのたるんだ腹から来ているのか?」


 ブレーの言う通り男の容姿は美しいとは言えなかった。

 顔は膨らんでおり二重顎、腹も出ており肥満体系といえる体系だ。同じ男でもファストとは全く違う。恐らく少し走っただけで息切れをしてしまうだろう。

 

 「このアマがぁッ!!」


 掴みかかろうとするが、それをひょいっと避ける。

 勢いよく掴みかかろうとしたことで、そのままバランスを崩して倒れるデーブ。


 「ぐぐぐ…よくも恥をかかせたな!!」

 「はっ、お前が勝手にこけただけだろう」

 「黙れ!!」


 起き上がり再びブレーに掴みかかろうとするが、その間にファストが手を広げて動きを止める。


 「なっ、お前!?」 

 「少し落ち着けよ…」


 横やりを入れられて睨み付けるが、邪魔して来た人物が自分と同じ男である事に驚くデーブ。

 

 「俺様と同じ…男…?」

 「俺が女に見えるのか?」

 「いや…そういう訳じゃ…いやそれよりどうゆうつもりだ!?」

 「? 何がだ?」


 デーブの言っている事の意味が解らず首を傾げるファスト。

 どうゆうつもり…と言われても……。


 「この屋敷は町長であるローマさんの屋敷だ。他人の家でこれ以上騒ぐべきじゃないだろう」

 「…お前は何言ってんだ? なんで男がそんな事を気にする?」

 「………??」


 やはり目の前の男の言っている事には理解ができない。

 他人の家では騒いではいけない…そんな事なんて一般常識だと思うのだが……。


 「俺たち男という選ばれた存在はそんな事を気にしなくてもいいんだよ!」

 「……」

 「腐るほど蔓延している女の事なんてどうして気遣う必要がある」

 「…おい」

 「俺たちは今や絶滅寸前の宝! この世界の女性が俺たち男を気遣い、尽くす事は当たり前――――」

 「もういい……」

 「あん?」


 眼の前に居る男の発言は余りにも聞くに堪えないものであった。


 何故、偶然にも男として生まれただけでそこまで自分を特別視できるのだろう? 


 何故、性別が違うだけでここまで横暴な振る舞いや発言が出来るのだろう?


 何故、自分がこの世界で尽くしてもらえる事を当たり前に思えるのだろうか?


 「お前……おめでたい頭をしてんだな?」

 「なにィ!?」

 「同じ男として言わせてもらうが…お前には銅貨一枚の価値があるか疑問だな」

 「キサマ! 誰に向かって物を言って…ぶひっ!?」


 余りにも不愉快だったのか、思わず目の前で喚く愚か者に平手打ちをしていたファスト。

 ファストの行動に使用人は口に手を当て驚いていた。だが、同じ光景を見ていたブレーは笑い声を必死に押し殺そうとしている。サクラも何も言わないがその目はザマアミロと言っているように思える。

 そして…彼と共に一緒に居たボロボロの服を着ている少女は相も変わらず虚ろな目をしていた。


 「……おい、少し聞きたいことがる……」

 「痛いぃぃぃ…ひぃぃぃ……」


 殴られた頬を抑えて過剰なリアクションを取るデーブ。

 彼の胸倉を掴みあげると、ファストは一緒に居る少女について質問をした。


 「あの娘はお前の連れなんだろ…随分ボロボロの服を着ているじゃないか、なんで何だ? しかも至る所に青アザまでできて……」

 「よ、よくも俺様の顔を!」

 「はあ…言葉のキャッチボールもまともに出来ないな……」


 平手打ちをされた頬を抑えながら喚くデーブ。

 かなりの加減をしたにもかかわらず、必要以上に痛がるその様子にあきれ果てるファスト。


 「平手打ち一発でよくそこまで痛がれるな」

 「ぐ…この俺に手を出すなんて……」


 世界から同性がほとんど消えた後、このように頬を叩かれるなど経験がなかったデーブ。今の世では自分に手を出す女性など居なかったからだ。

 

 「お前…国宝とされるこの俺に手を出して…」

 「お前がこの世界で大事にされている理由は…ただ男…という理由だけだろう? なら、同性である俺がお前に危害を加えてもお前の為に文句を言う人間が居るのか?」

 「う……」


 相手が女性であればここで強く言い返せるのだが、自分と同じ男が相手であればデーブは何も言えなくなる。彼は所詮、男という性別だけが取り柄と言ってもいい人間であった。そんな人間が同じ男でもギルドに所属し戦いに身を置いたこともあるファストに勝てるはずがなかった。

 状況は自分の方が不利であることを悟り、ファストの手を振り払い後ずさる。


 「くっ、もういい! おい行くぞ!!」

 「…っ」


 デーブは少女の腕を引いて屋敷を出ようとするが、その時に勢いよく急に腕を引かれたため少女が手に持っていたトランクを落としてしまった。

 

 「(なんだあのトランク…?)」


 今までは少女のみすぼらしい姿に目がいっていたため、彼女の持っていた持ち物の存在にここでようやく気付いた。

 少女がトランクを落とすと、デーブは少女を怒鳴り付ける。


 「おいなに落としてんだ! 大事な物なんだぞ!!」

 「…ごめんなさい」


 怒声を浴びせて来るデーブに謝りながらトランクを拾う少女。

 彼女は相変わらず虚ろな目をしたまま、無表情を貫いていた。

 デーブは舌打ちをするとそのまま屋敷を出て行こうとする。


 「おい待て!」


 少し大きめの声でデーブのことを呼び止めるファスト。

 その声に驚いた彼は少女の腕を引いて急いで屋敷の入口を脚蹴りで開くと、小走りで出て行った。


 「くそ……」


 屋敷から出て行ったデーブに小さく舌打ちをするファスト。

 そこへサクラが小走りで近づいて来て不安げな顔をする。


 「ファスト…あの娘…大丈夫かな……」

 「ほうってはおけないよな…」


 流石にこのまま放ってはおけないと思うが、今回自分たちは仕事でこの街に来ているのだ。自分一人の独断で決めるわけにはいかないだろう。


 「サクラ、ブレー…仕事が片付いた後、少し付き合ってもらってもいいか?」


 ファストがそう言うと、二人は迷うことなく答える。


 「あの子が心配なんでしょ。私もそうだよ…」

 「まずは依頼を早く片付け、その後はあのブタからあの娘について色々聞こうじゃないか」

 

 二人の言葉にファストは頷くと、まずは依頼を片付ける為に地図に示された墓地へと向かい始めるのであった。


  


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