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少年、街の町長から話を聞く


 混浴騒動があったその翌日、三人は宿を出て今回の依頼主であるこの街の町長の屋敷まで足を運んでいた。

 宿の人に聞いたところ、意外にも町長の屋敷は宿泊していた宿から近かったため、徒歩で十数分程度で辿り着くらしい。


 「う~ん…」


 三人で目的の屋敷まで歩いている途中、サクラは唸り声を出しながら眉をひそめていた。

 

 「やっぱり思い出せない…」

 「……」


 うんうんと唸っているサクラから目を逸らしているファスト。

 実はサクラ、昨日の混浴の際のファストのあの出来事を一切憶えていないのだ。余りにも衝撃的な光景は彼女の記憶から消し去られてしまっていた。

 目覚めた時には彼女は部屋に引かれた布団で眠っていた。


 「確か宿に辿り着いて…い、一緒に浴槽に浸かろうとしたところまでは憶えているんだけど…」


 一緒に浴槽というところで頬を染めながら、彼女はその先を思い出そうとするが、やはりその先の出来事には辿り着く事が出来ずに、その先の記憶は真っ白な空白に染まっていた。


 サクラのその様子にブレーはファストに耳打ちをする。


 「サクラめ…本当に何も憶えていないんだな」

 「憶えられていてたまるか…」

 「…昨日は私が悪かった。だからもう勘弁してくれ」


 そばに寄って来たブレーを睨み付けるファスト。

 あの後、気絶したサクラを部屋まで運んだ彼はそのまま食事を取るとすぐに布団に入り眠りについた。そのまま朝まで布団から出ては来ず、ブレーとも部屋に戻っても一言も口を利かなかった。


 「お前は良識があると思っていたがそうでもないという事はよく分かった」

 「だから悪かった…仕事が終わったら何か奢ってやる」


 面倒くさそうに謝罪するブレーに思わずちゃんと謝るように言いたくなるが、それはこの場では出来ない事だ。ここで彼女に誠心誠意謝罪するよう要求すれば、サクラはどうしてブレーに謝らせるか疑問を感じるだろう。その理由は昨日の混浴での出来事が原因だが、それをサクラに教える事は出来ない。

 もしかしたらそこからサクラが昨日の自分の自殺を図るほどのレベルの恥辱を思い出しかねない。

 自分のマスターに改めてそのような事を思い出されるなどたまったものではない。幸い彼女はショックの余りに自分の恥辱の事は忘れてくれているようだ。


 「う~ん、ねえファスト、本当に私はのぼせて気を失ったの?」

 「ああ…随分長い時間、湯の中に浸かっていたからな…」

 「う~ん…なにか凄いモノを見た気が……」

 「んんっ! それより見えて来たぞ! ホラ!」


 何とか思い出そうとするサクラだが、ファストが指を指した方向を見てその考えは一旦保留とした。

 

 歩くこと十数分後、三人は依頼主である町長の屋敷へと辿り着いた。







 目的の屋敷に辿り着いた三人。

 屋敷に辿り着くとその屋敷の使用人と思われる女性に案内をされた。その際、最早お約束の様にその女性はファストのことをチラチラと顔を赤らめながら見ていた。


 使用人に連れられ、何やら応接室の様な場所へと連れられる三人。

 柔らかなソファに三人で並んで座り依頼主を待つ。その間、サクラはキョロキョロと部屋の中を見渡していた。

 壁にはなにやら名画と思われる絵が掛けられており、床には豪華そうな絨毯が引かれている。


 「お金持ちなんだね…」

 「まあ、依頼報酬もでかかったからな」


 確か今回の依頼達成の際の報酬は今までのどの仕事よりも大きかったはずだ。

 そんな風に軽い話をしていると、部屋の扉が開いた。


 「申し訳ありません、お待たせしてしまって…」


 やって来たのは見た感じでは60代を超えるであろう高齢の女性であった。

 これまで見て来た女性と比べ落ち着いた雰囲気を纏わせている。まあ、この年齢の女性がファストに日頃から言い寄る女性達と同じテンションでは引いてしまうだろうが。

 

 「本日はこの街の依頼を引き受けてくれてありがとうございます」

 「いえ、我々もこれが仕事なので」

 「おっと…自己紹介がまだでしたね。私はこの街の町長を務めているローラ・ジェレントと申します」

 「私はブレー・ウォールと言います。一緒に居る彼女はサクラ・フレイヤ、そして彼がファストと言います」


 ブレーに自己紹介をされ、二人は挨拶をすると頭を下げて会釈をした。


 「それで、早速依頼についてなのですが…この、死人というのは……」

 「はい…。実は今から少し前にこの街の墓地の近くを歩いていた住人からの報告で、人であり人でない存在に襲われかけたそうなんです」

 「人であり…人でない?」


 ブレーが聞き返すと、ローラは頷いた。


 「その死人と命名した存在は腐臭を放ち、全身の肉が腐敗しており、容姿は人間と変わらない存在です。言葉は通じず、まるで苦しんでるかのように唸り声を出しながらこの街の住人達に襲い掛かって来たのです」

 「なるほど…」

 「そして…街の者が言うにはその死人の中には住人が知っている人間と似た顔をした存在が居たらしいのです」

 「それはつまり…死人は元々はこの街の住人であったと?」


 話を聞いていたファストがローラへと質問をする。


 「はい…その証拠を裏付けるようにこの街の墓がいくつか掘り起こされていました」

 「という事は…もう十中八九その死人は…」

 「はい。この街の者だと思います。ただ…少し気になるのです」

 「というと?」

 「荒らされた墓の数に比べると、目撃された死人の数はそれを明らかに上回っているみたいなのです」


 その言葉に話を聞いていたファストは考える。

 それはつまり…この街以外からやって来た死人もいるという事になる。だが、墓が荒らされていたという事は死人は独りでに動いている訳ではないと見える。もしそうならこの街の墓の下に眠る死者達が全て目覚める筈だ。


 それはつまり……この事件は何者かが仕組んだという事だろう。


 「これって…誰かが何かしらの…多分魔法だと思うけど、それが影響で死んだ人が……」

 「ああ…恐らくな」


 サクラの考えに同意するファスト。

 ブレーやローラも同じことを考えており小さく頷いていた。


 「死者を冒涜する行為だ…許せんな」

 

 ブレーはギリッ…と歯を噛み締める。

 サクラとファストも同じ想いであった。そして…この街の町長たるローラも……。


 「分かりました…では早速その墓地まで……」


 ブレーがまずは事件と最も関係のあるこの街の墓地に赴こうとするがその時、部屋の扉がノックされた。


 「ローラ様、お話の最中申し訳ないのですがよろしいでしょうか?」


 声の主はここまでファスト達を案内してくれた使用人のものであった。

 ローラはブレーに入室を許していいか目で聞くと、ブレーはそれに頷いてOKを出す。


 「構いませんよ。入ってきなさい」


 許しが出たことで仕様人の女性は扉を開き中へ入って来た。


 「お話の最中申し訳ありません。実は、再びこの屋敷に来客された方々がいまして……」

 「おや、ブレーさん達とは事前に連絡を取ってはいましたが…一体誰が訪ねて来たんです?」

 「それが……」


 使用人の女性はソファに座っているファストへと一瞬だけ視線を移す。

 

 「(…何だ?)」

 

 ほんの一瞬とはいえ自分を見て来た事に微かに首を傾げる。もしかして自分と何か関係あるのだろうかと考えるファストであるが、その考えは半分正解していた。

 直接的には何の関係も無いが、ファストとはある共通点を持つ人物がやって来たのだ。


 「クリスタル王国から国宝とされる……男性の方がやって来ました」




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