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少女、気落ちする


 アゲルタムの街から少し離れた岩場、現在そこではファストが魔法の練習を行っていた。街の中では住人たちに迷惑を掛けるかもしれないと配慮した…というのもあるが、一番の理由は別にある。

 貴重な男であるファストではすぐに街の女性達に囲まれてしまい魔法の練習どころではないからだ。


 見る限り人に対してや建物に対しての被害を気にする必要がないこの岩場はファストの様に魔法練習に時々使われている場所である。ちなみに同行しているサクラも炎の魔法練習のためにこの場所で練習をしている事がある。


 「ウインドジャべリン!」


 ファストの手から風で形成された槍が目標の巨大な岩に突き刺さりそれを粉々に砕く。しかも、それに留まらず槍は岩を貫いた後にさらに遠くまで跳んでいき更に離れた巨大な岩を砕いて消失する。


 「な…なんて貫通力……」


 ファストの技を近くで見ていたサクラは呆然としていた。

 

 「どうだサクラ。中々上達して来ただろう」

 「う…うん。そうだね……」


 ファストは随分と軽い感じで言っているが、サクラからすれば彼の成長速度は異常であった。彼が魔法を身に着けたのは今から四日前になる。にもかかわらず、既に自分が彼以上に長い時間で身に着けた魔法と同等…どころかそれ以上の力を発揮しているのだ。


 「(この短期間でこれほどの威力の魔法を……天才なんて言葉じゃ片付かない気が……)」

 

 そんな彼女の驚きなどお構いなしに、彼は次々と高威力の魔法を放っている。

 初めはファストの周りには大量に大きな岩が転がっていたのだが、気が付けば彼の周囲には砕かれた細かな岩の欠片が散らばっており周りは開けていた。


 「まあ、今日はこんなものでいいかな」


 肩をグルグルと回しながらそう呟いて撤収の準備を始めるファスト。

 呆然としていたサクラも慌てて彼の後について行った。







 アゲルタムの街に戻った二人はファストの提案で供にギルドへと顔を出す事とした。

 その理由としてはファストは生活費を稼ぐ為というのもあるが、最大の理由は彼がこの世界へとやって来た理由である男性減少の謎を解くためでもある。

 高ランクの依頼程、報酬もそうであるが簡単な依頼では得ることが出来ない有益な情報を得ることが出来るかもしれないからである。


 ギルドへと足を運び、早速掲示板に貼られた依頼を確認しようとするファスト。


 「あっ! ファスト君だ!」

 「なになに? もしかして今から仕事なの。なら一緒の依頼を受けない?」

 「あ~ずるい! 私だって一緒に仕事したいんだから!」


 予想通り自分に大勢の女性が群がって来る事に思わず苦笑いをする。

 少しは収まって来たが、未だにファストが顔を出すたびにこのようにギルド内の女性に囲まれてしまう。

 その度、対処に苦労をしているファスト。


 「む~~………」


 隣に居るサクラは頬を膨らませながらその様子を面白くなさそうに眺めていた。


 「(もう、ファストったらデレデレしちゃって!)」

 

 確かにファストは別に自分の恋人という訳ではないが、自分をマスターと言ってくれる男性が他の女性に寄り付かれるのは正直不満があった。勿論、これは自分のわがままだと理解はしているのだが……。

 ちなみにファストは全くデレデレなどはしていない。


 「悪いがみんな離れてくれ」


 傍による女性達を引きはがしながら、掲示板の前までやっとたどり着く二人。ここに立つまでもいちいち一苦労だ。


 「さて……何かいい依頼はあるかな……」


 今ファストが求めているのは、自分がこの世界に来た最大の理由である男性減少の謎を突き止めるための情報であり、そのためにはこの街だけでなく様々な場所を見て回り情報を収集する必要があった。この街、アゲルタムで色々と合間を見てファストは男性減少に関して色々聞き込みをしたが有益な情報は何も得ることが出来なかった。

 初めてサクラと話したように、この街の女性達は皆が突如として消えた男性についての記憶は消失していた。現状で分かっているのは、これが人為的に起こされた現象である…ということ位であった。もちろん、誰かが引き起こした証拠は何一つとしてないが……。


 「できればこの街から離れた別の街で……ん…」


 掲示板に貼られた依頼は星が三つや二つの物が多くかったが、その中で一つファストの目に留まった依頼書があった。


 「これは…」


 ファストが注目した依頼は星が四つの高難易度の依頼であった。そしてその依頼内容は中々に不気味なものであった。


 『街に突如として現れた死人の退治、及びその調査を願いたい!』


 「死人…随分物騒な依頼内容だな…」


 ファストはそう言いながらこの依頼書を眺めている。

 彼がこの依頼に注目している理由は死人という点に興味を持っているということもあるが、それ以上にこの依頼がこの街とは別の街での依頼であるからであった。


 「(この街でまた情報を収集できないだろうか…)」


 依頼書を眺めながらそんな事を考えていると、隣に居るサクラの顔が僅かに青くなっている事に気付く。


 「ん、どうした?」

 「いや…その……」

 「もしかして…怖いのか?」


 返事は返っては来ないが、この様子だと恐らくサクラはこの依頼を引き受けたいとは思えないのかもしれない。理由としては恐らく〝死人〟という存在が不気味に思えるからだろう。確かに魔獣よりも薄気味悪くはあるが……。


 「嫌なら別の依頼を受けるがどうする?」


 できれば他の街まで赴けるこの依頼を受けたいのだが、マスターたるサクラが嫌がるのであれば無理強いはしたくはなかった。しかし、見たところ掲示板に貼られている他の依頼は星が三つや二つばかり…この街の外での仕事も街ではなく村からの依頼ばかりで得られる情報は期待できない気もするが……。


 「どうするサクラ?」

 「うん…ちょっと不気味だから……あっ!」

 「?」


 突然大きな声を出したサクラ。

 そのまま黙り込んで何かを考え始める。


 「(不気味な依頼だけど…こういう依頼ならもしかしてこんな事になったりして――――)」


 この時、彼女の脳内ではこんなイメージが流れていた。




 『きゃあ! で、出たわ!!』


 怯えるサクラの前に現れる死人達。それに対してやけにオーバーリアクションを取っているイメージの中のサクラ。

 彼女に亡者共が迫るが、凄まじい突風が死人達を吹き飛ばした。


 『俺のマスターに…サクラに近寄るな!!』


 イメージ上のファストがサクラを自分の元へと抱き寄せる。その逞しい胸板に顔を埋めることとなるサクラ。


 『安心しろサクラ。お前は俺が守る!』

 『ファスト…♡』


 見つめ合う二人、その距離は徐々に縮まって行き――――




 「えへ……」

 「お、おい…大丈夫か?」

 「はっ!」


 何やらよこしまな妄想をしていたサクラであったが、声を掛けられ我に返る。ニヤケ気味だった顔を何とか整えて星四つの依頼書を掲示板から取ると、ファストにこの依頼を受けようと提案する。


 「ファスト、この依頼を受けてみようと思うの」

 「そうか、まあ俺は元々受ける気だったから全然構わないんだが……」


 先程のサクラの様子が気にはなるが、とにもかくにもこの依頼を受けることが決定した。


 「(二人きりでちょっと霊的な依頼…これはいつもよりファストに近づけるかも。わ、私は一応はマスターな訳だし…ちょっと位なら独占してもいいよね?)」

 

 何やら恋人同士が肝試しなどで良く起こる安物のイベントを期待していたサクラであったが、その願いはすぐに無残に打ち砕かれた。


 「とりあえず初めての星四つの依頼だ。俺たち以外にも誰かメンバーを誘うか」

 「え…他にも誰か誘うの?……」

 「? ああそのつもりだが」


 あっけらかん言うファストにサクラは盛大にため息を吐くと同時に明らかにテンションが下がる。


 「ど、どうした?」

 「いや…はは…そうだよね。星四つの依頼だもんね…ふふふ……味方は多い方が良いよね」

 「お…おう……」


 生気が抜けたかの様に乾いた笑い声を上げるサクラに何故こんな反応を取るのか分からず戸惑うファスト。

 マスターの様子の変化に戸惑いながらも早速共に依頼を受けるメンバーを誘う事とするファスト。もっとも、ファストには既にこの仕事に誘う人間の目星は付いていた。

 

 


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