少女、生まれ変わる
ファスト達が居る街、アゲルタム。そこにはこの世界の男性減少の謎を紐解くために、この世界では希少な男性が三人も送り込まれている。だが、また別の街のロメリアにもこの世界に送り緒まれた一人の少年が居た。
その少年は朱い髪をなびかせ、その手には禍々しい巨大な鎌、そして圧倒的な戦闘力を持っていた。
この世界に呼ばれた時、彼を目覚めさせたマスターは魔獣の群れに囲まれていた。絶体絶命であるその状況、しかし朱い髪の少年はその状況をひっくり返した。
自分を召喚したマスターを守る為……というより、ただ純粋に暴れつくしたかったからなのかは定かではないが、その少年はマスターを取り囲んでいた魔獣を皆殺しにした。
朱い髪をしたその少年の名前はフォルス。
そんな彼を目覚めさせたマスターの少女の名はヨミ・ネオナ。
この二人は現在、ロメリアのギルドに所属していた………。
ロメリアの街の中にあるギルド。
そのギルドの掲示板の前には男女のペアが立っていた。朱い髪と水色の髪をした男女の後ろ姿を見ながら周囲のギルド内の女性達はひそひそと話しをしている。
「ああ…燃える様な朱い髪に整った顔立ち…やっぱりカッコイイ♡」
「あんなカッコイイ男の子といつも一緒に仕事できるなんて…相方の彼女が羨ましいわ」
女性達は朱い髪をしている少年の方に熱の籠った視線を向ける一方、隣に居る水色の髪をしている少女に嫉妬の籠っている視線を向けていた。そんな多くの視線にさらされながら、掲示板の前で今日の仕事を選択する二人組。
しかし、少女の方はさして気にも留めてない様だ。だが少年の方は自分に向いている視線に対してめんどくさそうな顔をしている。
「ウゼェなぁ…」
自分に向いている視線に対し舌打ち交じりにそう呟く朱い髪の少年、フォルス。
そんな苛立ち始める少年を諌める様、隣に居る少女は彼をなだめるように落ち着いた様子で声を掛ける。
「落ち着きなさい、前にも言ったでしょ。この世界では男の人はそういう視線で見られるって」
「ちっ…分かってるつーの…」
水色の髪をした少女の言葉に、納得はしていないが舌打ち交じりに従う少年。
そこへ、三人組の少女が二人の元へと近寄って来た。
「あらフォルス君、今から仕事?」
近寄って来た三人組の少女の内、先頭に居るリーダー格の少女がフォルスの方へと話し掛ける。
「私たちもこれから依頼を受けようと思っていたの。どう? どうせなら私たち四人で何か大きな依頼でも受けて見ない?」
このリーダー格の少女が言う四人とは自分たち三人とフォルスのことであり、この場に居る水色の髪をした少女の事は完全に数には入れてはいなかった。
だが、眼中にないのはフォルスの隣で仕事を選んでいる彼女も同じことであった。
「悪いけど私たちはもう仕事を選び終わっているわ。仕事に行きたいのなら三人で行ける依頼を選ぶことね」
水色の髪の少女が三人組にそう言うと、その中のリーダー格の少女は苛立ちを隠そうともせず突っかかって来た。
「はあ? 何偉そうな口きいている訳? ボッチの分際で」
そう言ってリーダー格の少女は水色の髪の少女の胸倉を掴もうとするが、彼女はその手を鬱陶しそうに振り払う。
パシンと乾いた音が小さく響いた。
「うるさいわね…目障りだから消えてくれないかしら」
その言い分にリーダー格の少女は顔を真っ赤にして、大きな声で怒鳴り散らす。
「なによその態度は!? 今までオドオドしていたボッチの分際で随分と偉くなったわね!!」
生意気な態度に対して憤慨するリーダー格の少女。彼女の後ろに居る二人も苛立った表情をしている。一方で、フォルスはその光景を見て小さく笑っていた。
思えば随分と変わったものだ。自分の隣ですました顔をしているこの少女は……。
「(ついこの前まではビクビクと震えて情けない顔をしていたのによ…こうまでガラリと変わっちまうとはなぁ…くっくっくっ、コエーコエー…)」
心の中で笑い声を出しながら、彼女達の行方を黙って見ているフォルス。そんな彼の視線の先では相変わらず自分の相方である水色の髪の少女と三人組が言い争っていた。しかし、両者の反応には明らかな温度差がある。
「アンタみたいな奴が男と一緒に居る資格なんてないのよ!!」
「へえ…陰湿な事をずっとし続けていたあなたみたいな低俗な人間には資格があるとでもいうのかしら?」
「テメェッ!!」
ついに我慢が出来なくなったのかリーダー格の少女が拳を振りかぶって来た。
平手打ちではなく、グーで握った拳で殴りかかるリーダー格の少女だが、水色の髪の少女は首を横に動かしそれを躱し、足を引っかけて体勢を崩させた。
足を引っかけられ、勢いよく地面へと転ぶリーダー格の少女。ギルド内で思いっきり転んで恥ををかく瞬間をギルド内に居る者達に思いっきり見られてしまう。
クスクスと周囲からは笑い声が漏れていた。
「くっ…!」
周りから聴こえて来る笑い声にリーダー格の少女の顔がカッ~と赤くなっていく。
「……ちっ!」
さすがにバツが悪くなったのか、すぐさま起き上がるとリーダー格の少女はフォルスたちからスタスタと早歩きで離れて行く。傍にいた二人も後を追う様に離れて行った。
一連の出来事を黙って見ていたフォルスはとうとうこらえきれなくなったのか、三人組が離れた後についに噴き出してしまった。
「ぶはっ! くくく…くはっ」
口元を抑えながら笑うパートナーの朱い少年に水色の髪の少女は冷たい視線を向ける。
「黙って見ていないであなたからも何か言ってよね。元々あなた目当てで彼女達は絡んできたんだから…」
「わりぃわりぃ。でも、〝今のお前〟なら堂々と言い返せると判断したんだよ」
そう言いながらフォルスは自分に対して冷めた目を向けている少女、ヨミ・ネオナへと言った。
かつて、このヨミ・ネオナという少女はとても気弱な少女であった。
先程絡んできた三人組の少女にも日ごろから陰湿な行為を働かれており、何度も涙を流していた。しかし、そんな彼女にも転機が訪れた。
それは自分の隣に居る朱髪の少年、フォルスとの出会いであった。
この少年との出会いをきっかけに、ヨミは別人の様に生まれ変わる事が出来たのだ。
フォルスとしては自分のマスターであるヨミの性格は自分の性に合わないと考え、彼女に強くなることを強要した。勿論、最初は戸惑っていたヨミであったが、強引かつ強気な彼に付き合っている内にヨミの精神面にも変化が訪れた。なよなよしていた内気な彼女の殻が割れて、今までとは明らかな変化が性格へと現れる。それまでは周囲の顔色を窺い、怯えていた彼女は隣に居る朱い少年のお蔭で今では自分の存在に自信を持った少女へと生まれ変わったのだ。
「仕事が決まったわ、行くわよフォルス」
「へいへい」
掲示板に貼ってある依頼書を一枚はがし、その依頼書を受付へと持っていくヨミ。その後ろをフォルスがついて行く。
依頼書の難易度は星三つの中堅クラス。過去の彼女はランクの低い星が一つ、多くても二つの物しか受けてこなかった。だが、今の彼女の表情にはこれから受ける依頼に対する不安など微塵も感じられなかった……。




