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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第五章 少年たち、それぞれの日々編
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少年、魔法を発現させる 


 「あのさ、サード君――――そんな事気にしなくてもいいんじゃないかな?」

 「そ、そんな事って・・・確かにレンゲには他人事だからそう思えるかもしれないけど・・・」


 レンゲの物言いに少し不快感を感じるサード。

 そりゃ、このような類の悩みは当の本人にしかわからないのかもしれないが、だからと言ってそんな事などと簡単に切り捨てられるのは釈然としない。

 

 「別に他人事だと思ったからそう言ったわけじゃないよ」

 「じぁあ・・・どうして・・・?」


 サードがそう聞くと、レンゲは頭を軽く掻きながら相変わらず軽い様子で答える。


 「だって、記憶が無くてもサード君はサード君でしょ?」

 「それは・・・そうだけど・・・」

 「昔の記憶が無くて今のサード君は自分の意思をもっているでしょ?」

 「そりゃ・・・うん・・・」

 「そんでもって罪を犯したけど今は償いの意味でウチの店で働いているでしょ? ならそれでいいんじゃないの?」

 

 レンゲはそう言ってサードの頭をポンポンと軽く撫でる。

 しかし、彼の表情は浮かないままだ。そんな彼の様子を見かねて、レンゲは思いっきり彼のことを抱きしめた。


 「レ、レンゲ・・・?」

 「だーいじょーぶ! サード君は色々な事で不安になっているんだろうけど、そういう時はレンゲおねえさんがギュっとしてあげる」


 抱き着かれた事でサードの顔にレンゲの柔らかな胸が押し付けられ、少し恥ずかしそうにするサード。その様子を見て彼女は調子に乗って、更に体を――――特に胸の部分を押し付ける。


 「ほれほれ! 柔らかいでしょ~!」

 「ちょっ・・・ちょっと・・・!?」


 さすがに恥ずかしくなったのか、押し付けられている体を押しのけるサード。

 しかし、この世界ではどちらかといえばサードではなく、彼を抱きしめているレンゲの方が遥かに羨ましいわけなんだが。


 「不安な時はこうして抱きしめてあげるから大丈夫!」


 何の解決策にもなっていないレンゲの発言に少し呆れてしまうが、自分とは対照的なまぶしいその笑顔に思わず小さく噴き出してしまうサード。隣に居る彼女の姿を見ていると、なんだか自分が悩んでいた事が馬鹿々々しくなってくる。

 

 「ははは・・・・・・」


 いつの間にか彼の口からは小さく笑い声が漏れていた。

 その様子を見てレンゲも口から小さく笑い声を零した。


 「あっ、そうだ。よかったらこの後私の家に来ない? もうすぐ夕方だし晩御飯作ってあげちゃうよ~」

 「ん~・・・じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」

 「ヨーシっ、じゃあレッツラゴーッ!」

 

 そう言ってサードの手を掴んで歩き出すレンゲ。

 先程まで浮かない表情を浮かべていた少年の顔には、どこか吹っ切れたような笑顔が浮かんでいた。







 同じ頃、宿屋ヒールではファストがサクラの部屋へと訪れていた。

 その理由は、サクラに話しておきたいことがあったからだ。


 「それでファスト、話って何?」


 部屋に訪れ、自分に言っておきたい事があると言ったファストに首を傾げるサクラ。


 「ああ、以前ゆっくりと自分の使う魔法のイメージを考えて行こうと言っていただろ。それがようやく決まったんだよ」

 「あっそうなの。それで、どんな魔法にしようと決めたの?」


 サクラは彼がどのような魔法を使う事にしたのかを聞くと、ファストは手の平を上へとかざす。そして、マナを籠めると――――


 微かな〝風〟がファストの手のひらの上で巻き上がった。


 「・・・・・・風」


 とても小さくはあるが、ファストの手の平から風が発生した。小さく吹き荒れた風が、ファストとサクラの髪を揺らした。


 「これが俺の今後使おうと思う魔法だ」


 ファストはもう片方の手の平をサクラの顔に向けた。すると、向けられた手のひらから小さな風がサクラの顔へと送られる。

 吹き付けられた風に一瞬涼しいと感じたが、小さな風とはいえ顔に直接当てられると髪の毛が少し乱れてしまい、髪を直しながらサクラはイタズラをしたファストに文句を言う。


 「もう、やめてよ・・・」


 頬を膨らませて小動物感を連想させるサクラに笑いながら謝るファスト。


 「ははは・・・悪い悪い・・・でもさすがについさっき思いついたばかりの魔法だからこの程度の風力しかまだ操れなくてな・・・・・・」


 ファストが言った先程思いついたばかりという言葉を聞いて、サクラは少し驚いた。というのも、前回彼は自分に魔法発動の原理こそは聞いてはいたのだが、その発動の仕方、いわゆるコツに関しては何も聞いてはいない。にも関わらず、彼はつい先程イメージしたばかりの力を魔法として発現させることが出来たのだ。


 「(私が魔法を使えるようになるのに随分とかかったのに・・・)」


 ちなみに、サクラが炎を発現させるには魔法のイメージが定まってから一週間近くかかった。しかも、発現当初はマッチ棒よりも少し強い程度の炎しか出すことは出来なかった。


 だが、ファストの話が本当なら、彼はイメージが出来たその日の内にすでにマナをイメージした力へと変換する事に成功したという事となる。


 「(凄い才能・・・私なんかとは比べ物にならない)」


 もしも目の前の少年が〝風〟の力を完全に発現させ使いこなせるようになったとしたらどれほどの使い手になるのだろう・・・・・・。

 

 「しかしサクラ、魔法を身に着けてから気になったことが」

 「・・・あっ、何?」


 ファストのセンスに少し驚いていたサクラであったが、声を掛けられたことで少し遅れながらも意識が引き戻される。


 「この魔法の力・・・どうしてギルドの連中は皆が習得しようとしないんだ? たとえばあのブレーとかが魔法を習得すればもっと強力な戦闘力を得る事が出来るんじゃないか?」

 「う~ん・・・そうでもないんだよね」


 ファストの疑問に対し、サクラは首を微かにひねりながら唸り声を出す。

 

 「魔法を使用するにはマナを消費するからね。マナは使えば使うほど消費して行く・・・」

 「・・・ああ、なるほど。マナを使う事で身体能力の強化をなせるわけだからな・・・純粋な肉弾戦を好む奴からすればマナを肉体の強化以外に割く気にはなれないという事か・・・・・・」


 ファストの言った通り、体内のマナは身体能力を高めるために使用することが出来る。だが、魔法を使うとなればマナの消費量も必然的に激しくなり、身体能力上昇につぎ込めるマナが少なくなってしまうのだ。勿論、魔法を使いなおかつ身体能力を高める事の両立は可能だ。だが、どちらか片方にマナの使い道を絞る事でその力を最大限に発揮する事も出来るのだ。


 現にサクラは身体能力も強化できるが、どちらかと言えば〝炎〟の魔法を戦闘のかなめにしている傾向がある。逆に、以前手合わせをしたブレーは魔法を一切使わないタイプである。

 

 「私が魔法主体で戦うよう、その逆純粋な身体能力を高めて戦う人、マナをどう使うかは人それぞれだからね。だから必ずしも皆は魔法を習得しようとは考えないんだよ」

 「う~む・・・でも、理想的なのは魔法を習得し尚且つ純粋な戦闘力も両立して高める事だよな」

 「まあ・・・ね・・・でも、二つを極める事は珍しいから大抵は片方の分野を伸ばそうとするけどね・・・」


 ファストは自分の手の平を上にして、そこから小さな風を再び発生させる。

 高い身体能力に、すぐに魔法を発現させたファストの様子を見て、サクラは内心で彼ならその二つを極めれるんじゃないかと思ってしまった。



 

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