少年、引き続き街の中を見て回る
「お姉さん、アイスクリーム二つね♪」
「はいよ!」
レンゲが屋台のお姉さんへと自分とサードのアイスを二つ注文する。その注文に対し、元気よく返事を返す女性。なんだかこの必要以上の元気の良さ、アイスクリーム屋には少し似合わないと思ってしまう。だって元気のいいアイスクリーム屋さんって・・・・・・。
「お、坊主! もしかして今噂の看板息子か! 成程な・・・噂で聞いていたが中々可愛らしいじゃないか!」
「ど・・・どうも・・・」
サードもこのようなタイプの女性は初めてなので、僅かながら戸惑っていた。
今まで見て来た女性とは違い、自分に何かしてくる気配は一切ないのだが、逆にここまで豪気といおうか、そういうタイプの女性は見たことがなかったのだ。
「はいよ! サービスで坊主には少し多く盛っておいたからな!」
カップに入ったアイスをレンゲとサードの二人に丁寧に手渡す。
サードが財布を取りだそうとすると、レンゲが先にアイス代を払う。
「いいよ、私が出してあげる」
「え・・・でも・・・」
「いーからいーから! おねーさんが奢ってあげる♪」
そう言って屋台のお姉さんに二人分のアイスの料金を手渡すレンゲ。
料金を渡し終わると、早速アイスを一緒に渡されたスプーンですくって一口食べる。口に入れると、とても甘く濃厚な味が口の中に広がる。しかもアイスの持つ冷たさが濃厚な味なのにしつこさを感じさせなかった。
「おいしい、サード君も食べなよ」
「うん・・・」
サードもスプーンですくって一口、そしてレンゲ同様、口元に笑みが浮かべる。
「甘くて美味い・・・」
そう言うとサードはスプーンでアイスをすくい夢中で食べる。
「どうだ! うまいだろ坊主!」
がッはッはッと豪快に笑いながらサードの頭をぐりぐりと撫でまわすお姉さん。
その姿を見ると、失礼ながらもやはりアイスクリーム屋が似合わないなぁと思ったレンゲであった。
アイスを食べ終わった後、二人は再び街の探索を再開した。
レンゲは相変わらず楽しそうにサードと手を繋いでいる。それに対して少し照れくさそうなサード。
「あ・・・あの子!」
「あの店の看板息子くんじゃない♡」
街を歩けばやはりサードの姿は目立つもので、女性達は通り過ぎて行く少年の姿に注目をする。
「話には聞いていたけど・・・カワイイ~~~っ♡」
「はあ、はあ・・・年下系男子・・・」
中には危なげな様子、発言をしている者達もいる。
それだけならまだしも、明らかに下心のある女性が近寄って来る事もあるのだが、その場合はレンゲが守ってくれるので、今のところはなんとか安全に街を見て回れていたサード。
「そうだ、サード君新しい洋服欲しくない?」
「・・・ここに男物の服有るの?」
サードは確かにお店で用意された従業員用の服以外は、今着ている服以外には何も持っていない。
しかし女性の密度が高く、男性が少ないこの世界・・・いや、この街に男物の衣服があるのかどうか聞く。しかし、彼のその疑問にレンゲは手を振って大丈夫だと答える。
「だいじょーぶ。実は最近、私と同じ位の男の人をモデルにした服を作った洋服店があってね、そこならサード君にも似合いそうな服があるはずだよ♪」
レンゲに連れられてしばらく歩くと、二人は目的の洋服店へと辿り着いた。
店の中に入ると、巨大に引き伸ばされた顔見知りの少年の写真が目に入るサード。
「あれってギルドに入ったていうファスト君? へぇ~、あんな顔してるんだ・・・・・・」
噂話では聞いているが、何気にファストの顔を今回初めて見たレンゲ。
大半の女性は一目見たくてギルド近くで彼が通るのに待機していたりしたが、そういった女性達の様に男性に過剰な興味がなく、むしろ薄いレンゲはこの日初めてこの街に居るサード以外の男性を見た。
壁に貼られているファストの姿を見てサードはふと思った。
「(意外だな・・・こういう事もするタイプだったんだ・・・)」
サードの中のイメージではこういった見世物になるような事をするイメージはなかったのだが、このような写真を飾ることを許可している事に意外性を感じた。
だが、その認識は少し違う。本来彼はこの洋服店のモデルという仕事を受ける気はなかった。同業者にはめられて引き受けざる得なかったのだ。しかも、店の中にこのような巨大写真を飾る話なども一切本人は聞いていなかった。
後日、この店にその本人が現れるのだが、何も知らない彼は店の中でデカデカと主張するこの写真を目の当たりにして石の様に固まってしまう。
まあ、それはさておき、この洋服店もサードの働いている安腹亭同様、男性の力を借りたことで以前よりも客足が伸びている様子だ。
すると、店の中に居るお客達がサードの存在に一人、また一人と気付いた。
「ねえ・・・あの子・・・」
「あっ、安腹亭の看板息子クンじゃない♡!」
この街で有名な看板息子が現れたことで周囲の女性客から小さく黄色い声が聴こえて来る。
周囲から向けられる熱視線から逃れるよう、サードは無意識にレンゲの背後へと回り込んでいた。彼がそう動いたという事は、レンゲに対しては警戒心が薄いという事でもある。
「大ジョーブだよ、サード君」
そう言ってサードの頭を撫でるレンゲ。
温かな手の感触にサードが思わず目を細める。
その光景を見た周囲の客達は心の中で雄たけびを上げる。
「(うひょおおおおおッ! あの目を細めている姿、カワイイ♡!)」
「(天使! 天使がここにいるわ!!)」
「(くっ、あの子羨ましいわね・・・・・・そこ替われ!!)」
声には出してはいないが、周囲の表情の変化はあまりにも露骨なため、レンゲがサードの身を案じる。
「(少し危ない感じね・・・襲い掛かって来る前に早く服を選んで出た方が良いわね・・・)」
レンゲがサードの手を引いて、この店の店員に話し掛ける。
「すいません、この子に合いそうな服ってありますか? 最近、この店では男性女性の両方が着れる服が出ているとか・・・あそこの写真ってそのイメージですよね?」
レンゲが壁に貼られているファストがモデルの写真を指差しながら言った。
一方、店員は彼女の隣で少し隠れている、小動物を連想させるサードに頬を染めながら少し怪しげな笑みを浮かべている。
「あの~・・・」
「はっ!・・・ええっと、何でしたっけ?」
店員がレンゲに声を掛けられて我に返る。
女性の自分が言うのも何だが、この世界に居る女性達はいささか危険な気がする。お店の店員ですら、自分が声を掛けるまで目の前の年下少年に目を奪われていたのだから・・・・・・。
「(もしかしたら男の人を独占しているような奴もいるんじゃ・・・)」
そう考えると少し背筋がゾワッとする。
彼女が想像した独占、それはいわゆる監禁の類を想像したのだ。しかし、この男性減少した世界ならば、そのような危険な思想を持っている女性も何処かに居るのかもしれない。
そう考えているレンゲであるが、まさかこのような事は想像しないだろう。
すでにこの街、アゲルタムには監禁ではないが、男性と一緒に生活をしている事実を隠して一人の少年を独占している少女が居ると言う事実を・・・・・・。




