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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第五章 少年たち、それぞれの日々編
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少年、精神的に疲労する    


 試着室で着替え終わった後、中々ファストは試着室のカーテンを開けようとはしなかった。

 いくらなんでも着替えるには時間がかかり過ぎると思った三人、その中でヤイバがカーテン越しに居るファストにどうしたのかを窺う。


 「ファストどうした。何かあったのか?」

 

 ヤイバが声を掛けるが返事は返ってこない。

 

 「ファ、ファスト・・・?」


 サクラもさすがに心配になり、ヤイバに続いて声を掛ける。

 すると、数秒遅れてファストから返事が返って来た。


 「・・・・・・恥ずかしいんだよ」

 「え?」

 「パンツ丸出しの状態で盛大に転んで、しかもお前たちにも盛大に見られて・・・それでどんな顔してこのカーテンを開けろっていうんだよ・・・・・・」


 消え入りそうな声でそう言う彼の言葉にサクラはフォローを入れて立ち直させようとする。


 「だ、大丈夫だよ! 第一あれは事故だったんだし!!」

 「そ、そうですよ! 気になさらないでください!!」


 サクラとウェウアの二人は必死に庇う体を見せるが、しかしここでこの女店主は余計な事を言ってしまう。


 「それに私にとってはあの事故はとてもありがたいハプニングでした! パンツ姿の男の人の姿なんて今の時代そうそう見れるもんじゃありませんからッ!!」

 「(いや、それは・・・)」


 ウェウアの言葉にヤイバは思わず呆れてしまう。

 フォローのつもりなのだろうが、どう考えてもこの場合は逆効果だ。


 「ははは・・・そうか、そんな珍しい醜態を俺は晒したんだな・・・無様だ・・・」

 「あ、いえ・・・そう言う意味じゃ・・・」

  

 ファストの声のトーンがさらに下がった。


 「おバカッ!」

 「御免なさい!」


 思わず依頼人である事も忘れてウェウアのことを叱りつけるサクラ。

 ウェウアも思わず素直に謝ってしまっていた。


 それから約十分間の間、ファストは試着室の中から出て来ることはなかった。







 「――――まさか、あんな恥ずかしい思いをするとはな・・・・・・」


 洋服店での出来事を思い返し、遠い目をするファスト。

 しかもこの後、彼は様々な服を試着させられ、その上ウェウアからは舐め回すかのように何枚も写真を撮られ続けるハメとなり、精神面に相当な疲労がたまって行った。

 

 「あはは・・・お疲れさま!」


 サクラは苦笑しながらもファストを労う。

 

 「しかもあの店主、必要以上に写真を撮っていたが本当に広告の為だけに撮っていたのか? どう考えてもそれ以外にも理由があった様な・・・」

 「もしかして、その写真を売りに出していたりして・・・」

 「やめろよ!! ゾワっとしたぞ!!」


 ヤイバの言葉に大きな声で反応を示すファスト。

 もしも自分の撮影された写真が見知らぬ他人に売り買いの為にばら撒かれていると考えると・・・・・・。

 

 「・・・・・・っ」


 ブルりと体を小さく震わせるファスト。

 だが、その心配はしなくてもいいだろう。店主のウェウアは今回、明らかに余分に撮影した写真を他に売りつけて商売として扱う気などは無かった。


 ちなみに明らかに余分に撮影された写真は個人用のコレクションとして保管されているのだが、それをファストが知ることはこの先ないだろう。


 「ヤイバ、次から依頼に誘う時は依頼書を俺にちゃんと見せろよ」

 「分かっているわ・・・だからそんなに睨まないで・・・」


 さすがに負い目を感じているのか、素直に謝罪をするヤイバ。

 そんな彼女のことをフォローするかのようにサクラがファストのことをなだめようとする。


 「まあまあ、今回の報酬の内ファストが一人で半分以上もらえたんだし、それにヤイバも今後はちゃんと依頼の内容は話してくれると思うし・・・機嫌直そうよ」

 「まあ、確かにたくさんの報酬は得られたが・・・」


 今回の依頼での報酬に関しての分け前は、ファストが10の内、5以上を一人で取り、残りをサクラとヤイバの二人に分配された。サクラは何もしていないとの事で報酬は要らないとファストに言ったのだが、折角来たのに報酬ゼロはあんまりかなと思い、ファストが自分の得た報酬を分け与えたのだ。

 つまり、ファストは自分の取り分を減らしてサクラに回したという事になる。


 「別に私は要らなかったのに・・・」


 サクラがそう言うが、さすがに自分のマスターに対してそんな扱いは出来ないという事からファストは自分の取り分を削り、彼女に強引ながらも報酬を分け与えた。


 だが、実はサクラは既に報酬を受け取っていたのだ。

 金銭ではない、ある報酬を・・・・・・。


 「(部屋に戻ったら隠し場所を見つけないと・・・)」


 サクラが受け取った報酬、それは数枚の写真であった。

 今回、ウェウアが撮影した写真、それをサクラは陰でひそかに数枚受け取っていたのだ。普段とは異なる衣服に包まれたファストの姿にはサクラもくぎ付けとなり、撮影の間はずっとうっとりとしている表情で眺めていた。

 そんなマスターの秘かに受け取っていた写真の件など知らず、ファストは自分の写真が誰かの手に渡ったりしないかの心配をしている。


 すでに自分の傍にいる女性の手に自分のモデル写真が受け渡っているのだが・・・・・・。

 ちなみに、ヤイバはその事実をちゃんと知っているのだが面倒に発展しない様にあえて黙っている。


 「まあ、今後はあの店で俺の服を仕立ててもらえる事になった事はありがたいが・・・」


 依頼が終了した後、今後必要な服が有れば仕立ててくれると約束をしてくれたウェウア。一度顔を出している店ならば、ファストとしても気兼ねなく衣服の作成を依頼しやすい。

 この世界では男の自分は初めて訪れた場所では騒がれやすい。だが、一度面識のある相手の店ならばそこまで騒がれることも無いと思ったのだ。


 そうこう話していると、ようやく自分たちの住んでいる宿屋へと辿り着いた三人。

 そのまま各自の部屋へと戻り、休息を取り始める。特に精神的に相当披露したファストは部屋に着くなりベッドの上へと体を倒した。




 同じく自分の部屋へと入り、扉を閉めるサクラ。


 「さて・・・この写真、どこに隠そうかな?」


 そう言ってサクラはポケットの中に隠していた写真を取り出す。

 そこには様々な服に身を包んだファストの姿、しかもよく見ると恥ずかしいのか僅かだが表情にテレを感じられる。


 「えへへ・・・・・・♡」


 どこか危なげな感じの漂う表情をしながら、サクラはしばらくの間、写真の中に映る少年の姿を眺めて時間を潰していたのであった。







 ちなみに後日、ヤイバは依頼を受けた洋服店へと訪れてみた。


 その理由はあの依頼をファストが受けて数日後、彼のモデル写真を元に作られた広告チラシが至る所で配られていたからだ。配られたチラシを受け取った女性達はそのポスターに映っているファストの姿にうっとりとしていた。

 ちなみに、ファストがギルドでそのチラシを受け取った時、赤面して俯いていた。その姿に、その時彼の周囲に居た女性達は「かはっ!」と言って鼻血を出していた。


 まあそれはさておき・・・・・・。


 ヤイバがウェウアの洋服店へと訪れるとそこには圧巻の光景が広がっていた。

 店の中には大勢の女性客が訪れ、その誰もがファストのポスターを見て、彼と同じ服を購入しに来ていたのだ。


 ちなみに、店の中にはファストの撮影写真が大きく引き伸ばされ、店内に張り出されていた。


 「(ファストがこれを見たら恥ずかしさの余り倒れるんじゃないかしら・・・)」


 元はと言えば自分が誘った依頼。

 ヤイバはこの事実をファストには伏せておこうと心に決めるが、後日に服の仕立て依頼に訪れたファストが店へと訪れた。


 その際、店に貼りだされている巨大写真を見て彼の体が固まったのは言うまでもない。

 



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