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少女、窮地に立たされる


 「では、よろしく頼むねぇ・・・」

 「はい、任せてください!」


 村長の家で食事を終え、少しの小休憩を取った後、ヨミは村の奥に続いている森林の入口前で村長から見送りを受けていた。

 

 「必ず魔獣を退治して、この村を平穏にして見せます!」


 普段はとても弱気であるはずのヨミだが、村長やここに来るまで出会った村の人々はとても優しく、こんな自分の事を心配してくれた。その優しさのお蔭で、今の彼女は普段よりも自信に満ちていた。それはこの村を平和にしたいという一途な思いから来る物であった。


 なんと滑稽な姿だろうか・・・・・・この村の住人達がヨミに見せてくれた優しさなどは仮の物に過ぎないと言うのに・・・・・・。


 過去、そして現在もしているこの村の依頼内容の偽り、それが原因で一人の女性が命を落としている。しかし、この村の連中はその事に対して罪悪感など一欠けらたりとも感じてはいないのだ。勿論、今目の前にいる純真な少女に対しても同義である。


 「では・・・行ってきます・・・」


 そう言ってヨミは、森林の奥へ奥へと進んで行った。

 しばらくは心配そうな表情をしていた村長であったが、ヨミの姿が完全に見えなくなると、小さく欠伸をし始める。


 「まあ、最悪死んでもいいから住み家に居る魔獣を全て片付けて相打ちで死んどくれよ」


 この村の為に命懸けの少女に対し、心配も感謝も何も籠っていない・・・あえて言うならば悪意の籠った言葉を吐くと、村長は自分の家へと戻って行った。







 一方、そんな村長の裏の顔などまったく知らないヨミはゆっくりと、それでいて警戒をしながら少しずつ奥へ奥へと進んでいく。先程までいた村の中とは違い、人の声など一切聴こえない静寂に包まれた空間に少し怖さを感じてしまう。しかし、この村の平穏の為にもここで引き返すことは出来ない。その純真な思いが臆病なヨミに勇気を与えて足を進ませてくれた。


 「そろそろ・・・魔獣達が身を置いている根倉付近だ・・・」


 村長の話で聞いていた魔獣達が身を置いている住み家まで、移動した距離などを考えるとそろそろ着くはずだ。

 ここまで来ると、さすがに微かだが体に震えが走る。


 「(だ、大丈夫・・・村に居る人達でも退治できるレベルなんだから・・・わ、私には魔法があるし・・・)」


 村長の話が本当であれば、ヨミ一人でもなんとかこの依頼を達成できていただろう。だが、それは依頼書に一切の誤りが無ければの話だ。彼女は知るはずもないだろうが、この依頼の難易度は公正に考えれば星三つは間違いなくあるのだ。これまで最大でも星二つの依頼しか受けていない彼女が一人で受けるには難易度が余りにも高すぎる。

 だが、そんな事実を知るはずもないヨミには、この依頼を達成してみせるという想いしかなかった。


 「・・・!」


 それまで動かし続けていた足を止めるヨミ。

 未だに姿を確認することは出来ないが、この場所からでも微かだがマナを感じ取ることが出来るのだ。


 「居る・・・この先に・・・・・・」


 この先に間違いなく村に被害を与えている魔獣達が居る。

 ヨミは周囲の木々を利用しながら息を殺してゆっくりとマナの反応を感じる場所へと移動して行く。


 そしてそれから数分後、ついに目的の場所まで辿り着いた。


 「居た・・・」


 ヨミの視線の先には、森林の中の木々が倒れて開けた場所に数匹の魔獣が身を寄せて眠っている姿が確認できた。


 「あれが・・・」


 十中八九、あそこに居る魔獣達が村を襲っている魔獣達なのだろう。

 身を寄せ合っている姿は眠っていれば少し可愛く見えるのだが、だからと言って村に被害や怪我人を出す事を許容出来る筈もない。

 

 「チャンス・・・」


 この状況、正直ヨミにとってはとても理想的な状況であった。

 魔獣達は全員眠りについており、自分の存在にも気付いていない。完全に無防備なこの状況は逃す訳にはいかない。

  

 ヨミは一緒に持ってきた鞄の中を漁り始めた。

 依頼の中で何か役に立ちそうな物をこういう時に備えて買い揃えておいたのだ。食費に当てたい所を何とか堪え、仕事を達成する事を優先して用意をしてきた。

 ヨミが鞄の中をのぞき込むと、一つの物が目に入った。


 この依頼には正直不必要だと判断していた、昨日拾ってきた朱い石であった。


 「・・・・・・」


 しかし、この場面では関係ない物であると判断してその隣にある道具を鞄から出した。

 それは道具屋で購入した催眠ガスをまき散らす道具。見た目はボールの様に見えるが、これにマナを籠めるとボールに空いている穴から睡眠ガスが大量に発生する。

 ヨミは鞄から一緒に購入した簡易的な防護マスクを顔に付け、ボールにマナを籠めようとした。


 だが、この時ヨミは前方の魔獣達だけに意識が向きすぎていた。


 「・・・・・・え?」


 ふと、何か冷たいものが背中に走る。

 

 振り返る事を躊躇うヨミ。それは嫌な予感が脳裏をよぎったからだ。


 「・・・・・・」

 

 だが、それでも勇気を出してゆっくりと自分の背後を彼女は見た。


 そこには――――一匹の魔獣が自分を見て立っていた。


 「あ・・・あ・・・」


 声が思う様に出ず、体が震える。

 そんな彼女を見て魔獣は小さく唸り声を上げる。


 「あ・・・アクアボール!!!」


 しかし、魔獣が飛び掛かって来る直前、ヨミは自らの魔法を先手必勝で叩き付けた。

 彼女が放ったものはマナを水に変換させた水の球。勢いよく放たれた水球は魔獣を吹き飛ばして樹に叩き付ける。

 しかし、魔獣はダメージこそあるようだが、ゆっくりと起き上がって来た。その瞳には、よくもやってくれたな、という強い怒りが感じ取れた。


 「ま、マズイ!?」


 ヨミは追撃を加えんと再び水球を放とうとするが、背後から複数の唸り声が聴こえて来る。 

 

 「く・・・っ!」


 振り返るとやはり唸り声の正体は先程眠っていた魔獣達の口から放たれている物であった。あれだけ大きな音を出してしまったのだ。目覚めてしまうのも当然と言えば当然だ。


 「ガアァァァァァァァッ!!」

 

 魔獣達は一斉にヨミに向かって飛び掛かって来る。


 「ひいっ!!」


 ヨミはその場から急いで離れる。

 しかし、魔獣達もそれを黙って見送る訳も無くヨミの後を追いかけて行く。


 「アクアボール!!」


 走りながら背後にいる魔獣に先程以上にマナを籠めた一撃を加える。

 ヨミの手から放たれた攻撃は魔獣に直撃したが、それでも魔獣の足が止まる気配はまるでない。


 「そ、そんな!?  あんなにマナを籠めたのに!!」


 マナを変換させて放ったヨミの攻撃は唯の水とはわけが違う。少なくともただの村人ですら倒せるレベルの魔獣相手ならばそれなりのダメージを与える事が出来る筈だ。

 だが、ヨミは知らない。その魔獣のレベルは村が報告した物よりも遥かに上である事実を・・・・・・。


 「きゃっ!?」


 自分の攻撃が通じず焦ってしまい、足がもつれてしまい転んでしまうヨミ。

 魔獣は倒れたヨミに向かい牙を向けて来る。


 「ひぃっ!?」


 転がって自分に食いつこうとする牙を回避するヨミだが、別の魔獣が思いっきり体当たりをしてきた。


 「ガッ!!」


 さらに別の魔獣が腕を振るいヨミの体を弾き飛ばす。


 「がひっ!」


 吹き飛ばされた彼女はそのまま樹に激突して頭部を強く強打してしまう。その際、身に着けていた鞄の紐が切れ、地面に落ちる。しかし頭を打ち付けた彼女にはそんな事を気にする余裕すらなかった。

 

 「うう・・・」


 痛む頭を抑えるヨミ。

 だが、すぐにはっとして息を吞んだ。


 気付けば自分の周りを魔獣達が完全に包囲しているのだ。


 「あ・・・ああ・・・」


 絶望的な状況に体が硬直し、悲鳴を上げる事すらできない。

 そんな彼女にゆっくりと近づいて来る魔獣達。


 ヨミがもうだめだと思ったその時、離れた場所に落ちている彼女の鞄の中から、朱い光が放たれた。




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