少女、一人で仕事に出掛ける
河原の中から一つの朱く光り輝いている宝石の様な石を拾ったヨミ。
見た感じでは宝石・・・とは思えないが、もしかすれば希少価値のある物かもしれない。
「・・・・・・」
ヨミはその石を自分のポケットの中にしまい込んだ。
何故なのかはわからないが、この石からは何か引き寄せられるような何かを直感的に感じ取ったのだ。
「一度ギルドに戻ろうかな・・・」
気が付けば随分長い時間をこの河原で潰していたヨミ。
さすがにもう自分に絡んできたあの三人組は依頼を選び終わっている頃だろう。
「まだ私でもできそうな依頼・・・残っているかな」
彼女は不安を抱きながらも、ギルドの方へと足を運んで行った・・・・・・。
ギルドに戻ったヨミは何とか自分でもこなせそうな依頼を得ることが出来た。
彼女が選んだ依頼の難易度は星二つ。出来る事ならば星一つの依頼を取りたかったのだが、自分が居ない間に残っていた星一つの依頼は全てとられており、残っていた依頼の中でも自分が何とかこなせそうな依頼はこの星二つの依頼であった。
依頼内容は『村にはびこる魔獣達の撃退!』というもの。出現する魔獣のランクはとても低い物で、一人でもこなすことが出来る依頼ではあるが、しかしそれは腕の立つ者に言えることで、ヨミの様な気弱な少女一人ではこなせるかどうか疑問であった。
だが、今のヨミにはあまり仕事を好きに選んでいる余裕がなかった。
「宿の宿泊費もそろそろ危なくなっているし・・・何とかこの依頼を達成しないと・・・」
ヨミは内気な性格が災いし、ギルド内では共に依頼をこなす仲間が存在しなかったのだ。いつもいつも彼女は一人で依頼を受けていた。しかし、一人で依頼を受ければ当然達成できる難易度も限られてくる。現に彼女は星一つの依頼が大半、ランクを上げても星二つが限度であった。しかし、ランクの低い依頼ほど得られる報酬だって少ない。しかも、ヨミは先月の仕事ではミスをして報酬は得られなかったのだ。
「星二つのこの依頼・・・達成できればしばらくは大丈夫」
今回彼女が受けようとしている依頼は達成できれば星二つの中でも中々に大きな報酬が手に入る。そうすればしばらくはお金の心配をする必要は無くなる。
「頑張らないと・・・」
自らを励ますかのように小さく呟くヨミ。
自分が宿泊している宿に戻った後、彼女は明日の依頼に備え、その日は宿で食事を取った後はシャワーを浴びて早めに就寝をした。
無駄に夜更かしをせず、体調も万全に整えておくためにすぐに布団の中へと潜り込み目をつぶる。
「ん・・・」
眠りにつく直前、ふと目を薄く開くヨミ。
薄く開かれた彼女の視線の先には、部屋に備わっている机の上に置いた、今日河原で拾ってきた石が朱く・・・光っていた・・・。
――――翌日
「ん・・・朝・・・」
目覚めると、朝日が部屋の中へと入り込み、部屋の中を照らしていた。
寝ぼけ半分の意識を覚醒させる為、ヨミはシャワーを浴びる為に風呂場へと移動する。
シャワーから出て来る温かなお湯が、頭から全身へと流れて行き寝ぼけている意識が覚醒していく事が分かる。
さっぱりしたその後、宿で出される朝食を食べ終えたヨミは一度自分の部屋へと戻り、依頼を引き受けた村へ行く準備を整える。
必要最低限の荷物を纏め、部屋を出ようとするヨミであったが――――
「・・・・・・」
部屋を出る直前、昨日拾ってきた机の上にある朱い石が何故か気になるヨミ。
なんとなく持ち帰った石であったが、何故かヨミにはこの石が気になっていた。
「この石・・・後で調べてみようかな」
ヨミは部屋に置いていた朱い石を鞄の中へとしまい込む。
この仕事が達成できた後、詳しく調べてみようと思い、昨日拾ってきた石も持っていく事にした。
この時の彼女には予想もできなかっただろう。
言ってしまえば気まぐれで持っていく事に決めた、もっと言えば偶然拾ったこの石が元で自分が窮地を救われることになるとは・・・・・・。
依頼した村までは少し距離があるため馬車でも使いたいところだが、何分金欠なヨミにはそんな余裕も無く、早い時間に村を出て目的地まで歩いて行こうという考えとなった。
「・・・あ」
村の入口まで行くと、昨日ギルドで絡んできた三人組の女性、その両隣に居た少女二人が立っていた。
出来る事なら顔を合わせたくはないのだが、徒歩で依頼を受けた村に行くため、遅くならない様に速く出発したいヨミとしては彼女達が居なくなるまで待ち続ける事も出来ず、顔を俯かせて入口まで移動する。
「あ・・・」
「・・・」
顔を俯かせているとはいえ、素顔がもろにさらされているので当然入り口に居る二人には気付かれる。だが、幸いなことにこの取り巻き二人は、昨日自分を叩いたリーダー格の女性とは違い積極的に絡んでくる気配も無く、このまま無事に村を出れると思った。
だが、そこへ一人の女性の声が聴こえて来た。
「ごめんごめん、待たせたわね」
やって来た人物はヨミが一番合いたくなかった、昨日叩いてきたリーダー格の少女であった。
彼女は先に来ていた取り巻き二人に軽く挨拶をする。すると、入り口付近を歩いていたヨミに気付き、小さく笑うと大声でヨミに向かって盛大に嫌味を言ってきた。
「あれぇ、あなたも今から仕事に行くのぉ? もしかしてまた寂しく一人でお仕事ですかなぁ?」
「う・・・」
痛い事実をはっきりと言われ、顔を逸らすヨミ。
ここで何か一つでも言い返せばいいのだろうが、そんな度胸は彼女にはなく、相手が飽きるまで耐え続ける事しかできなかった。
「じゃあねボッチさん。お仕事一人で頑張ってねぇ」
リーダ格の少女があざ笑いながらヨミにそう言って先に村を出る。
取り巻きの二人もクスクス笑いながらヨミに侮蔑の籠った視線を向けながら村を出た。
「ぐす・・・」
これから仕事を頑張ろうと思っている矢先、気持ちを萎えさせてくれるような言葉を受け、ヨミの目元には微かに涙が浮かんでいた。しかし、泣いてばかりはいられない。目元をこすり涙を拭うと、ヨミも村の外へと出て依頼を受けた村へと移動を開始する。
「頑張るぞ・・・!」
自分を奮い立たせる為、歩きながら言い聞かせるように言うヨミ。
しかし、周りに誰も居ない一人ぼっちの中で呟いても空しさが残る。自分だって先程の三人組の様に誰かとチームを組んで偶には仲間と共に依頼をこなしてみたいという欲求はあるのだ。だが、それが出来るかどうかは別問題なわけで。
弱気な性格をしているヨミ、そんな彼女には自分から誰かを誘って一緒に仕事に行くというのは中々にハードルが高い。
「この弱気な性格・・・何とかしないとなぁ・・・」
そうしなければ、これから先ずっと一人で居続ける事になるのかもしれない。
頭ではそう分かっているが、彼女の心はその想いに答えてくれない。仲間が欲しいなどと考えているくせに、自分が誰かと並んで仕事をしているビジョンが浮かんでこないのだ。
「はあ・・・」
なんだか仕事をする前からすでに疲れてしまったヨミ。
この時、彼女はまだ知らないだろう。この依頼の中で、自分を支えてくれる存在が現れてくれることに・・・・・・。




