少年、全てを語り終える
「ん・・・」
突然と眠気に襲われたサード。彼はしばし闇の中へと意識を沈めていたが、ようやく意識が浮上してくれた。それに伴い、閉ざされていた瞼が捲れていく。少しぼやけた景色が視界へと入って行く。
「あっ、起きたよ♡」
「え、ほんと♡」
自分を連れて来た女性たちの声が聴こえて来る・・・・・・。
意識がどんどんとハッキリとしていき、そしてようやく完全に目が覚める。
「・・・・・・んぅ」
瞬きを数度するサード。
「おはよ~♡」
女性たちの楽し気な声が聴こえて来る。
だが、彼は彼女たちから声を掛けられてから数秒後、今の自分の状態に気付いた。
「!? なんだ、これッ!?」
サードが慌てふためくのも無理はないだろう。
今の彼は椅子に縛り付けられているのだ。両腕が後ろに回された状態で紐で縛られ、さらに椅子に体を縄で縛られているのだ。
必死に体を揺らして抜け出そうと抵抗を見せるが、当然抜け出せるわけも無い。しかも、サードを縛っている拘束は普通の物とは違い、腕の紐や体の縄にはマナが込められている。通常以上よりも遥かに強固な拘束は完全に少年の動きを封じていた。
「な、何をする!? 何だよこれ!?」
「はいはい静かに~♡」
「むぐ!?」
口を手でふさいでサードの声を遮る女性。
「大丈夫大丈夫、痛い事をするわけじゃないから♡」
「むぐぅ! むぅ~~~っ!?」
「ふふふ、カワイイ♡」
そう言いながら女性たちは自分の頬や腕、脚、体中を撫でまわす。
「・・・・・・ッ!?」
サードの眼には二人の女性の姿がとても恐ろしい化け物の様に映っていた。
自分を貪りつくそうとする怪物、このまま此処にいれば自分はもう戻れなくなってしまう。その恐怖が彼を最大限まで追い詰め、その結果彼の中の力がこの場から逃げる為に解放された。
「うがあぁあぁああああぁぁぁッッ!!!」
幼い少年には似つかわしくない獣の様な咆哮を放ち、彼に夢中になっていた女性たちもさすがに驚き、サードの体から手を離してしまう。
咆哮と共に彼はなんと力づくで自らを拘束している縄を引きちぎった。
「うそっ!?」
マナの込められた拘束を力づくで脱出したサードは、そのまま自分を監禁している家から逃げ出した。
後ろから聴こえて来る女性たちの声が耳に入らない様、自らの耳を両手で塞いで卑しい女性たちの住み家から何とか抜け出る事が出来たサード。
そのまま彼は当てもないまま闇雲に逃げ続けた。
「はあっはあっ・・・」
行く当てもなく、そもそも自分が今何処にいるのかすら分からない。それでも、自分を狙う獣の様な女の魔の手に掴まらない為、走り続けた。
その後、彼はこの世界について一番重要な事を知ることが出来た。
――――――この世界には男性が極端に少ない。
何故男性が少ないか、その理由まではさすがに解らないが、そんな中でもこの事だけは嫌でも理解できた。
この世界では男の自分は危険にさらされるという事が・・・・・・。
彼はその後自分が男である事がばれぬ様に正体を隠して一人で生きて来た。しかし、身寄りのない子供の彼が生きて行くにはまともな方法では不可能であった。それに、彼は運の悪い事に初めて出会った女性が欲の強い二人組であったため、女性に対して軽い恐怖が植え付けられてしまったのだ。そうなれば当然女性に助けを求める事も出来ず、一人で生きて行く決心をするしかなかったのだ。
その後は彼は生きて行くため、今の様に盗みを働いて飢えをしのぐ日々を送り続けるのであった・・・・・・。
「――――――これが、俺の今日までの過去・・・・・・」
全てを話し終わった少年、サード。
彼の話を聞いた後、その場に居た女性陣の皆は怒り心頭といった様子であった。
「(なるほどな・・・そんな過去が・・・)」
話を聞き終わったファストは目の前で俯いている少年に対して僅かに同情をする。そして、この世界に居る女性達はやはり色々と危険な部分がある事も再認識できた。まさか出会ったばかりの少年を監禁しようとするとは、この世界の女性は中々に大胆な行動を取る物だ。
後ろを振り返れば今の話に怒りを感じている様子の女性陣。やはり同じ女としてこんな小さな子供を監禁しようとしたことに嫌悪感を感じているのだろうか・・・・・・。
「許せないわね! こんな小さな子供を自分たちだけの物にしようだなんて!!」
「そうよ! 貴重な男性を自分たちだけで愛でようだなんて!!」
「世の男性は共有財産だと普通は考えるでしょ!!」
・・・・・・どうにも怒りの矛先が違う様に見えるのだが、一応はこの少年の心配をしてくれていると考えてもいいのだろうか?
「それにこの子の体を無遠慮に触ったなんて、なんて羨ま・・・げほっげほっ、んんっ・・・なんてけしからないのかしら!!」
・・・・・・純粋に心配していると考えたいが、邪な考えも少しはあると思わざる得ないのは自分の考え過ぎだろうか。
ファストは軽い頭痛を覚えながら、自分の額を手で押さえる。
まあ今の話に出て来た女性たちより後ろの連中はまだ良識はあるだろうと信じながら、とりあえず後ろで騒いでいる店長や従業員達を放置して目の前の少年に向き直る。
「お前の事情は分かった・・・だが、だからと言って盗みが許されるわけでもない」
「・・・・・・」
少年は苦い表情をしながら俯いてしまう。
「俺は・・・どうなるの・・・?」
サードは少し怯えたようにファストへと尋ねる。
自分の行った事が立派な犯罪行為であることは自分でも理解していた。捕まった時のことも考えたことは当然あった。正直、いつかは捕まるかもしれないとも考えていたのだ。それでも、全ての女性に軽く恐怖心を抱いていた彼にはこの世界の女性を頼るという選択を取る事が出来なかったのだ。
「それは俺に聞かれてもな・・・」
そう言ってファストは後ろで騒いでいる女性達へと振り返った。
未だに彼女達は話に出て来た二人組の女性に怒りを表しているようだ。
「盛り上がっているところ悪いが、少しいいだろうか?」
ファストが彼女達にそう聞くと、それまで騒いでいた彼女達がぴたっと静かになり自分に意識を集中してくれた。
どうやら・・・ファストの声を聴いて皆が反応した様だ。
「店長、それでコイツの処分はどうする?」
ファストは目の前で俯いている少年の処分について求める。
「え・・・え~と・・・」
ファストに目の前の男の子をどうするかを聞かれて店長は、正直どうすればいいか悩んでいた。
相手が女性ならば迷わず自警団へと引き渡していたのだろうが、相手が男の子、それも幼い子供であるために非情な判断を下す事がなかなかできないのだ。
まあそもそも彼女の中で自警団への引き渡しという考え事態が存在しないのだが。
「(どうしようかしら・・・私がお持ち帰りしていいならそうしたいけど・・・)」
いいわけがないだろう・・・・・・。
どうしようかと店長が悩んでいると、そこに従業員の中の一人がある提案をした。
従業員の唱えた、その提案内容とは――――――




