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少年、過去について語る


 犯人へと接近を図り、ゆっくりと歩を進めていくファスト。彼の背後では従業員達が固唾をのんで行方を見守っている。

 しかし、ファストがさらに近づいたその時、犯人がファスト目掛けて一気に跳躍して来た。


 「ッ!」


 しかし相手の抵抗は予測していたファストは多少の驚きもありながらも、すぐに構えて迫り来る犯人を迎撃しようと拳を振るう。

 だが、相手はファストの拳を避けて逆に蹴りを放ってきた。


 「ッ、ハアッ!」


 ファストも蹴りを回避して、そして再び拳を、先ほど以上の威力を込めて目の前の相手に振るう。それに合わせて相手も拳をぶつけ相殺する。

 互いの拳の衝突により、その反動で二人の体は僅かに後退した。


 「(コイツ・・・)」


 最初に放った初激の拳はけん制の為のもので対して威力は込めていなかったが、蹴りを躱した後の二撃目の拳は別、仕留める気で放ったのだが、それを相殺された事は少し意外であった。

 

 さらに相手は追撃を加えて来た。


 「ちぃっ!」


 両者の拳が、蹴りが激しくそして高速でぶつかりあう。

 後ろに居る従業員達はハラハラとしながら様子を窺っている。


 「ラアッ!」


 だが、ついにファストの拳が相手の腹部に深く入り込み、その体を後方の壁まで吹き飛ばした。

 

 「・・・ぐっ」


 壁に叩き付けられた犯人はくぐもった声を出しながら地面に膝を付いた。

 

 「(え、今の声・・・)」


 吹き飛ばして壁にぶつかった際に出た相手の声を聴いてファストは眉をひそめた。今の相手から聴こえて来た声、声色が女性の物というよりも・・・・・。

 

 「(まさか・・・)」


 すると、目の前の布に包まれていた犯人の姿が変化を始めた。布に包まれている犯人の体格が縮み始めたのだ。体格的には元々ファストと変わりないサイズであったが、今の相手のサイズは明らかに縮んでおり、纏っている布もダボダボになっている。


 「・・・・・」


 その後、一切身動きを取らなくなった犯人。

 どうやら、ファストの蹴りで壁に激突した際、軽く気を失った様だ。

 犯人に近づき、そしてファストはその正体を暴くため、布を取り払った。


 「やっぱり・・・」


 ファストがやはりといった表情をし、そして後ろで見ていた従業員達も全員が驚いた表情をした。


 そこにはファストよりも一回り小さな少年が倒れていたのだ・・・・・。







 依頼を受けた飲食店の店の中、捉えた犯人は横にされて寝かされていた。

 自分の隣で寝かされている少年を眺めながら、ファストは店主に拘束しなくても大丈夫かと訪ねると、彼女は大丈夫ですよと言った。仮にも盗みを働いていた犯人に対しての扱い方ではないような気がするが、彼女がここまで穏便な対応をしている理由はすぐに分かった。


 「・・・・・」


 店主は寝かされている少年を眺めて小さく怪しげな笑みを浮かべている。もっというならば、他の従業員達も皆、チラチラと少年の事を僅かに頬を赤く染めながら何度も見ている。

 犯人を捕らえたという事もあり、この店は今日は早くから閉めている。これに関してはファストからの指示であった。犯人を捕まえて店の中に入れたが、その犯人は男性であったのだ。現段階では不用意に街の人々に彼の姿を晒すのは不味いと判断したのだ。

 

 「(なにしろ、俺が初めてこの街を歩いただけで囲まれた事もあるからな・・・)」


 そんな事を振り返っていると、少年から小さなうめき声が聞こえて来た。


 「!・・・起きるな」


 ファストがそう言うと、皆は気を引き締めた。

 可愛らしい男の子とはいえ、相手は中々の実力を兼ね備えた、一連の街の食料を盗んでいた犯人には違いないのだ。しかも、この場ではファスト以外の人物に彼を捕らえられる実力者もいない。

 だったら拘束位しておけよ、と言いたいところなのだが、この店に居る女性人たちは皆、可哀想などと言ってそれを拒んでしまったため、このように一切の拘束をせずに寝かされていた。


 「(つまり、俺が取り押さえるしかない訳だ)」


 万が一、彼が抵抗の素振りを見せる場合は自分が動かなければなるまい。

 ファストがそう思いながら警戒して、意識が戻りつつある少年を眺めていた。




 少年は、暗闇から意識が浮上しつつあった。

 

 「・・・・・」


 だが、彼はこのまま目覚めなければいいのにと、まどろみの中で考えていた。

 

 「また・・・一人か・・・」


 覚醒していない頭の中で彼はそう呟く。


 気が付いた時には、自分は居た。そして、自分の周りには誰も居なかった。親の様な存在はもちろんの事、友人、仲間、そんな者達の様な存在も皆無。訳も分からないまま、この世界で一人、生き続けた。


 「もう、疲れた・・・」


 だが、そんな彼の望みとは真逆に自分の意識は目覚めようとしている。

 また現実の世界で一人、生き続けなければならない・・・・・。


 「・・・・・んっ」


 そして、彼の意識は完全に覚醒し、暗闇の中から元の現実世界へと引き戻された。

 

 「起きたか・・・」


 そしてそこには、自分と同じ男である少年が自分のことを眺めていた。




 「起きたか・・・」


 目覚めた少年にファストはそう声を掛けると、少年は一度自分を見て、すぐに視線を下へと向けた。


 「ここはお前が盗みを働いていた店の中だ。お前をのした後、ここに運んだ」

 「そう・・・」


 短くそう答える少年。


 ファストは少年にまずはこのような事を働いた理由を尋ねた。


 「なぜ盗みを働いた?」


 ファストは少年にそう聞いたが、彼は内心その理由を大よそ察していた。


 「盗みをしていたのは・・・・・お金がなかったから」

 「お前の親は?」

 「いない・・・・・」


 少年の答えにファストはやはりといった表情をした。

 この少年には身寄りが恐らくいないのだろう。幼い少年一人で生きていくには、このような単純に飢えをしのぐための盗みという手段を取る事も十分考えられる事だ。

 

 だが、次の少年の言葉でファストは少し疑問を抱いた。


 「親だけじゃない・・・自分が誰かも分からない」

 「なに・・・?」


 少年のその言葉を聞いたファストは怪訝そうな表情をする。

 彼の近くで話を聴いていた従業員達も眉をひそめている。


 「自分が誰かも分からない・・・頭でも打って記憶が飛んだのか?」


 ファストがそう聞くと、少年は首を横に振って否定する。

 

 「気が付いたときには一人でいた。いや・・・気が付いたらいつの間にか俺はこの世界に居た」

 「!」


 少年の言葉に女性陣の皆は少年の言っている言葉の意味がよく分からず、首を傾げているがファストは違った。

 

 いつの間にかこの世界に居た・・・この言葉が出て来るという事はこの少年は自分と同じ・・・・・。


 「詳しく聞かせてくれないか?」


 ファストが少年から話を詳しく聞こうと尋ねると、少年は一瞬ファストに目配せをした後、再び俯いて小さくポツリポツリと言葉を零していった。


 「俺は・・・・・」


 少年はこの場に居るファスト達に語り始めた。


 自分がこれまでどのような道を辿って来たかについて・・・・・。


 

 

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