表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/139

少年、怪しい人物を尾行する


 ファストはギルドから移動すると、一見のそこそこに大きな飲食店へと訪れた。今回の依頼を出してきたのはこの店の店主だ。

 そこでファストは依頼を出した店主から事情を聞く。


 「じ、実は最近の事なんですけど、この店の食料の貯蔵庫の物が盗まれて・・・・・」


 店主は目の前にいる男性のファストにドキドキとしながら事情を説明する。

 ここ数日、明らかにこの店の貯蔵庫の食料が盗まれているのだ。そして一番最後に食料が盗まれたその日、この店で働いている店員の一人が貯蔵庫に行くと、そこで食料を漁っている人影を見かけたらしいのだ。


 「その人物はどんな人相だった?」

 「それが、全身に大きな布を纏っていて姿は確認できなかったそうです」


 自分の働いている店の食料を盗んでいる現場を目撃した店の者は取り押さえようとしたが、その店員は一瞬でその謎の人物に意識を刈り取られ、そのまま取り逃がしてしまったそうだ。


 「かなり腕が立つようなので、今回は依頼に出させてもらいました次第です」

 「なるほどな・・・」

 「それに・・・この店だけではないんです」

 「ん?」


 実は今回、この依頼を出した理由はこの店のためだけではなかった。他の場所でも被害にあっている場所は大勢有り、そこで依頼にかけたのだ。

 

 「街の人達も捕らえようと必死なのですが、ことごとくやられてしまい・・・」

 「そこでついに依頼に出したと・・・」


 確かに真面目に商売を働いている者達からすればこれは無視できない問題だろう。 

 しかも相手は中々のやり手だと思うと、早く対処をしておきたいところだろう。相手も相手でこれは味を占めている様にも感じられる。


 「とりあえず、この店付近を一度見回って来るよ、情報収集も兼ねて」


 そう言うとさっそくファストは行動を開始した。




 依頼主の飲食店から一度出た後、彼は次々と色々な場所で聞き込みを開始し始めていた。

 そして被害にあっているのは全てが食べ物であり、金品の類が盗られたという情報は一切入ってはこなかった。


 「食べ物ばかりが狙われているな・・・」


 ここまで聞き込みをしてきた情報を纏めはじめるファスト。

 狙われてきたものは全てが食べ物関係、そして容姿に関してはやはり正体を隠す為に大きめの布を身に纏っている。


 「しかし、被害にあった所のいくつかは用心棒の類を雇っていたが、それらは全てこの盗人に返り討ち・・・そりゃどこかからギルドにも依頼を回して来るわけだ」


 そんな事を考えながらとりあえずは依頼主の元まで一度戻ろうとするファスト。しかも男の自分がウロウロしている事で注目も浴びていて少し居心地も悪い。

 

 「おっと、悪い・・・」


 周囲の女性達の視線を警戒しながら歩いていた為、前方の警戒が散漫となっており、通行人とぶつかる。

 

 「・・・・・」

 

 しかし、ぶつかった通行人は軽く頭を下げるだけで何も言わなかった。

 そのままその場から立ち去って行くその人物の容姿を見て、ファストは少し気になり、その人物を横目で観察した。

 その人物は全身黒い服に、頭にはフードを被り、そして顔にはマスク。


 「(・・・・・)」


 見た感じでは怪しさ全開といった格好。

 まるで姿を見られることを隠しているような・・・・・。


 「もしかしたら・・・」


 これまで被害にあった者達の情報では、犯人は大きな布で身を纏い姿を隠していたらしいが、普段からその布を身に纏っている訳ではないだろう。

 そして、もしかしたら今すれ違った人物の様に、犯行時とは別のやり口で姿を普段からも隠して行動をしている可能性もある。


 「・・・・・」


 ファストは離れて行くぶつかったその人物の後をつけることにした。

 服装もそうだが、どこか怪しさを今の人物からは感じ取ることが出来たのだ。


 「念には念・・・少し見張って見るか」


 後をつけ始めるファスト。

 ばれない様、慎重に後をつけ続けるファスト。尾行相手はしばらく歩き続け、どんどんと人気のない場所に移動して行っている。


 「(どんどん人の気配の少ない場所に向かって行っているな・・・まさか・・・)」


 後をつけていくにつれ、どんどんと人の気配が薄くなっていく。

 そして街の片隅まで移動すると、そこで尾行相手は近くのゴミ箱の隅に置いてある大きな布を取り出した。


 「(あれは・・・!)」


 その人物はその布を被り全身を隠した後、その場から一瞬で姿を消す。

 はたから見ればまるで消えたかのように見えるが、ファストの目はしっかりとその人物の行方を瞳に捉えていた。


 「逃がすか!」


 消えたように見えた人物は一瞬で跳躍し、近くの家の屋根へと跳び移っていた。建物の屋根の上を飛び跳ねて移動する相手を、ファストは気配を消しながら同じく街の屋根の上を跳ねながらつけていく。


 「(アイツ、中々に身体能力が高いな・・・)」


 少なくとも並大抵の者では尾行する事すら敵わず、姿を見失ってしまうだろう。しかし、ファストは上手く気配を消しながら布を被った人物について行く。

 

 しばらく屋根を跳んでいた犯人と思しき人物は、一度地上へと降下して行った。

 

 「降りたな・・・」

 

 ファストも一度地上へと降下し、地面に着地するとすぐに建物の陰に身を隠しながら尾行を続ける。相手も自分を布で全身を隠しているあの姿は、何度も盗みを働いているがゆえに街の人達に気付かれている自覚はあるのだろう。周囲の目を警戒し、人前には姿を出さずに隠れながら移動をしている。

 尾行し始めた時から薄々・・・いや、確信に近い物を感じてはいたが、もはや間違いないだろう。目の前で自分が追跡しているこの人物こそが、今回の依頼の標的だ。


 そして人目を気にしながら歩いている目標を追い続けるファスト。しかし、しばらく尾行を続けていると、彼はある事に気付いた。


 「この辺り、依頼主の飲食店が建っている場所じゃないか」


 過去に依頼主の食力庫では何度も食料を食い荒らされている事実が有る。目の前の尾行対象が歩いているルートからすると、おそらくコイツはまた依頼主の食糧庫を狙っている可能性がある。


 「(よし・・・)」


 今すぐに取り押さえたい所ではあるが、万が一にでも逃げられては面倒になる。そこでファストは一度、尾行している対象者から目を外し、依頼主の元まで全力で向かった。


 「先回りして確実に捉える・・・!」




 ファストが依頼主の元まで戻っている頃、自分が尾行されていた事に気付いていないこの人物は人目を避けながらファストが睨んでいた通り、ファストの依頼主の店の近くまで迫って来た。


 「・・・・・」


 その人物はこの店の食糧庫を目指して慎重に移動する。

 そして、目的の場所まで辿り着いた布を纏った人物は、倉庫内に備蓄されている食料に手を付けようとする。


 だが、その時――――――


 「そこまでだ、この盗人が」

 「!?」


 倉庫の入り口付近から声を掛けられ振り返る犯人。

 倉庫入口にはファストと店の従業員達が立っており、出入り口を塞いでいた。


 「さて・・・神妙にしてもらおうか・・・」


 ファストは体内のマナで肉体を強化しながら、ゆっくりと犯人へと近づいて行った・・・・・。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ