少年、次の依頼を受ける
無事に初の依頼を達成できた翌日の朝、ファストはサクラに頼んでいた魔法について学んでいた。
宿泊している宿屋の近くにある外の空きスペースでサクラから魔法の扱いについて習っていた。
「魔法は体内のマナを別の力に変換した物でね、皆、それぞれが自分に見合った力に変換しているんだよ。たとえば私は炎に・・・」
そう言ってサクラは自らの手の平から炎を出した。
それを見てファストも彼女と同じように手の平をかざしながら、自分に見合った力という物のイメージはどう描いたのかサクラに質問する。
「サクラはマナを炎に変換するイメージをしているんだよな? どうして炎なんだ?」
「え、う~ん、なんとなく・・・かな・・・?」
サクラが炎の魔法を習得した理由は単純に火力に目を付けたからである。ファストやブレーの様な接近戦が決して得意ではない彼女は遠距離からでも相手を仕留められるすべを身に着けるため、炎系統の魔法を習得した。
「それでねファスト、魔法は複数習得できるけど、一番最初に身に着けた魔法からマナは馴染んでいくから最初の魔法の選択は重要になって来るから気を付けてね」
体内のマナは一番最初に身に着けた魔法に馴染むため、その後に習得した魔法とマナの変換率も低下して行くのだ。その為、一番最初に身に着ける魔法の選択には気を遣うのだ。
「さて・・・どうするかな・・・」
ファストは腕を組みながらまずはどんな魔法を作り出すかを考え始める。
なにしろ一番最初の魔法が最も強力になるのだ。間違っても適当な魔法は作れないだろう。
「(サクラの様な炎といった力・・・水、雷もいいかもな。まてよ、そういえば土でゴーレムの様な物を作り出している輩もいる位だ。そういう応用がきく魔法もいいな)」
ファストの頭の中では多くの魔法候補が浮かんでくるが、どれも決定的になる魔法が中々決められない。
「う~~ん」
中々思い浮かばず唸り声をおもわず出してしまうファスト。
そんな彼の姿にサクラは少し苦笑しながら、彼に声を掛ける。
「別に無理して今すぐ決めなくてもいいと思うよ、ゆっくり考えれば・・・」
「そう・・だな・・・」
サクラの言葉に頷くファスト。
ひとまず、身に着ける魔法については時間をかけてゆっくりと考えていけばいいだろう。今ここで焦って適当な物を考えるような愚行は避けるべきだ。
「自分が今後使っていく魔法のイメージは今後ゆっくりと考えていくとして、今は次の仕事を探した方がいいかもな」
「もう次の仕事を? 昨日、依頼を達成したばかりなのに」
サクラがそう言うと、ファストは苦笑いをして自分には今、蓄えが無い事実を伝える。
「昨日の依頼達成で得た報酬はまだあるけど、何もしなければ数日でからっきしになるからな」
サクラから借りていた宿賃もなんとか返しはしたが、やはりまだまだ余裕がない。当面は依頼に出て生活費を稼ぐことが先決だろう。
「とりあえずこの後はギルドに顔を出して掲示板の確認だ」
掲示板に貼られている依頼書は一日おきに新しい物が高確率で届いている。今日はもしかすれば初心者の自分でも問題なさそうな星の数が少ない依頼書が貼られている可能性もある。
「大丈夫一人で・・・私も一緒に・・・」
「いや、二日続けてお前が無理に仕事に出る必要は無いだろう、俺一人で大丈夫だ」
ファストはサクラにそう言い残し、ギルドまで足を運んで行った。
ギルドに向かう道中では、街ですれ違う女性達に声を掛けられながら移動をするファスト。すでにこの街にファストが居る事実は広まってはいるが、それでも街の住人達の彼に向けられる好奇の視線が収まる事はない。
こうして、街の住人たちに要所要所呼び止められながらもようやくギルドに到着したファスト。だが、当然の如くギルドに入れば今度は酒場に居る女性達から声を掛けられるわけで・・・・・。
「あっ! ファストさんおはようございます!!」
「おはよ~、ファスト!」
ギルドの皆は全員、気軽にファストへと声をかけて来る。
少しでも彼とお近づきになりたいがため、この場に居る女性達は同じギルド仲間である旨味を利用して彼に気軽に接しているのだ。
なんとなくではあるが、ファストも彼女達の狙いは薄々気付いている。うぬぼれている訳ではないが、自分が希少な男性である以上はこの事態も無理はない事だと思ってしまうのだ。
「(まっ、いずれは収まるだろう・・・)」
そばに寄って来る女性の波を押しのけながら掲示板の前に立つファスト。
ざっと見た感じでは新たな依頼書がいくつか貼られている。その中には前回はなかった星一つや二つの依頼書もいくつかある。
「まだ二回目だからな・・・ここは星の一つか二つの依頼にするか・・・」
そう言いながら掲示板の依頼書を眺めていると、その中で一つ目に留まった依頼を見つけた。
「なになに・・・『街で最近盗人が出現、なんとか捕らえてほしい』・・・か・・・」
ファストが見つけた依頼書は星が二つの依頼書。
「星二つ・・・こそ泥くらいなら星一つでいいと思うが・・・」
この依頼の星が二つなのには理由がある。
盗人の実力が未知数であるため、星一つから二つへと変更されたのだ。もしかしたら星一つの依頼の範疇を超えた実力をその盗人が秘めている可能性があるからだ。
「まっ・・・石の怪物たちよりは遥かに優しいだろう」
前回の依頼で遺跡内部で相手取った石の巨兵よりは遥かに優しいだろう。そう思い、彼はこの依頼を一人で受ける事とした。
「さて、まずは依頼主の元まで行くか・・・」
そう言うと彼はギルドからすぐさま退出した。
あまり長居するとこの酒場に居る女性達に絡まれる可能性があるからだ。
ギルドの出入り口に移動すると、そこで二人の人間とファストはすれ違った。
「あ、おはようございます、ファストさん」
「ああ・・・おはよう」
彼がすれ違った二人は一人は自分も知っている女性ライティであった。しかしもう一人は自分も知らない女性。だが、ファストが目に留まったのはこの顔も知らない女性だ。
「・・・・・?」
なにか、違和感を感じるのだ、この少女に・・・・・。
どこか・・・自分と似ている? 同じ雰囲気を感じる? そんな何か上手く表現が出てこない謎の違和感。
「・・・なぁに?」
自分に注目が向いている事を察し首を傾げるライティと共に居る少女。
ファストは何でもないと呟くと、ファストはその場から立ち去って行った。
「・・・・・」
どんどんと小さくなっていく彼の後ろ姿をライティは黙ったまま、その姿が見えなくなるまで眺め続けていた。
「あの人・・・たぶん僕と『同じ人』じゃないの?」
ライティの隣に居る少女、否・・・少年セコンドがそう言うと、ライティは小さく呟いた。
「でしょうね・・・でも、あなたの正体は隠しておいてね」
「うん、それがマスターの命令なら」
いずれはファストもセコンドの正体に気付くかもしれない。そうなれば必然的にこの世界に居る女性はセコンドを放ってはおかないだろう。
もしもファストがセコンドの正体に気付いた時は・・・・・。
「どうしてやろうかしら・・・」
今はもう見えなくなったファストをまるで敵でも見るかのような目をしながら、ライティはセコンドにも聞こえない程小さな声で呟いたのであった。




