少年、依頼達成
村長により村の者達の騒ぎを収めた後、ファストたちは村長の家へと移動をして、遺跡内部で馬鹿々々しい犯行に及んでいた事実、それをブレーは村長へと話した。
「なるほど・・・そんな事があったんですね・・・」
村長は話を聴きながら、フリーネーに視線を傾ける。
村長に目を向けられ、縮こまりながら彼女はこの村の人間たちに謝罪をした。
「ほ、本当に申し訳ありませんでした」
自分が悪いという自覚はちゃんとある為、素直に頭を下げるフリーネ。
ブレーは今回の騒動を起こしていたフリーネの処分をどうするか、村長へと尋ねる。
「それでどうするんだ村長? コイツの処遇は・・・・・」
「そうですね・・・」
村長は少し思案した後、フリーネに一つの提案をした。
「フリーネさん、だったわね・・・」
「はい・・・」
「あなた・・・この村で護衛の任をやってみない?」
「・・・・え?」
予想外の提案をされて一瞬呆けてしまうフリーネ。
正直、迷惑を掛けてしまったがゆえに大きな処遇を課せられると思っていたのだが、村長から言い渡されたのは村の護衛を受けるか否かというものであった。これにはフリーネだけでなくファストたちも少し意外そうな顔をしていた。
「この村にも時々魔獣がやって来ることもあってね、そのゴーレムで村を護衛してくれるとありがたいと思ってね」
「いいのか? こいつは仮にもあなた達の村の住人に迷惑を掛けていた奴だぞ」
ブレーがフリーネのことを指差しながらそう言うと、村長は手を振って大丈夫だと伝える。
「彼女の目的が遺跡の破壊や村に対する破壊活動の類ではないらしいですので、それにこれならば彼女にとっての罪滅ぼしにもなると思うので」
確かにこの村の住人に迷惑を掛けた彼女に何かしらの償いをさせるという案は悪い物ではないだろう。
「まあ、いいんじゃないか? 確かに彼女に何かこの村に対して奉仕活動をさせるというのは悪くないだろう」
「まあ・・・被害を受けた村の意向がそれならば・・・」
ファストの言葉に小さく頷くブレー。
「それに、あのゴーレムなら大抵の魔獣位なら倒す事も出来そうですし・・・」
サクラもファストに続けて賛成の言葉を発する。
実際に遺跡内部でゴーレムと戦闘を行った身としては、あの石の巨兵が番人として働くならば頼もしいとも思える。
「その・・・いいんですか、その程度の罰で・・・?」
フリーネがおずおずと手を上げながらそう聞くと、村長が笑顔で答えてくれた。
「ええ、お願いできないかしら?」
「も、もちろんです! それで償いになるのならば!」
フリーネが村長の手を握って何度も頷いた。
「(ん・・・?)」
この時、ファストはある違和感を感じ取った。
それは、村長の表情である。顔は笑っているのだが、彼女の眼はなにやら怪しげな光を宿している様に感じ取ったのだ。だが、それも一瞬の事でいつの間にか村長の瞳は普通の物になっていた。
「(気のせいか・・・)」
自分の見間違いだと結論付けたファスト。
とにもかくにも依頼は無事に達成され、無事に問題を解決できた。こうして、ファストのギルド所属の初任務は無事に終了したのであった。その後三人は報酬を受け取り、そしてギルドへと帰還して行った。
そしてその道中、ファストは小さく唸り声を上げていたので、サクラがいったいどうしたのかと彼に問う。
「ファスト、どうかした?」
「いや・・・あの村、あのはた迷惑なフリーネという女性を護衛として雇ったみたいだけど、それだけが目的なのかと思ってな・・・?」
そう言うとファストは今はもう視認できない村のあった方角に視線を向けたのであった。
その頃、依頼を果たした村ではフリーネが魔法陣を描いてゴーレムを作成して村の門番として配置してたが、それだけではなかった。
「それで・・・・・頼めるかしら?」
「勿論です・・・私だって創りたいと思っているので・・・」
村の広々とした場所で描かれた魔法陣の前ではフリーネと、村の村長を初め住人の皆が怪しげな笑みを浮かべていた。
「うふふ・・・意のままに動いてくれる男性が創れるかもしれないのなら・・・」
「それに便乗するのは当然・・・」
「フリーネさん、これからよろしくお願いしますね・・・」
「はい・・・喜んで」
魔法陣の前で怪しげな笑みを浮かべ合うフリーネと村の住人達。
実は村長や、村の者達がフリーネのことをこの村に引き入れた理由は村の護衛だけでなく、彼女が掲げていた目的に共感したからであった。
もしも、彼女が自分の意のままに出来る男性の人形を創れるのならば・・・・・。
そう、彼女達もフリーネと同じ欲が芽生えたのであった。
「じゃあ早速、人形作成を再開しますね♪」
フリーネはそう言って遺跡内で行っていた実験を今度は村の中で堂々と行うのであった。
「案外、村の連中はフリーネの企みに乗っているのかもな・・・」
ブレーが少し呆れた顔でファストとサクラにそんな事を言っていた。
「企みに乗った?」
「どういうことですか?」
ファストとサクラがブレーの言った言葉に疑問を投げかけると、彼女は先程の村の住人達の態度を思い返していた。
「村の連中はファストに随分とこだわっていたからな。フリーネの様に一人につき男性の一人でも欲しいと思ったんじゃないのか?」
「・・・・・それって」
ファストがブレーの言っている言葉の真を捉え、それに続いてサクラも彼女の言っている言葉を理解した。
「大丈夫なのか、あの村・・・」
「別に気にしなくてもいいだろう」
ブレーは疲れたようにそう呟く。
もしも今頃、村の連中が男の人形作成を協力していたとしても、遺跡内部で隠密に働いて村に不安を与えていた時とは違い、村の連中の了承をとって堂々と行っているのだ。ならば問題はないだろう。
それになにより――――――
「(あの馬鹿バカしいフリーネの目的・・・それに付き合うなどごめんだ)」
ブレーはそう思うと、一刻も早くギルドへと戻ろうと自然と歩幅が広くなっていく。
そんな彼女について行きながら、ファストはここでサクラに一つ尋ねたかった事があり、それを質問する。
「サクラ、実は魔法について聞きたいことがある。街に戻った後、教えてくれないか?」
「あ、うん、別にいいけど・・・」
依頼中に思った魔法の存在について、自分は肉体をマナで精々強化すること位しかできない。だが、もしもこの先の依頼でマスターであるサクラの身に危険が迫った時、今以上の戦闘力は必須。その為、もしも自分にも魔法が扱えるのならば、それを習得しておきたいと思ったのだ。
「(ギルドに戻ってからは、魔法についての勉強だな)」
男性減少の謎の解明も仕事だが、この世界で生き抜いていくための力を身に着けておくこともまた重要な事。
そんな事を考えていると、いつの間にかブレーが近くを走っていた馬車をつかまえ、それに乗るようにファストとサクラに手を振っている姿が見えた。
「足を捕まえたぞ、速く乗れ」
ブレーがそう言うと、二人は馬車へと乗車し街に戻って行った。




