少女、疲れる
ブレーは目の前で正座しているフリーネに、遺跡でゴーレムを創りだしていた理由を問いただし、その理由を彼女が答えた。
「私は・・・・・」
彼女は一度息を吞み、そして次に大きな声でブレーたちに自分の目的を告げた。
「私は――――――男の子を創りたかったのよ!!」
大真面目な顔でフリーネが三人に向かってそう言った。
「はあ?」
彼女の目的を聞き、ブレーの口からはそんな間の抜けた言葉が出て来た。
彼女の後ろに控えているファストとサクラも何を言っているのか分からない、という表情で立ち尽くしている。
彼女は顔を俯かせながらポツリポツリと話し始めた。
「私は男の人が減少する前は色々な男の人をとっかえひっかえして生きていたわ」
「「「最低だな(ね)」」」
三人は揃ってフリーネを軽蔑したような目で見る。
フリーネはそんな三人の冷めた視線を浴びながらも、話を続けていく。
「でも世界から突然男性が減少、男女比率は女性がほとんど占め今では男の人はみんな国宝の様な扱いをされ近づくことままならない・・・出会いもなくなったわ」
彼女はそこまで話を終えると、その場で勢いよく立ち上がり自らの胸の内にある欲求を吐き出す。
「私の中の欲求がついに限界を超え、そして私はある手段に出たわ」
彼女の出した解決策、それは自分で男性を創りだす事であった。そう決断した彼女は早速、自らの魔法で男性をイメージした泥人形を作成し、そしてそれに膨大な魔力を込め、そこから本物の人間に近づけようと考えていたのだが、そこで問題が発生した。
その問題とは、彼女はどういう訳かゴーレムの様なモンスターは創りだせるのだが、人間に近い人形を創りだすことが出来なかったのだ。
「しかも、私の住んでいた町の人達は迷惑だからこれ以上の人形作成を望むなら他所でやってくれって・・・・・」
「当然だろうな」
ファストが当たり前だろといった表情で頷いた。
そして彼女は街を出た後、様々な場所で実験を繰り返したが、ことごとくにその付近に住まう住人から苦情を投げかけられ、落ち着いて作業を行う事もできずじまいだったそうだ。
「そしてようやくこの人の目のつかなさそうな場所・・・つまりこの遺跡を発見してその中で目的の男性の人形の作成に取り掛かっていたのよ」
全てを話し終え、一息つくフリーネ。
一方、ファストたちは微妙な表情を揃ってしていた。それもそうだろう。なにしろ、元々はモンスター討伐という気持ちでこの仕事に臨んでいたが、蓋を開ければその真実は男性型の人形を作成しようとしていた女性が、実験の産物でゴーレムを創ってしまっただけなのだから。
「でも、ゴーレムが創れるのはそれはそれですごくないか?」
「「確かに・・・」」
ファストの言った通り、ゴーレムの様な自分の意のままに操れる巨兵を創ること自体、中々に難しい事だと思われるのだが・・・・・。
ファストのこの意見にはブレーとサクラの二人も賛同していた。
「私って自分の元いた街ではゴーレムを生成して街の護衛を担っていた経験があるから・・・」
「そんな人間が街から出て大丈夫なのか?」
「私と同じ魔法、他の人にも教えておいたから・・・」
フリーネがそう言うと、ここでファストは魔法について少し興味が湧く。
自分は体内のマナで肉体を強化する事は出来るが、サクラの様な炎を操ったり、フリーネの様にゴーレムの様な泥人形を創りだすことは出来ない。
「(この依頼が終わった後にサクラから魔法について質問してみるか)」
とりあえず今はその事よりも、目の前にいるこのはた迷惑な女性についての対応が先決であるだろう。
「まあお前の目的が物騒なものではないが、かといってこのまま放置するわけにもいかないからな。とりあえずこの遺跡から出てもらうぞ」
「はい・・・」
ブレーが呆れ顔でフリーネの腕を掴み、彼女を遺跡の外まで連行して行く。ブレーに引っ張られているフリーネも自分が迷惑行為を働いている自覚はあるのか、特に抵抗の素振りを見せずにおとなしく付いて行く。
「あ・・・どうせならそこの男の子に手を引いてほしいなぁ・・・何でもありません」
サクラが睨みを利かせてフリーネのことを黙らせる。
道中にいるゴーレムたちは皆、フリーネが魔法を解除する事でその肉体は崩れ、唯の土の塊となった。
「それにしても死者の一人も出ていなかったから良かったものの、もしもこの遺跡の管理をしている村の中から死亡者が出ていたらさすがに斬っていたかもしれんぞ」
ブレーがフリーネにそう言うと、彼女は腕を振ってその心配はない事を告げる。
「ゴーレム達には侵入者の迎撃を任せてはいたけど、決して殺さぬように命令していたわ」
「そのわりには私たち、随分激しく襲い掛かられていたんだけど・・・」
「恐らくあなた達がかなりの腕利きだったから、そのレベルに合わせてゴーレムも襲い掛かっていたんだと思う」
彼女の言葉を信じるわけではないが、だが確かに自分たちだけでなく、先にこの遺跡に侵入していた村の人達にも命を落とした者がいたという報告はなかった。あくまで追い返されただけなのだ。
「だが、お前のしたことがチャラになる訳じゃない。お前の処分は迷惑を掛けた依頼した村の者達に決めてもらう」
そうしてフリーネはファストたちによって依頼した村まで連行されていった・・・・・。
依頼した村では、村の住人たちがファストたちの姿を確認するやいなや彼らに押し寄せて来た。だが、よく見ると自分たち、ではなくファストに村の者達は集中して集まっている様にも見える。皆、連行してきたフリーネのことは大して気にもしていないようだ。それ以上にファストの存在に村の者達は夢中になっている。
「お疲れさまでした!」
「あの、お怪我はありませんか!」
「よければ私の家で休息を・・・」
村の女性に言い寄られるファスト。
その光景を見てサクラは当然またむくれ、頬を膨らませている。
「はあ・・・」
そんな光景を見てブレーは疲れたようにため息を吐く。
「(もうファストとは仕事に来ない方がいいかもな・・・)」
一緒に仕事をするたびにこのような場面に遭遇するのは御免こうむりたい。しかし、この世界の女性というものは男性に対して過剰に反応する傾向が強い。
自分の様な男を目の前にしても堂々としている女性の方が少ないのだ。
「(コイツもコイツで災難だな・・・)」
村の者達に囲まれ、四方八方から声を掛けられているファストを見て僅かながらの同情を向けるブレー。
そしてよく見ると村の住人達の中に混ざり込み、今回の依頼の元凶であるフリーネまでもがファストに言い寄っていた。
「はあ・・・・・」
その光景を見てブレーは先程よりも更に大きく、そして深いため息を吐く。
そしてここで、村の住人の騒ぎを遠くから確認した村長がやって来て、しばらく村の者達の騒ぎを眺めていたが、さすがに収集に入り始める。
「そこまでにしなさいみんな、まずは依頼の結果を先に聞くべきでしょう」
村長のその言葉にとりあえずはその場の騒ぎが収まってくれた。
そしてブレーはタイミングを見て、村長に遺跡内で起きていた出来事の詳細を話し始めたのであった。




