少年、石の巨兵と戦う
ブレーが先陣を切って遺跡の内部へと侵入して行く。そして彼女の後ろにファストとサクラが並んで歩きながらついて行く。
遺跡内部は薄暗く、村長から持たされた手持ちランプで遺跡内部を照らしていきながら先に進む三人。さすがのブレーも遺跡に侵入してからは多少は周囲を警戒しながら先に進んでいく。
「・・・・・止まれ!」
今まで順調に先陣を切っていたブレーが後ろに居る二人を手で静止させる。
ブレーにその場で停止させられる二人であるが、ファストとサクラはブレーに聞かずとも、その理由は察していた。何しろ二人も感じるのだ、この先から感じる強烈な気配、この先で待ち構えている存在を・・・・・。
「居るな・・・」
何が、とは言わない。
今回この遺跡に侵入した理由はゴーレムを退治するため、となればこの先に待ち構えている存在は必然的に・・・・・。
「ッ! 来たぞッ!!!」
「「!!」」
ブレーが大剣を構えながらそう叫ぶと、ファストも刀を構え、そしてサクラは炎で形成した槍を両手で持って投擲の構えを取る。
三人が迎撃態勢を整えたその僅か数秒後、暗闇に包まれている遺跡の奥からゴーレムが超スピードで駆け寄って来た。
しかも、その数は全部で三体。
「ゴオォォォォォォォッ!」
雄叫びとともに先頭に居るブレーにゴーレムの一体が腕を振り上げて、それを勢いよく振り下ろしてきた。
「舐めるなッ!」
だが、ブレーは大剣でゴーレムの腕を受け止め、そしてはじき返す。そのまま彼女は自分に襲い掛かって来たゴーレムの右腕を切り落とした。
「オッラァッ!!」
気合の入った叫び声と共に振るわれる大剣はゴーレムの肉体を徐々に崩していく。しかし、残り二体のゴーレムがブレーに襲い掛かって来る。
だが、その内の一体のゴーレムに炎の槍が突き刺さり身動きを止めた。そしてもう一体のゴーレムにはファストが強烈な跳び蹴りを叩き込んだ。
蹴り込んだ脚に相当のマナを込めていたため、彼の蹴りはゴーレムの岩の鎧に亀裂を入れながら、巨大なその体を蹴り飛ばした。
そしてすぐさま、近くにいる二体の内、サクラの槍で穿たれたゴーレムに狙いをつけ、そして――――――
「フッ!!!」
ゴーレムの体を刀で高速で切り込むファスト。
そして、ファストが刀を肩に担いで目の前のゴーレムを眺める。
「グッ、ゴオッ!」
ゴーレムは目の前のファストに襲い掛かろうとするが、ゴーレムが動き始めたと同時に、その肉体はバラバラになり、崩れ落ちた。
そしてファストがブレーに視線を傾けると、彼女の足元には大量に切り刻まれた形跡が見られるゴーレムが倒れて、否、砕け散っていた。石の破片が辺りに散らばっている。
「そっちも終わっていたか」
「当たり前だ、この程度の相手に手助けなど求めるか」
鼻を鳴らしながら大剣を片手でくるくると器用に回転させるブレー。
そこへ、先程ファストが蹴り飛ばしたゴーレムが全速力で二人へと向かってきた。
「ゴオォォォォォォッ!!」
二人がそれぞれの武器を構えるが、そんな二人を横切りサクラがゴーレムに向かって行った。
「ハアアアアアアツ!!」
サクラは掛け声と共に両腕に炎を集約し、そしてそれを迫り来るゴーレムにぶつける。
「バーニング・デリート!!」
彼女の両手に集約された炎による砲撃が目の前のゴーレムの全身を飲み込み、そしてその頑強な肉体を焼き尽くす。
「おおッ!」
「ほう、やるな・・・」
サクラの圧倒的な火力による砲撃を目の当たりにしてファストとブレーの口から感嘆の言葉が漏れる。
「流石は俺のマスターだ・・・」
無意識の内にそう呟くファスト。そんな彼にブレーが怪訝な顔でファストの言葉を繰り返した。
「マスター・・・?」
「あっ、いや、こっちの話だ」
自分の失言に気付き、少し慌ててブレーにこっちの話だと誤魔化しを入れるファスト。
ブレーは多少不可解そうな表情をしていたが、すぐに目の前の最後の一体のゴーレムに意識を傾けた。
「よしっ、退治完了!」
ブレーの目の前では、動かなくなったゴーレムを満足そうな表情で見ているサクラの姿が目に入った。
「(あのサクラ、中々の腕前の様だな・・・)」
ファストの実力は当然把握していたが、サクラに関してはブレーにとっては未知数であったため、ここでの戦闘で彼女の実力を大よそ把握する事が出来た。
内心ではファストに頼りきりではないかと微かに思っていたが、どうやら自分の考えは外れてくれたようだ。
「(とはいえ、アイツもギルドに所属して仕事をしている身だ。こんな考え、持つだけ無駄であったかな・・・)」
ブレーはそう思いながら、サクラに賞賛の言葉を掛ける。
「お疲れ、中々の腕前じゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
ブレーに褒められて少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに頷くサクラ。
「だが・・・まだ終わりではないな」
遺跡の奥を鋭い眼で睨み付ける様に眺めるブレー。
まだこの遺跡の内部からは今のゴーレムと同じ気配をいくつも感じる。近くには居ないが、この遺跡内にはまだ大勢うろついているのは間違いないだろう。
その事はファストとサクラも当然察知しており、褒められたことで緩んでいた表情を引き締めるサクラと、めんどくさそうに眉をひそめるファスト。
「いったい何体徘徊しているのやら・・・」
「さあな・・・少なくとも五や六など優しい数ではないだろうな・・・」
そう言うとブレーは近くに転がっているゴーレムの破片を蹴り飛ばしながら先に進んで行った。そしてファストとサクラもその後に続く。
「今回の依頼は少し骨が折れそうだ」
ブレーは好戦的な笑みを微かに浮かべながら、小さな声でそう呟いた。
その後、遺跡の内部を移動して行く三人。
そして当然の様に途中ではゴーレム達と遭遇し、その度に戦闘が行われる。
「しかし、こいつ等はどこから来たんだ?」
遺跡に入ってからこれで四度目の戦闘、さすがにファストがこの現状に不満を洩らす。そしてそれはサクラとブレーの二人も同じであった。
「さっきから感じていたが、この遺跡に巣くうゴーレムの気配がまるで収まる様子がない。倒しても倒してもまるで無尽蔵に湧いている様に感じるぞ」
まるで虫の様にな、と最後に吐き捨てるブレー。
ブレーの無尽蔵という言葉にサクラがある可能性を発見した。
「もしかして、誰かがゴーレムを産み出している?」
サクラがそう言うと、それに続けてファストも口を挟む。
「遺跡から眩い光と村長は言っていたからな、なにかしらが原因だろう。そもそもそれ以前はゴーレムは存在しなかったらしいしな」
「まったく、ただの討伐依頼という訳にもいかなくなったな・・・」
ブレーはそう言いながら、次にこちらに迫って来ているゴーレムたちを眺めながら大剣を構えるのであった。
その頃、遺跡の最深部では怪しげな光を放っている魔法陣から石の化け物、ゴーレムが創りだされていた。
その魔法陣の傍には、一人の女性が現れたゴーレムを眺めながらため息を吐いていた。
「また失敗・・・はあ・・・」
女性はため息を吐きながら魔法陣を一度消し、新たな魔法陣を展開した・・・・・。




