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少女、独占欲が芽生える


 ファスト達が依頼を受けているその頃、街にある宿屋の一つに住んでいる少女、ライティは自分の部屋に住んでいるファストと同じ存在、同じ経緯で生まれた少年、セコンドと食事を取っていた。

 

 「これ、おいしぃ」

 「そう、良かった♪」


 セコンドが自分の作った料理を美味しいと言ってくれ、嬉しそうに笑顔を向けるライティ。


 今、彼女は幸せに包まれた空間の中に身を置いていた。


 「セコンドくん、おかわりもあるわよ」

 「食べる」


 甘えた声で空になった皿を差し出すセコンド。

 そんな彼の子供の様な動作一つ一つに胸がときめくライティ。


 「(ああっ、可愛い♡)」


 世界で希少な存在の男性、しかもとても可愛らしい男の子であればこの世界の女性がメロメロになるのも無理はない。しかも、彼は自分をマスターと言ってくれている。

 

 「(こんな素敵な出会いをこの狭い部屋ではたせるとは、夢にも思わなかったわ)」


 あの日、偶然にも見つけた宝石の様な石。それを拾った事でこのような展開が訪れようとはいったい誰が予測できようか。

 だが、いまのこの現状には問題もあるのだ。


 希少な男性が自分の部屋に居る、その事実をいつまでも秘匿しておくことは出来ないだろう。それに、彼をいつまでもこの部屋に閉じ込めておくことも忍びない。なにより、彼はこの世界の男性減少の謎の調査のために派遣されたようなものなのだ。いくら彼のマスターといえども彼をこの狭い空間に閉じ込め続ける権限はないだろう。


 「(でも、外に連れ出したら・・・)」


 セコンドに大勢の女性が群がる光景が頭の中をよぎる。

 そのことを考えると彼女の中に黒い何かが自分の心を侵食していくように感じるのだ。


 「(あっ、そうだ!)」


 ここでライティは一つ、ある妙案が浮かび上がった。


 「ねえセコンドくん、お願いがあるんだけど・・・」 

 「なに、マスター?」


 セコンドが首を傾げながら皿の上の料理を口に含んで返事をする。


 彼女はセコンドが外に出ても騒ぎにならぬ様、ある対策を思いつき、それを実行に移した。




 「うんうん似合う♪」

 「そうかなぁ・・・?」


 彼女の自室では現在セコンドがライティの服をその身に纏い、さながら少女の様な恰好をしていた。彼の正体を知らない者が見たら、誰がどう見ても彼は女の子にしか見えないだろう。

 童顔でそして女顔をしていたため、少し女性らしい服装に、そして付け毛を付けることでセコンドは外見は完全に少女化していた。


 「これなら外に出てもばれないわ」

 「う~ん、なんか変な感じ・・・」


 その場でくるりと一回転するセコンド。

 そんな彼の可憐な動きにライティはニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべて眺めている。

 

 「(とりあえずこれでこの子が外に出ても大丈夫そうね。しかし、それにしても・・・・・)」


 ここで一つ疑問に思うのは彼の行動目的、男性激減の謎の解明が彼に与えられた使命らしいのだが、彼は一体その原因の解明をどのような手段を用いて解明するのだろうか?


 「ねえセコンドくん、あなたは一体どうやってこの世界の男性減少の謎を解いていく訳?」

 「え~~っとぉ・・・情報収集」

 「そ、そっか~・・・」


 セコンドの言葉にライティは少し戸惑った表情を浮かべる。

 しかし、情報収集といってもこの世界の現状を詳しく知っている者など果たしているのだろうか?


 「(情報を得る為には色々とこの世界を見て回る必要がある訳だけど・・・)」

 

 ライティがそんな事を考えていると、セコンドがシュタッと手を上げて、彼女に一つ相談をした。


 「マスター、この世界の事を調べたり、見て回ったりできるお仕事ない?」

 「仕事?」

 「うん、このままだとヒモ? とかいう奴でしょ、ボク?」


 確かに間違いではないのかもしれないが、この世界では男性というだけでステータスになるので、その気になれば彼は自分など頼らずとも順風満帆に生きていけるのだが・・・・・。

 だが、ライティはその事実をあえて秘密にする。


 もしその事実を伝えて、セコンドが自分から離れてしまう危険性を考慮したからだ。


 「(この子のマスターは私・・・私の傍を離れさせはしない・・・)」


 すさまじいまでの独占欲、彼女はそんな考えを頭に宿しながらセコンドのことを見る。


 その時、彼女の瞳の中には僅かだが、黒い何かが宿っていた。まるで、瞳の奥底で黒い感情を体現しているかのような炎が燃えているような・・・・・。


 「マスター?」


 突然黙り込んでしまったライティに不思議そうな顔を向けるセコンド。

 そんな彼にはっとして慌てて手を振って誤魔化すライティ。

 

 「あはは、なんでもない、なんでもない」


 そう言うと彼女の中に燃え盛っていた黒い炎は消えて行った。


 「それで、何か仕事が欲しいんだっけ?」

 「うん、なにかいいお仕事ない?」


 セコンドがそう聞くと、彼女が真っ先に思いついた仕事は自分たちのギルドであった。そこならば依頼次第では色々な場所を見て回り、そして情報だって手に入る可能性がある。それに自分と同じギルドに所属してくれるならば彼の傍に付いている事もできる。


 「それじゃあセコンドくん、私たちのギルドに来てみない? もちろんキミが男性であるという事は隠しておいてね」

 「ギルド・・・?」


 セコンドは首を傾げながら、ライティにギルドという場所についての詳しい詳細を聞きはじめた。







 その頃、セコンドと同じ存在であるファストは、目的の遺跡の前まで到着していた。

 依頼主の女村長に案内されて辿り着いた遺跡はどこか怪しげな雰囲気が漂っていた。その様子にサクラがゴクリと唾をのんだ。


 「ここが、ゴーレム達の巣窟の遺跡・・・」


 遺跡の周囲には見たところゴーレムは一体たりとも徘徊してはいない。

 しかし、遺跡内部の奥からは妙に冷たい空気をファストたちは肌で感じていた。


 「遺跡の奥から感じるな・・・何かいるのは間違いない、これがゴーレム達の気配か・・・」


 ブレーは大剣を肩に担ぎながら首を一つ鳴らした。

  

 「ゴーレム達は遺跡の外には不思議な事に出てこようとはしません。そのお蔭であのゴーレム達に外部の者が被害を受けている事がないのは不幸中の幸いでした。しかし、だからといって放置しておくわけにも・・・・・」

 「まあ、そりゃそうだ・・・」


 ゴーレムがこの先、外に出て行かないなどという保証はどこにもない。となればこのまま放置しておくわけにもいかないだろう。なにより遺跡を管理しているこの村の者達からしてみれば迷惑なことこの上ないだろう。


 「よし、早速突入するぞ」

 「ああ」

 「え! ちょっ、ちょっと!」


 まるで散歩にでも出かけるかのような振る舞いで遺跡の内部へと進んで行こうとするファストとブレー。 あまりにも警戒心の無い二人の行動にさすがに止めに入るサクラ。


 「二人共、そんなずんずん行かなくても! もう少し警戒しながら慎重に・・・」

 「内部に入ってみてゴーレムを見てみない事には始まらないだろう。遺跡の外でいつまでもウロウロしていては日が暮れる」


 そう言ってブレーは遺跡の入口まで歩いて行く。

 ファストはサクラの肩を叩きながら、小さく諦めろと彼女に言い聞かせ、それに対し彼女は大きくため息を吐いたのであった。



 

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