少年、依頼の村に辿り着く
「おーい、ブレー!」
「・・・来たな」
広場を漫然と眺めていながら声を掛けて来た方向に顔を向けると、そこにファストとサクラの二人が到着した。ファストは手を上げて軽く振っており、サクラは少しドキドキとした表情で自分のことを見ている・・・気がする。
「おっ、その大剣、もう修理されていたんだな」
「これはストック用の一本だ。私は同じ装備を複数予備の為に持っている」
ブレーはファストの決闘の時の様な武器の破損を考え、予備の装備を買い備えてある。そして今回持ってきた大剣はファストの決闘に使用していた物とは少し違った。
「これは以前、お前に使用した得物とは少し違う。より硬度に、そしてより軽量化してあり扱いやすさがより上昇している」
ブレーが自身の武器について説明をすると、ファストが少し顔をしかめる。そんな彼の表情にブレーは疑問を抱く。
「なんだその顔は?」
「いや、以前の決闘で使わなかったという事はソレを使わなくても勝てると思われていたのかと思うと・・・」
「まあ、あくまで決闘だからな。殺し合いではないので使わなかっただけだ。別にお前を侮っていたからコレを前回では使用しなかった訳ではない」
「そうか・・・」
ブレーの言葉に一応は納得したファストであったが、しかしどこかまだスネている様に見える。
「(ほう・・意外と子供の様なところもあるんだな・・・)」
ファストのそんな反応に、内心新たな一面が見えたことに少し意外そうなことを思うブレー。普段と違いどこか子供の様に見えたファストに少し茶々をおもわず入れてしまう。
「なんだぁ、この程度の事で拗ねるとは、意外と子供なんだな」
「なっ、誰が!」
「ふふふ・・・そうむくれるな」
思いのほか馴染んでいるファストとブレー。険悪なムードにならずに済んだことは確かに良い事なのだろうが、サクラはそんな二人の様子を眺めて少し不満顔になっていた。
「(もう、ファストったら私相手にはあんな反応しないくせに・・・)」
小さくぷくっと可愛らしく頬を膨らませるサクラ。
そんな彼女を見てブレーは彼女を安心させようとする。
「心配しなくても盗らないさ、そう邪険にするな」
「え! わ、私はべつに・・・」
「そうか? 私のファストを盗らないで、という顔をしていたが」
ブレーがそう言うと、サクラの顔は羞恥心から真っ赤に染まる。
サクラに気を遣い、ファストには聞こえないようにサクラに近づいて話すブレー。そんな二人の様子を見てファストが不思議そうな表情をする。
「何を話しているんだ?」
「なんでもないさ。それより、そろそろ出発しないか」
「そ、そうですね、早く行きましょう!」
ブレーの言葉に頷いて、熱のこもった顔を両手で扇いですぐに出発するようファストに促して来るサクラ。
そんな一幕もあり、三人は街の外へと出て目的の遺跡まで向かって行った。
三人は街を出てからしばらくは歩き、その道中で馬車を借りて三人は乗車した。馬車の中で三人は、ファストとサクラが並んで座り、その対面にブレーが座っている。移動の中、サクラとブレーは軽い談笑をしている。その様子を黙って眺めながら大分二人の仲が深まったと感じるファスト。
ここに来るまでにサクラは最初の頃はブレー相手に少し緊張していたのだが、今では大分解れた様でこのように気兼ねなく会話を出来るようになっていた。
「それで、その化け物並みの魔物を一人で討伐したんですか! 凄いなぁ~」
「ああ、とはいえその時の私も半死状態だったが・・・」
そして今はサクラはこれまでブレーが達成してきた依頼の話を聴いていた。
彼女のこれまでの経歴を聴き、同じギルドの者として目を輝かせて話に食いつくサクラ。そんな彼女の反応に少し照れくさそうに頬を指でかくブレー。
「(大分サクラも慣れて来たな・・・)」
そんな事を考えていると、馬車が停車した。
「止まったな・・・」
ファストがそう言うと、この馬車の御者が三人に声を掛けて来た。
「お客さんたち、目的の遺跡近くまで着いたからね、悪いがここで降りてくれるかい」
「え、遺跡まではいけないんですか?」
サクラがそう聞くと、御者の女性は手を振ってそれを拒否する。
「この近くの遺跡では石の化け物が住み着いているからね。さすがにこれ以上近づくのは勘弁だ」
御者の言葉にブレーは当然だなといった顔で馬車から顔を出して御者に言った。
「すまない、目的の遺跡から少し離れた場所に依頼した村がある。とりあえずそこまでは送ってくれないか?」
「まあ、それなら・・・」
「よろしく頼む」
「おっ、おお、任せておけ!」
ファストが御者の女性に声を掛けると、女性は嬉しそうな顔でドンと胸を叩いた。その反応を見ていたブレーは現金な女だなと内心で冷めた目を向ける。
こうして三人は遺跡に入る前に、今回依頼をした村まで移動したのであった。
馬車で送ってもらった村は少しこじんまりとした所で、とりあえず三人は人のいる村の集落まで足を運んだ。そして、その村で一番大きな建物へと足を運んで、その村の村長と出会うことが出来た。
「よ、ようこそおいで下さいました。こ、今回は依頼を引き受けてくれてありがとうございます」
若い女性村長は顔を赤くしながらチラチラとファストのことを見ている。
周りにいる女性達も熱のこもった視線をファストに向けている。
「(分かってはいたが・・・やはり居心地が悪いな・・・)」
内心でそんな事を考えながら、一先ずは依頼内容を詳しく聞こうとするファスト。
「それで、遺跡に住むゴーレムを退治してほしいと・・・」
「はい、我々はこの近くにある遺跡の管理を代々引き受けて来ました。というのも、依頼に出したあの遺跡は我々の遠い遠い祖先が建造した物らしいのです」
「その末裔が貴女方ということか」
ブレーがそう聞くと、村長は頷いた。
これまではずっと何の問題も無く遺跡を管理出来ていたのだが、ここ約一か月程前からあの遺跡に謎のゴーレムが出現し始めたらしいのだ。この村の住人達がそれを退治しようと奮闘したが、残念ながら力及ばず、ゴーレムを追い払うことは出来なかったのだ。そこで、この村は外部へと依頼をしたという事だ。
「でも、そのゴーレムは突然現れたんですよね? 何か心当たりとかは・・・」
サクラがそう聞くと、村長は一つ思い当たる節があり、そのことを説明した。
「実はゴーレムが発生する前に一度、とても眩い光が遺跡の中から漏れていたんです。その後にゴーレムが現れたことから恐らくそれが原因ではと・・・」
「恐らく、というよりもほぼ確定だな。その光とゴーレムが何か関係があるのは間違いないだろう」
ブレーは顎に手をやりながらそう呟いた。
「ゴーレムを退治するだけでなく、その原因も調べてみた方が良いな」
ファストがそう言うと、ブレーとサクラも頷く。
ただゴーレムを退治しただけではまた発生する可能性も考えられる。何かしらの元凶があるのならばそれを解決する必要があるだろう。
「とりあえず、遺跡まで案内を頼めるか」
ファストがそう言うと、村長を初め周りの女性達は自分が案内すると勢いよく立候補した。
その光景を見てサクラはむくれ、ブレーは頭を抑えながらため息を吐いたのであった。




