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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第十二章 クリスタル王国からの使者
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少女、実の妹と再会をする


 「やっと帰ってきたな……」


 馬車の中でファストはようやく見えてきたアゲルタムの町を見ながら間延びした声で呟いた。そんな彼を向かえの席に座っているブレーが呆れた様子で見ていた。


 「随分と締まりのない声色だな。少しはシャキッとしろ」

 「しょうがないだろ。イロイロあったんだから…」


 そう言いつつ彼は自分の隣に座っているサクラをジト目で見た。

 ファストのどこか責めている感じのある視線に晒されサクラは縮こまりながら頭を下げる。


 「ごめんファスト。その…あの時は反射的に……」

 「まあ、別にもういいよ」


 村での混浴の際、アクシデントでサクラの裸体を完全に見てしまったファスト。その時に恥ずかしさのあまり物理的に燃え上がりファストを襲ってしまった事を改めて思い返して申し訳ない気持ちとなった。いくら裸を見られたとはいえ、元々混浴は自分から申し出た事なのだ。故に自分が怒る資格はないと反省するサクラ。


 「すー…すー…」


 そしてブレーの隣の席ではクルスが我関せずといった感じで気持ちよさそうに睡眠を取っていた。規則正しい寝息を立て、隣のブレーに頭をより抱えて眠っているその姿にファストはそっと呟く。


 「クルスはあの時には村で待機していて温泉に来ていないからな……。気楽そうで何よりだ」


 入浴時クルスは村の方で待機していたのでそもそも現場にいなかったので、温泉から戻ってきたファストとサクラがなにやら気まずそうな雰囲気を醸し出していたのに可愛らしく首を傾げていた。

 補足するなら実は裏でブレーが温泉で何があったかを説明していた。その時、本当に微かだが小さくぷっと笑っていた……。


 遺跡内でのゴーレムとの戦闘よりもこの混浴の1件の方がファストにとっては疲労を感じる出来事であった。だが、今回の依頼のさなか自分が気を失っていた事の原因は分からずじまいだったので少しモヤモヤが彼の中で残っていた。

 そんな事を考えていると馬車が停車した。


 「着きましたよお客さんたち」


 馬を止めて御者が声をかけてくる。

 ファストたちは運んでくれた事に礼を言うと馬車を降りていく。


 「ほらクルスちゃん、起きて」

 「んにゅ~…」


 今だ眠りから完全に冷めていないクルスは眠そうな声を出しながら目をこすって起き上がる。しかしまだ寝ぼけているのか席から立ち上がろうとせず、仕方なくサクラが腕を引いて彼女と一緒に馬車を降りた。







 町に戻ると相も変わらずファストの帰還にすれ違う町の女性が声をかけてくる。しかしもうファストもこの程度の事ではいちいちリアクションは取らなくなり、声をかけてくる通行人には軽く手を振って挨拶をして流す。そんな彼の背中には結局睡魔に勝てずに眠りに落ちたクルスが背負われている。


 「とにかく宿へと戻ろうと思う。今はベッドにゆっくりと体を預けて惰眠をむさぼりたい気分だ」

 「そうか…私も自分の家へと戻り休養を取ろうと……!」


 ファストたちと違い自宅を持っているブレーは町の中央まで行くと、そこでファスト達とは別れようと背を向けるが、振り向き足を一歩動かすとその動きを止めた。

 ブレーが歩みを止めた事に不審がるファスト達であるが、彼女はそんな彼等の視線など気にも留めず瞳を眼前に向け続ける。

 

 彼女が視線を向ける先には1人の女性が立っていた。

 

 その女性はブレーと似たような恰好をしていた。

 少し過激に思える露出部分が少し多い鎧、そして右肩にはマントを付けている。そして恰好だけでなくその容姿もブレーと似ている。髪は長髪であるがブレーと同じ美しい水色をしている。

 

 「知り合いかブレー?」


 ファストが視線の先で立っている女性を見つめながら前にいるブレーへと尋ねる。

 しかし彼女は相変わらず無言のまま佇み、眼前に映る少女を見つめている。流石にその不審な様子にサクラの表情も少し不安げになり始めていると、視線の先で立っていた少女はこちらへとゆっくりと歩いてきた。

 視線の先の少女がこちらへと近づいてくると、ブレーは小さく舌打ちをして険悪感を吐き出した。その舌打ちが聞こえてきたのかこちらへ近づきながら目の前の少女が話しかけてきた。


 「随分な反応ね。可愛い妹と久々の再開だというのに…」


 少女の口から放たれた言葉にファストとサクラが驚きながらブレーへと視線を向ける。

 

 「今…妹と名乗ったが本当か?」

 

 ファストが真意を確かめるためにブレーへと確認を取ると、彼女は無言のまま頷いて目の前の少女を――自身の妹を睨みつけていた。

 

 「いい加減にその敵でも見るかのような眼つきは勘弁願いたいものね。目の前にいるのは魔獣や闇ギルドの人間ではなく血のつながった妹よ」


 小さく笑いながらすぐ傍まで近づいてきたブレーの妹。

 彼女は目の前の姉をしばし見つめた後、今度は彼女の後ろに居るファスト達へと視線を移した。


 「ふ~ん…貴方が噂の……」


 ファストに視線を移すと彼女は無遠慮に彼の事をジロジロと眺める。

 いくら仲間の身内とはいえ、まだほとんど素性も知らない女性に舐めまわされるように見られるのは気分の良いものではなく少し不快感を表情に表す。その反応を見て悪いと感じたのか少女は数歩後ろに下がり軽く謝罪をしてきた。


 「ああ悪かったわね。少し興味が強くて遠慮なく見つめたりして悪かったわ。まず自己紹介から始めるべきだったわね」


 そう言うと彼女は自身の胸へと手を当てて自分の名を名乗った。


 「私の名前はソード・ウォール。ここにいるブレー・ウォールの双子の妹よ」

 「双子…」


 サクラが改めてブレーと目の前のソードの事を見比べると確かにそっくりである。背丈、体格などはそっくりであり、違いといえば髪の長さや目元など本当に極微妙な違い位しかない。

 サクラがソードとブレーを見比べている事にソードが気づくと、彼女は小さく笑ってブレーの隣へと並んで立った。


 「双子というだけあって似てるでしょ? ただ私の姉は眼つきがきつくてね。そこは私の方がポイントが高いかしら?」

 

 そう言うと彼女はブレーの肩に手を置くが、その置かれた手をブレーは乱暴に払いのける。

 その反応の仕方にソードは叩かれた自分の手を押さえ、ワザとらしい反応を見せつける。


 「いったいわね~。実の妹に対してその反応はないんじゃないの?」

 「………」

 「おやおや無視ですか?」


 声をかけてもそっぽを向くブレーの反応にファストとサクラは少し怪訝な表情を表す。

 実の妹相手にもかかわらずにこの対応の仕方はファストにも思うところがあるのか流石に少し物言いをする。


 「おい、実の妹なんだろう? もう少し愛想よくしたらどうだ?」

 「…ああそうだな。確かに実の妹に対する反応ではないのかもしれないな。だが血のつながりをもってしても分かり合えない部分はあるものだ」


 そう言うとブレーはソードを睨みながら彼女がこの場に現れた理由を問い始める。


 「それで、何故お前がこのアゲルタムに居る? クリスタル王国からわざわざ何をしに来た?」

 「クリスタル王国…」


 ブレーの口から出てきた王国名にサクラはかつての馬車の中での会話を思い出していた。

 そういえば彼女は元々はクリスタル王国に住んでいたと聞かされている。しかしどういう経緯があったのかは不明であるがこのアゲルタムに彼女は移住してきた。何故わざわざクリスタル王国の様な発展した王国からこの町へとやって来たのか今更ながら気になるサクラ。

 その一方、ファストは目の前の2人の姉妹関係の方を気になっていた。


 「(ブレーの態度は肉親にするソレではない。家族がいるにもかかわらずブレーはこの町へとやって来た。何か深い理由がありそうだな……)」


 あまり人の家族間の問題に口を出すべきでない事はファストとしても重々承知しているのだが、かといってこのままこの場を黙って立ち去るのもどうかと思ってしまう。隣に視線を移すとサクラも似たような思いなのか少し困った表情で姉妹のやりとりを見守っていた。ファストの背中に居るクルスは相変わらず我関せずと言った感じでぐーぐーと眠り続けているが。

 ブレーの少し剣呑な視線と向き合っているソードは一度視線を外すと、小さく笑いながら言った。


 「近くに酒場があるわ。どうせなら座ってお話しましょうよ」

 「話があるならこの場でちゃっちゃと終わらせろ」

 「まあそう言わずに、あなた達も一緒に来てくれる?」


 ソードはブレーを宥めつつファスト達にも誘いを入れる。そして返事を聞く前に背を向き歩き始める。


 「こっちよこっち。付いてきて」


 顔だけ振り返りながら、指で酒場のある方向を示すソード。

 ブレーは舌打ちをしつつも彼女の後に続き、誘われた以上帰れなくなったファスト達もその後へと続いていくのであった。



 

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