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少年、躊躇いなく命を摘み取る


 「ガあああアアあああアあああッ!?」


 余りの激痛で涙を目の端に浮かべながら絶叫し続ける女。

 そんな涙を流し叫ぶ彼女を退屈そうな目でフォルスは見ていた。そこには哀れみも嘲りも無い、単純につまらない女という感情だけがその瞳には籠められてた。


 「たくっ…少し本気出したらこのザマかよ。もういいわ」


 そう言うとフォルスは地面で転げ回っている女に近づくと、手に持っている鎌を振り上げる。


 「!?」


 痛みで話し声までは聴きとる余裕が無かった女であるが、フォルスが鎌を振り上げ自分に振り下ろそうとする姿が目に入ったので、激痛をこらえながら女は命乞いをした。


 「まっ、まってッ! 少し待ってちょうだい!!」

 「あん?」

 「こ、ここで私を殺しても貴方には何の得にもなりはしないわ! だから私を見逃してくれるのであればそれ相応の金額を支払うわ!!」

 「………」


 死にたくない一心で恥も外聞も捨て助けを乞う女。たとえ今まで稼いできた財産を全て引き換えにしてもいいと、涙を零しながらなんとか見逃してもらう様にフォルスへと縋る。

 フォルスより少し後方から様子を窺っていたネオは女の惨めすぎる振る舞いに哀れみすら感じていた。

 自分を売り飛ばそうとした相手、普通ならば自業自得だと嘲笑っても良いのかもしれないが、腕を切り落とされ涙ながらに命乞いをするその姿を嗤う程イキがる事は出来なかった。


 「たくっ、最後位は往生際良くしろや」


 そしてフォルスは侮蔑を含んだ表情で地べたに居る女を見下していた。

 その女に対し同情とはいかないが、命までは取らなくてもとネオが言おうとしたが―――


 「黙って死ね」


 フォルスはネオが声を掛ける前に振り上げていた鎌を女の脳天へと一気に振り下ろした。その瞬間を目撃したネオは思わず口を押えて小さく悲鳴を漏らした。

 

 「たくっ…最後はありきたりな命乞いとはあきれ果てたぜ。たくボケが……」


 振り下ろした鎌を動かなくなった女の頭から引き抜いた。鎌の抜けた箇所から赤い赤い血が地面へと染み込んでいく。その光景を見ていたネオは思わず腰が抜けてその場で膝を付いてしまう。

 マナで形成された鎌を消し、ネオへと歩み寄って行くフォルス。


 「おい、とりあえず一番腕の立つ敵は始末したぜ」

 「え…あ…ああ」


 ネオはたどたどしい言葉で頷いた。

 今まで盗みなど犯罪を働いた経験は豊富なネオであるが、人の命を奪った経験は皆無であった。勿論、人の死体を直接見る経験も、鼻に着く他者から香る鉄分の強い臭いも全てが未経験。

 倒れている女の亡骸を見つめながらネオがフォルスへと尋ねる。


 「ほ…本当に死んだのか?」


 少し唇を震わせながらそう尋ねると、彼は何食わぬ顔で即答した。


 「当たり前だろうが。脳天貫いてやったんだぞ」


 振り返らず親でクイっと背後で倒れている女を差すフォルス。

 あまり直視したくないのかネオは死体から目を背ける。生の死体を見て吐き気がこみあげてくるが何とか我慢する。

 そんな彼女を置いてフォルスは淡々と次の行動を口にする。


 「あとはコイツの部下のゴキブリ共の処理だな。まだこの区域内にいくらかワラワラと湧いているからな。おい、とりあえずゴキブリ掃除に行くからお前も付いて来い」


 フォルスがそう言うと近くに落ちている廃墟内の大きめの廃棄物のゴミを持ち上げ、それを女の死体の上へと投げ捨てる。彼の投げた廃棄物は女の遺体の上へと落ち、死体は完全に埋もれて見えなくなる。魔獣ならまだしも、廃墟区域とはいえ町に死体を放置しておくのは不味いと思っての行動であった。

 あまりにも淡々と命を奪い、死体を隠蔽するフォルスの振る舞いを見てネオの不安はドンドンと大きくなっていた。


 「(こ、こいつ…私が思っているよりも危ない奴なんじゃ……)」


 そんな事を考えているとフォルスがネオへと話しかける。

 

 「何をぼっーとしてんだよ。さっさと残りの害虫駆除に行こうぜ。それが終わりゃお前はもう自由だ。いや、俺のパシリとして働いてもらうことにはなるがな」


 ケケケと笑いながらそう言ってからかうフォルス。今しがた人を殺めた人間の態度には見えず、ネオは無意識に彼へと質問をしていた。


 「さっ…さっきの女、殺す必要があったのか?」

 「ああ?」

 「だ、だってあんなヤツでも命は命だろ。なにも殺さなくても……」


 ネオが少し怯えを見せながらそう言うと、フォルスは疲れたような溜息を吐く。

 

 「俺だって見境なく誰彼殺すようなマネはしねぇよ。だが生かす価値が感じられねぇ輩相手には容赦しねぇ、ただそれだけだ」

 

 そう言うとフォルスは廃棄物で下敷きとなった女の方を眺めながらネオへと自分の考えを語り始める。


 「下らねえ喧嘩程度でイチイチ人を殺す奴は大げさだと思うけどよぉ、俺が今殺した奴はお前を売り飛ばし甘い汁を啜って生きようとしていたヤツだ。そういう外道に変な甘さを見せても命取りになるだけだ」


 フォルスは冷めた目をしながらそう言って潰された女を見つめる。

 実際、彼の言う通りあの取引女はネオの全てを奪い自分だけが得をしようと考えていた。そしてネオに限らず、今まで彼女は多くの女性を捕まえては様々な人種へと売りつけてきた。


 「人の命で商売してきた女だ。殺されても文句なんて言う資格もないだろう」

 「……それは…まあ…」

 「まあ、それは俺にも言えることだけどよ。俺もあそこで潰れている女と大差ねぇ人間だ」


 フォルスはネオの目を見ながら自分も今しがた非難した女と同類だと告げる。

 彼が自分の事を同類だと言ったその真意に気づけず首を傾げるネオ。


 「お前の考えていた通り、それなりに良識のある人間なら命までは奪いはしなかっただろうよ。たとえそれが反吐の出そうなクズ相手でもよ。だがその良識が俺には無かったから俺はアイツをぶっ殺した。つまりは俺も自分の解釈で人の命を奪った外道、あの女と大差ねぇ存在だ」

 

 もしもフォルスがネオと同じ考えを、命に対する価値観を持っていれば殺す事まではしなかっただろう。

 しかし彼はそこまでの良心は持ち合わせていない。結局は自分を優先的に考える人間だ。そういう意味では自分の暮らしを豊かにする為に人の命を金に換えていたあの女と人間性は変わらないだろう。


 「まあ俺の人間性が最悪であろうがお前はもう俺のもんだ」


 フォルスは笑いかけながらネオへとそう言った。

 その言葉に少し怯えを見せるネオであったがそれは一瞬の事。彼女は自分の頬を一度強く叩くと元の緊張の解けた表情へと戻っていた。その顔を見てフォルスは満足そうに頷く。


 「どうやら受け入れられたみてぇだな。この俺のことをよ」

 「ああ、まあな。お前がどんな人間性を持っていても命を救ってくれた恩人には違いない。お前が来なきゃ私は死んだほうがマシな生き方を死ぬまで強いられていただろうし……」


 フォルスが自分が思っていた以上に非情性を帯びている事は十分理解できた。しかしだからと言って今の自分は母親からも捨てられた存在なのだ。行く当てもなく、自分を一応は必要としている男が目の前にいるのならばそれに付いて行くしかない。


 「さて、じゃあ残りのゴキブリ掃除に行くぞ。それが終わりゃ晴れて俺様のパシリだ」

 「…パシリパシリ言うなよ。なんか助けられた気がしない」


 こうして残りの区域内の黒スーツ達の処理へと赴く2人。

 それから僅か数十分後、この区域内の黒スーツ共はあっけなく殲滅された。


 こうして、裏の世界でそれなりに名が通っていた1つの人身売買組織がこの日潰れた。

 そしてこの一件がフォルスに新たな戦いを呼び寄せる事になるとはこの時の彼には思いもしなかった。だが、それが分かっていても彼は新たな戦いの機会を得れてむしろ喜んでいただろう……。




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