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少年、実力を見せる


 「な…何よソレ……」


 目の前の少年から感じる圧倒的な力は今まで自分が戦っていた時とは比較にすらならない程に強大であり、そして尚且つ圧倒的であった。今までは自分が僅かに戦いをリードしていたが、今はもう完全に形成が逆転している事は火を見るよりも明らかであった。戦わずとも放たれているマナの力強さで勝ち目がない事が突き付けられる。


 「(これほどの力…今まで感じた事が無いわ。ど、どうすればこの場から逃げ切れる!?)」


 女の頭の中には目の前の脅威から無事に逃げ切る算段を必死に立てていた。余りにも絶望的な戦力の差は戦う気力すら女の中から削ぎ落してしまったのだ。

 

 「…おい」


 フォルスが口を開き声を発する。

 その声は別段大きくはないはずだが、女の耳には良く聞こえて来た。とても冷たく狂気を感じるその声に思わず膝が震えそうになる。


 「なに怯えた小動物みてぇな顔をしてるんだよ」


 女の怯えた表情とは対照的に、フォルスは不機嫌な顔をしていた。


 「こっちはお前の力を認めて少しやる気を出し始めたんだぜ。それなのにそんなしょぼくれちまうとよぉ……」


 フォルスは息を大きく吸い、女目掛けて叫んで不満を叩き付ける。


 「こっちのテンション萎えちまうだろうがあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」 

 「!!??」

 「うるせっ!?」


 廃墟へと響き渡るフォルスの怒号は大気を揺らし、女とネオの鼓膜にビリビリと痛みを与える。

 余りの声量の大きさに思わずネオは耳を勢いよく塞いで鼓膜を守る。


 「くうっ!」


 それに対し女はネオの様に耳を防ごうとはせず、腕でなく脚の方に力を籠めて動かした。フォルスに勢いよく背を向け、脚にマナを集約して勢いよく跳躍する女。

 女が勢いよく跳躍すると余りの衝撃で小さなクレーターが出来た。


 「(まともにやり合っても勝ち目なんてないわ! 命あっての物種…ここは退散させてもらう!!)」


 迷わず全力で退散すべく跳躍する女であるが、彼女が上空へと跳んだ直後には既にフォルスが女の真後ろまで距離を詰めていた。


 「おせぇよバーカ」


 空中ですぐ真後ろから罵倒をするフォルス。

 女は身を捩り背後に居るフォルスへと炎を纏った蹴りを放ち地上へと叩き落そうとする。


 「ふん…」


 しかし女の蹴りはあっさりと避けられ、逆にフォルスの方が彼女の腰へと蹴りを叩き付けた。

 

 「かはっ!」


 蹴りの衝撃で上空から一気に地上まで落下して行く女。蹴られた際、口からは空気だけでなく微かに血も零れていた。そして隕石が落ちていくかの如く一直線に地上へと頭から下降して行くが、ぶつかる手前で空中で回転し足をマナで強化して地面へとなんとか着地した。

 着地した際、無理な体制と勢いのせいで強化していたとはいえ足に痛みが走ったが、それ以上にダメージが深い箇所があった。


 「カッ…ぐぅ…」


 女は苦痛に顔を歪ませながらフォルスに蹴りを入れられた箇所を押さえる。

 蹴られた箇所に鈍い鈍痛が走り、少し軽く押さえるだけで電流が流れるかのように痛みが走る。


 「(これは…ヒビが、最悪折れているわね…)」


 一撃で骨に異常を与える程の攻撃力、脚に集中していたとはいえ肉体もマナで強化していたにもかかわらずこの威力だ。もし強化していない状態であれば骨を粉々に砕かれていただろう。

 しかし痛みに呻いている暇はなく、上空からフォルスも地上へと着地をし相も変わらず不満を募らせた表情で自分を見ていた。


 「オイオイオイ、勘弁してくれよ。あんな小突いた程度の蹴り一発で何痛がっているんですかぁ?」

 

 煽り口調でそう言うフォルスに対し女は何も返さない。いや、返せないと言った方が良いのかもしれない。唯の一撃で呼吸をする事すら苦しくなるほどなのだ。少なくとも下手に言い返して怒りを余計に買えば一瞬で潰されて終わりだろう。


 「(何とか逃げる隙を……)」


 痛みをこらえながらこの状況から逃げるすべを考える女。

 単純に全速力で逃げ切る…と言うのはほぼ不可能だろう。一瞬で追いつかれて終わりだ。現に今しがたそれを実行されて骨を砕かれたのだから。

 どうにかして生き延びる方法を模索する女、それに対してフォルスは落胆を隠さぬ大きなため息を吐いた。


 「もう駄目だな。目が勝てねぇって訴えてんだもんよ」


 相手の戦意喪失を感じ取ったフォルスは退屈そうに欠伸をしながらゆっくりと女へと歩み寄って行く。

 フォルスが少しづつ近づくと、女はびくっと体を震わせ必死に頭を回転させる。何としても逃げ延びようと様々な考えを頭の中で巡らせるが、そのどれもが実行に移しても生き残れる可能性の無い案ばかりしか出て来ない。


 その時、彼女の瞳には逃げ切れる可能性を作り出せる1人の少女が映し出された。




 ネオはフォルスの圧倒的な力に思わず言葉が出ずにいた。

 少し直前までは押され気味であったが、彼にはまだ余力があり今は形勢逆転。フォルスの力が圧倒的過ぎてあの取引女も逃げ出そうとしたくらいなのだ。しかし上空で蹴り落とされ逃走を防がれ追い詰められている。


 「とりあえず助かったな…」


 小さな声で安堵の一言を零すネオ。

 この分であれば自分も助かると安心できるが、それと同時にこの先あの男のパシリとしてこき使われるのかと思うと複雑な心境であった。


 「(まあ売り飛ばされるよりはマシだろうけどよ)」


 そう思い完全に気が緩んでいたネオ。そのせいで彼女は自分に狙いを付けている女の視線に気付かなかったのだ。視線を下へと傾けて事が片付くのを待っているネオであったが、彼女の耳にフォルスの声が聞こえて来た。


 「おい、何ボーッとしてんだぁ!!」

 「え?」


 フォルスの怒号で下へと向けていた視線を上げたネオ。

 そんな彼女の目の前には取引女が目の前まで迫っていた。


 「うわっ!?」


 まさか自分へと向かってくるとは思っていなかったネオからは大きな驚愕の声が放たれる。そして彼女が驚いている間に背後に回り込まれ後ろから首を軽く締められる。

 

 「てめっ、離せよ!」

 「そうは行かないわ。あなたには私の逃走を手助けしてもらわないといけないんだから」


 羽交い絞めの状態で首に力を籠める女。

 耳元で彼女はネオに脅しをかける。


 「あまり暴れちゃだめよ。勢い余って首の骨をへし折っちゃうかもしれないわよ」


 先程までのフォルスとの攻防を思い返し、その気になればこの女は自分の首を軽くひねる事位は訳ないと思い思わず体が硬直してしまう。

 腕の中のネオが大人しくした事を確認すると、女はフォルスに話し掛ける。


 「この娘の命と取引しましょう。私を見逃してくれるなら彼女は後で必ず解放するわ。私の姿が見えなくなるまでその場で待機して「クハハハハハハハハッ!!」……何がおかしいの?」


 女が話している最中に大きな声で馬鹿笑いをするフォルス。

 彼の突如の笑い声に女だけでなく人質のネオも思わず怪訝な表情をする。

 2人の視線を浴びつつしばし笑い続けるフォルス。満足するまで笑うと彼は涙をこすりながら独り呟く。


 「ハハハハっ、まるでデジャブだな。前にもあったぜ似たような状況がよ」


 かつて、自分をこの世界に呼び出したマスターたるヨミが人質にされた事を思い出していたフォルス。

 当然目の前の2人はそんな出来事を一切知らないので未だに怪訝な眼をフォルスへと向け続けている。


 「何がおかしいのかは知らないけれど…そのままソコで大人しくしてくれるかしら?」

 

 女はそう言ってネオの首を絞めつつゆっくりと後ろへと下がろうとするが―――ぼとっと言う音が耳に聴こえて来た。


 「…ん?」


 突然耳に聴こえて来た奇妙な音、普段ならばスルーする程の小さな音ではあるが神経が研ぎ澄まされた今の状態ではそんな小さな音も良く聴こえた。そう、コレは何かが地面にでも落ちたような音であった。


 「どこ行こうってんだ?」

 「なっ!?」


 いつの間にか目の前に居たフォルスが背後に移動しており、女へと語り掛ける。

 フォルスが突然背後に現れた理由は単純、女が認識できない程の速度で周り込んだ、本当にそれだけだ。

 

 「ひっ!?」


 その時、ネオの口から悲鳴が漏れる。

 彼女は地面を見つめて顔を青ざめており、その視線に釣られて女も自分の足元を見た。


 そこには……人間の手首が落ちていた。


 「え…コレって……」


 落ちている物の正体に気付くと、次の瞬間、女の右手首から信じられない程の激痛が走った。


 「い……イがあァァァぁァァァァ!?」


 女は絶叫を上げながらその場で転がりのたうち回る。

 痛みの中で彼女は先程のぼとっという音の正体が自分の手首が切り落とされた音である事を理解した。

 経験の無い程の激痛、砕かれた骨の痛みなど無視して体を地面に打ち付けのたうち回る。人質に取っていたネオも解放し、損失した腕の手首付近を押さえる。

 

 「残念だったなぁ。本気を出せばお前が人質をどうこうする前にこうして動きを封じられんだよ」


 フォルスが何かを言っている様であるが女の耳には全く届いていなかった。

 そんな女に対してフォルスは今日何度目になるか分からない盛大なため息を吐いてゆっくりと近づくと、手に持っている禍々しい鎌を高く振り上げた。



 

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