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少女、少年の劣勢さに焦る


 「たくっ、もう少し歯ごたえがあるのかと思ったが期待外れもいいとこじゃねぇか」


 マナで作り出した鎌を消し、辺りで気絶している黒スーツ達を見ながら不満を漏らすフォルス。とはいえ、フォルス自身もそこまで過度な期待はしてはいなかった。所詮は一般人を標的にする雑魚、魔獣の様な人ならざる存在と戦う訳でもない。まだギルドに居る女達の方が遥かに歯ごたえがあるだろう。


 「所詮は一般人の集まりか…」


 小さくぼやいた後、フォルスは後ろで控えていたネオの元まで歩み寄った。

 フォルスの無双ぶりに呆気に取られていたネオであるが、とりあえずは当面の危機が去った事で少し安堵する。そんな彼女の頭をフォルスが軽く小突いた。


 「いてっ、何すんだよ!」


 突然叩かれ噛みつくネオであるが、そんな彼女とは対照的にフォルスは呆れた顔をする。


 「なぁにもう一件落着なんて顔してんだよ。まだ他にもこのゴキブリ共が残ってんだろ」

 「そりゃそうだけど…でもよ…」


 確かにフォルスの言う通り、まだ連中は残っているのだろうが……。


 「正直お前なら余裕なんじゃないのか?」

 「まあそりゃな。この程度の雑兵にもなんねぇ奴等が何人いても変わんねぇよ」

 「なら…」


 それならやっぱり大丈夫じゃないかと言おうとするネオであるが、それよりも先にフォルスが口を開いて彼女の言葉を遮った。


 「ただ1人を除いてな…」

 「え…?」

 「この同じ格好している連中とは別に1人居ただろ。なんか若い女がよ」

 

 フォルスが言っているのはこのスーツ連中を従えていた、ネオの母親と取引をしていた若いリーダー格の女であった。


 「アイツ、そんなヤバいヤツなのか? 何か黒スーツ共よりしょぼそうな女だったけど」

 「少なくともコイツ等よりも上等ではある。その証拠にアイツからは中々大きなマナを感じたからなぁ。今だってハッキリ感じてるぜ」


 そう言ってフォルスは背後を振り返る。それに釣られてネオも振り返ると、そこには今話題となったスーツ連中を束ねるリーダ格の取引女が立って居た。

 

 「あら気付いていたの? 後ろからこっそりと…なんて考えていたんだけど」

 「て、てめ…」


 いつの間にかすぐ傍まで迫っていた女にネオはゆっくりとフォルスの傍まで無意識に寄っていた。それを見て女は口元を隠しながらクスクスと笑う。


 「あらあら、頼もしいナイト様にべったりね」

 「なっ、ち、違うわい!」


 いつの間にかフォルスへと近づいていた事に今更気づき、顔を赤くしながらフォルスから距離を取る。

 ネオの反応を見て楽しんでいた女であるが、その空気を払拭するかのようにフォルスが彼女へと話し掛ける。


 「オイオイオイ、そんな瑣末な話なんてどうでもいいだろ。こっちはずっとウズウズしてんだよ」


 フォルスはマナを高めて目の前の敵へと威圧を叩き付ける。

 フォルスから発せられるその力強いマナにより、今までゆとりを感じられる女の表情は緊迫した面持ちへと変わった。


 「…このロメリアの町のギルドに1人男が加入した事は聞き及んでいたけど、あなたがソレね」

 「と言うより、この町にゃ俺しか男は居ねーんだからそりゃそうだろ」

 

 それもそうねと笑い返す女。

 フォルスから放たれるマナはとても大きく、一般人とは言えネオも肌がビリビリと痺れる感じはしていた。にも拘らず、女は表情は真剣な物へと変わりこそしたがそこまで過剰に焦ってはいない。

 

 「いいねぇお前。この状況でもまだ余裕を捨てていない。腕に自信がある証拠だ」

 「何喜んでんだよ…」


 相手の力が未知数の状況ならば普通は緊張する筈だが、その普通の感性を生憎持ち合わせていないフォルスはむしろ愉しみすら感じていた。そんなまともではない反応を見せるフォルスにネオは訳が分からないと言った顔をする。


 「なーに心配すんなや、お前は下がってろ」

 

 そう言うと鎌を構えて戦闘態勢を取るフォルス。

 それに合わせるよう、女もマナを高める。


 「…今日は運がいいわ」 

 「あ? 何が運がいいってんだ?」

 「だって……貴重な男がわざわざ自分から売りに出されに来てくれたんだもの。貴方を返り討ちに捕らえれば一生遊んで暮らせる額は懐に入るわ」


 女が口元に弧を描きながらそう言うと、フォルスは更に深い笑みを浮かべて笑う。


 「ハハハハハァッ!! そうだよ、そうこなくちゃよぉッ!!」


 狂気をにじませた笑い声と共に高く跳躍し上空から鎌を大振りする。彼が振るった鎌からは赤いマナの斬撃が地上に居る女目掛けて降り注ぐ。しかし女は取り乱すことなくマナで身体能力を底上げし、軽く後ろに跳んで落ちてくる斬撃の塊を回避する。そのまま斬撃は女の元居た場所に落ち、周辺が土煙を上げ、着弾点が大きくえぐれる。


 「ハハハハッ!!」


 鎌をブンブンと振りながら斬撃と共に下降して行くフォルス。

 次々と自分に降り注ぐ斬撃を回避しつつ、冷静に対処していく女。そしてフォルスが地面へと降り立つと、彼に向かって一気に接近する。


 「シュッ!」

 

 切れ味の良い刃物の様な蹴りを連続で放つ女。

 その蹴りの連撃を紙一重で回避し続けるフォルス。そしてタイミングを見て脚を掴み、そのまま放り投げようとするが―――


 「あちっ!?」


 掴んだ女の脚から突如として炎が噴き出る。

 突然の発火に驚きと熱さで思わず脚から手を離してしまうフォルス。その隙を逃さず炎を纏った蹴りがフォルスの側頭部へと叩き込まれる。

 蹴りを受けたフォルスは横へと大きく吹き飛んだ。


 「あっちぃなぁ…」


 しかし吹き飛ばされながら鎌を地面に突き刺し途中で吹き飛んでいる体を止める。

 だが地面に着地し前を向くとすぐ目の前まで女は差し迫っており、先程以上に苛烈な蹴りの連撃を放つ。しかも今度は脚に炎を纏わせた状態でだ。

 

 「オラァッ!!」


 蹴りの連撃を避けつつ鎌の刃にマナを集約し振り下ろす。その一撃を女は脚にマナを集約し一気にその場から離脱して避ける。フォルスの振り下ろした一撃は再び空を切り、そして凄まじい轟音と共に地面へと叩き込まれる。

 先程よりも激しい土煙が周囲へと舞い散り、離れて観戦していたネオの方にも土煙が届く。


 「うえっ、ぺっぺっ!!」


 口の中に土の粉が入り唾を吐くネオ。口の中の異物を取り除くと、衝撃の発生地へと目を向けるが未だ土煙で覆われているため状況が確認できない。当然その中に居る2人がどうなっているかも分からない。


 「どうなったんだ…?」


 目を凝らしても見えるの舞い上がる煙状の土だけであった。だが、その見えない煙の中では何かがぶつかる音が響き渡っている。そして徐々に土煙が晴れ、そこにはフォルスと女が鎌と蹴りを高速でぶつけ合っていた。

 炎の蹴り脚を鎌の刃や柄で防ぐフォルス。そして蹴りを防ぎつつ斬撃を放つが、女もそれを回避しつつ合間に蹴りを入れ続ける。


 「そらッ!」

 「シィッ!」


 ガシィンッと言う音と共に両者の鎌の柄と炎の脚が交差する。

 その状態のまま数秒互いに睨み続け、そして両者同時に後ろへと下がる。


 「ハッ、やっぱり猫被っていやがったなぁ。マナで魔法まで使えんじゃねぇか」

 「そういうアナタは見た目通り情熱的ね。分かり易いわ」


 互いに軽口を言い合う2人であるが、その様子を見守っていたネオには僅かな不安が沸き上がりつつあった。


 「(おいおい大丈夫かアイツ? 何か少し押され気味な気が…)」


 今までの攻防を見る限りわずかばかりとは言えフォルスが若干押されている様に見える。それはあの女も分かっているようで彼女の顔には余裕が戻って来ていた。

 

 だが、それでもフォルスの顔からは笑みが消えてはいなかった。


 「コイツは想像以上だぜ。どうやらもう少しギアを上げてもよさそうだなぁ」

 「え…?」

 

 フォルスが何かを呟いたようだが小声過ぎて聞こえなかった女。ただ、彼が何かを呟いた後、彼の笑みがより凶悪性を増したように見えた。


 「頼むからギア上げ直後に壊れんなよ?」


 そう言った次の瞬間、フォルスから膨大なマナが放出された。

 



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