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少年、人身売買の現場を目撃する

 

 人気のない路上で焼きそばをすするネオ。

 情けを掛けられ惨めである事を理解しつつも空腹に勝てなかった彼女はフォルスの施しを黙って受け入れる事とした。

 濃厚なソースとモチモチした麺の歯ごたえを噛み締めながら、何度も空腹を訴えていたすきっ腹へと咀嚼した栄養を流し込む。すると今まで五月蠅かった腹の虫も鳴くのを止めてくれた。


 「……ふぅ」


 食べ終わったネオはケースに収められていた焼きそばを野菜の一欠けらすら残さずに綺麗に平らげた。

 満腹になりしばし幸福な気持ちに酔っていたネオであるが、すぐに先程の朱い髪の憎たらしい少年の姿を思い浮かべて再び不機嫌そうな表情へと変化する。


 「くうぅぅぅっ! あのヤローめッ! 腹立つ腹立つ!!」


 空になったケースと袋を放り捨てその場で地団太を踏むネオ。

 元々財布を盗んだ自分が悪く、そしてその上食べ物まで貰って普通ならば感謝する筈なのだがあの小憎たらしい笑みを浮かべた少年を思い浮かべると素直に感謝できない、というよりしたくないのだ。


 「くそぉ、この町の女共はあんな嫌味なヤローのどこがいいんだ?」


 このロメリアの町には少年が1人しか居ない。最近、この町のギルドに入って活躍しているとは噂ぐらいで聞いていた。つまりはその噂の少年があの朱髪の男なのだろう。聞き及んでいた話では女受けがいいなどと言われているがあの性格のどこが良いのかネオには理解できなかった。意地の悪く性格が歪んだ男、それがネオの印象であった。


 「まあ、メシをくれたのは有り難かったけどよ……」


 放り捨てた袋を眺めるネオ。

 思えばここ最近まともな食事にありつけていなかったので口では意地になっていたが……。


 「根は良いヤツなのかな……てっ何考えてんだ私は! あんな変態ヤローに感謝なんかするか!!」


 そう言いながらネオはフォルスとは反対方向へと小走りで走って行った。







 ネオから財布を取り戻したフォルスは自分の生活している宿には戻らず、再び当てもなく町を歩いていた。小腹はすいていたが、あのような出来事の後で何かを食べる気にもなれなかった。

 

 「(どうせもうすぐ夕食の時間帯だしな。それまで我慢してりゃいいか)」


 現在フォルスは人ごみを避け町の外れの方へと足を運んでいた。その理由としては単純に大勢の人間、つまり大勢の女性が居る場所にいくと自分の性別から嫌でも目立つので人気のない場所を選んだのだ。

 

 そうして彼は人の気配が感じられない場所に辿り着く。


 「このロメリアの町にもこんな場所があったんだな。ま、ここらは町のかなり端の方だけどよ…」


 寂し気な雰囲気の場所、奥の方には今にも崩れそうなほどの廃墟が見える。

 遠目から見ても壁などにツタが絡まったりと人が住める状態でない事が確認できる。しかしフォルスはその廃墟を見て足を止めた。


 「……」


 視線の先に佇む廃墟を訝しむかのように眺め続けるフォルス。

 別段不気味で何か出てきそうなどとは考えていない。しかしあの廃墟からは感じるのだ―――人の気配が……。


 「……誰か居やがんな」


 どう考えても人が今でも住んでいる環境ではないにも関わらず、目先の廃墟からは人の気配が感じ取れるのだ。しかも感じる気配の数から1人ではない。


 「……」


 無言のまま気配を殺しつつフォルスは廃墟へとゆっくりと近づく。怪しげな廃墟へと近づきながらも彼の表情はどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。

 手元にマナを集中すると、朱く怪しげな光と共に禍々しい赤い鎌が出現する。


 「(さ~ってと、中の様子はっとぉ…)」


 気配を完全に殺し廃墟の壁まで近づき息をひそめる。

 粉々に砕かれた窓からフォルスは中の様子を窺うと、そこには2人の女性が居た。見た感じ年齢は1人は二十代前半、そしてもう1人は四十代の中年女性といったところだろうか?


 耳を澄ませて2人の女性の会話を盗み聞くフォルス。




 『……本当にその話、信じてもいいのね?』


 中年の女性が目の前の若い女性に何かの確認を取っている。その表情はとても疑いが強く滲み出ている。そんな女性とは対照的に若い女性の方は笑顔で頷いている。


 『ええ本当。こちらとしても若くて元気のある娘が欲しかったのよ』

 

 若い方の女性の言葉を聞き中年の女性は嬉しそうな笑みを浮かべる。しかしその笑みはどこか醜悪で様子を眺めていたフォルスは内心で呟いた。


 「(醜い笑顔だな。ありゃいかにも悪だくみが上手く行った糞のするタイプの笑顔だぜ)」


 フォルスがそんな事を考えていると、若い女性も同じ事を思ったのか目の前の中年の女性へと口を開く。


 『随分悪い顔をするわね。母親として中々惨い事をしている自覚はある?』

 『うるさいわね、1人で生きていくだけでも大変なのよ。その上娘の面倒なんて見ていられないわよ』

 『それでその娘さんを売り払おうとはね。まあこちらからこの商売は持ち掛けたんだけど』


 2人の会話を聞きおおよその内容は理解出来たフォルス。

 要するにあの中年女性は生活苦で自分の娘を目の前の若い女性に売り払おうとしているらしい。相手の女性は人身売買などを行う犯罪組織の一員か何かなのかもしれない。少なくとも非合法の職種に就いている人間だろう。


 「(はん、中々オモロイ現場に遭遇したな)」


 2人の様子を窺っていると、若い女性が廃墟の入口の方へと歩いて行く。どうやら必要な会話はもう終了したようだ。

 壊れかけた玄関付近まで歩くと、若い女性は一度振り返り中年女性へと聴こえる声量で確認を取る。


 『じゃあ明日の朝6時に娘さんを連れてここまで来てね。部下と一緒に迎えに来るわ』


 そう言うと今度こそ彼女は廃墟から出て行った。

 取り残された中年女性はその場で独り言を呟き始める。


 『これで明日からはまともに生きていける。ふふ…ふふふふふふ……』


 親指の爪をガリガリと噛みながら狂った様に笑い声を漏らし続ける中年女性。その姿は彼女が居るこの廃墟にとても似合っており、まるでこの家に憑りつく亡霊の様に見える。

 壊れたラジオの様に笑い声を漏らし続ける女性を見てフォルスがうえっと舌を出す。


 「きっしょくわり~…」


 思わず口から言葉が出てしまったが気付かれることも無く、未だに女は笑い続けている。そしてそのまま笑い声を漏らしながら女も廃墟を出て行った。

 正直フォルスは今見た光景を見て見ぬフリでもしようかと考えたが、さすがにここまで来たらなんとなく無視する訳にもいかないと思ってしまい女の後を付ける。別段正義心などなく、単純にこの結末が知りたいと言う気持ちが強かった。

 

 「……見た感じ普通の中年だな。こんな気配バレバレの尾行にすら気付かないんだからよ」


 フォルスは女の後を付けながらそうぼやく。

 廃墟を出てから10分後、また新しい廃墟がフォルスの視界に入って来た。そしてその廃墟に女は近づくと扉を開き中へと入って行った。


 「あのオバハン、ここに住んでんのか?」


 女の入って行った廃墟を眺めるフォルス。

 よく見ると所々修繕した形跡が確認できる。という事はここを根城にして生活しているのだろう。


 「カツカツの生活に耐え切れず子供を手放そうってか……あん?」


 ボロボロの改善廃墟を眺めていると背後から何やら気配を感じるフォルス。

 先程の取引相手の女性が戻って来たのかと思い、その場から高く跳躍し廃墟の屋根の上へと軽やかに飛び乗った。そして屋根に飛び乗ってから数十秒後に廃墟の前まで1人の少女がやって来た。


 「……あいつ」


 そこに現れたのはつい先ほど自分の財布を盗んだ少女、ネオであった。

 彼女は中年女性と同じ廃墟へとためらいなく入って行った。


 「さっきの話題になっていた娘はアイツの事だったんか」


 屋根の上で少し驚いていると、廃墟の中から何やら騒がしい声が聞こえて来た。会話の内容までは分からないが中年の母親があのネオに対して何か怒鳴りつけている様であった。


 「………」


 母親のヒステリックな声と共にネオの何やら悲鳴が聴こえてくる。ネオの身体に付いていた青アザから考えて恐らく暴力でも振るわれているのだろう。

 フォルスはネオの悲鳴を聞きながらも別段助けに入ろうとはせず、そのまま飛び降り地面に着地するとその場を後にする。


 「ワリーな、テメーの家庭内事情は知らねーわ」


 一切の暖かみを感じさせない冷めた声色で廃墟を眺めながら言い放つフォルス。

 何やら耳を済ませれば何かを殴る打撃の音も聴こえて来る。確実に母親に殴られている最中なのだろう。


 「……あばよ」


 しかしそれでもフォルスは助けになど行こうとはしなかった。

 あの家の中で起きている出来事はあくまであの親子の事情だ。そこに割り込む資格など自分にはない。


 背後から聞こえるネオの苦し気な悲鳴を耳にしながらフォルスはその場から黙って立ち去って行った……。




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