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少年、盗人に制裁を加える


 「よお、大漁大漁ってか? 俺の財布の中身はそんなに豊作だったかよ?」


 フォルスがそう言ってからかって声を掛けると、少女は何も答えず背を向け迷うことなく逃走を選択した。

 手に持っていた財布を思わず落としてしまうがそれに構うことなく逃げる事だけを意識して脚を必死に動かす。だが、彼女の逃走劇はものの数秒で幕を閉じる。


 「遅ぇよ馬鹿が」


 フォルスは一瞬で少女に追いつくと彼女の肩を掴んで動きを止める。

 肩を掴まれた少女は振り向きざまに蹴りを放って来る。中々に鋭い蹴りではあるが、フォルスはソレを易々と掴み脚を引っ張った。


 「うわたたたっ!?」


 勢いよく脚を引っ張られそのまま逆さの状態で宙ぶらりんの状態となる少女。

 体制を逆さにされた状態のまま、少女は激しく騒ぎ立てる。


 「てめぇ離せよ!」


 バタバタと空いている両腕と掴まれていない片方の脚を動かし懸命に抵抗を試みるが逃げられない少女。そんな間抜けな体制の少女を眺めながらフォルスはニヤニヤと少女の事をあざ笑う。

 

 「そんなお間抜け極まりない体制で凄んだ所で愚鈍な姿がより際立つだけだぜ」

 「なにおぉ~!!」

 「たくっ…まあ人のモンとったんだ。まずは軽い仕置きから始めるか」

 「ああん、何する気だ……」


 少女が大きな声で問いかけてる途中、フォルスは少女の掴んでいる足首を強く握り頭上の上で振り回し始める。フォルスの頭上で少女がグルグルと回される。


 「うわあぁぁぁぁぁぁ!?」


 軽々と振り回される少女は目まぐるしく視界に映る映像に酔い、グルグルと目を回し始める。


 「か、勘弁してくれ! 気持ち悪いぃぃぃぃ!?」

 「クハハハハッ! 聴こえねぇよ!!」


 面白そうにゲラゲラ笑いながら更に脚を振り回す速度を上げる。

 頭上で回されている少女からはさらに大きな声で今すぐ回転を止める様に懇願する声が聞こえて来る。


 「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」

 「ああ? 聴こえねぇって言ってんだろ」

 「も、もう本当に、ウプッ!!」


 顔面を青く染めながら両手で口元を押さえ始める少女。

 しかしそれから約数分間の間、少女は無情にもフォルスの手によって面白半分に回され続けるのであった。




 フォルスに回され続けた少女は解放された後、そのまま逃走はせずにその場で倒れていた。実際には解放直後に逃げ出そうと思ったが、走ろうとした瞬間に強烈な吐き気に襲われその場で膝を付きそのまま地面へと寝そべってしまったのだ。

 襲い来る吐き気を必死に押さえながら呻き声を出し続ける足元の少女にフォルスが話し掛ける。


 「相手が悪かったな。ぶつかった瞬間に懐にお前が手を入れて来た事は気付いていたんだよ」

 「う、うぷっ…じゃあなんでその時に捕まえなかったんだよ?」

 

 盗まれた瞬間に気付いていたのならばその時捕まえておけばいいものを、何故わざわざ一度は逃がすような事をしたのか吐き気を感じながら疑問に思うと、フォルスは小さく笑いながら言った。


 「いやぁ、実はついさっき糞下らねぇ仕事をさせられてイライラしてたからよ」

 「……それってストレス発散の口実が欲しかったって事だろ!?」

 「まあそう言う事だな。でも文句は言えねぇだろ?」


 フォルスがそう言うと少女は何も言い返せず黙り込む。

 その通りである。彼がワザと自分をその場で捕まえなかったのはストレスの発散の為だとしても彼の財布を盗んだのは自分の意思なのだ。無理強いではなく自分が罪と分かっていながらも働いたことなので文句を言う資格はない。

 言いようのない悔しさを感じていると、フォルスはしゃがみ込んで未だに地面で膝を付いている少女に名前を尋ねる。


 「お前名前は?」

 「べ…別になんでもいいだろ。私の名前なんて……」


 眼を背けてそう言うと、フォルスはがしっと少女の脚を掴む。

 すると少女は慌てて自分の名前を教える。


 「ネ、ネオ! ネオ・テスクだよ!」

 

 またあんな苦しい思いはしたくないので早口で名を名乗る少女ネオ。

 

 「……で、お前は何だってこんな事したんだよ?」

 「うるさいな。いいから何処にでも突き出せよ」


 ネオは観念したかのように諦めたような声色で何処にでも連れて行けとフォルスへ言った。


 「見た感じ服もボロボロ、それに少し臭うな…」

 「う、うるせー! 臭うって言うな!!」


 服装の方はともかく、体臭については女性として思うところがあるのか噛みついて来るネオであるが、そう言われても仕方がない容姿を彼女はしていた。

 ボロボロの服、髪の毛も毎日洗っていないのか少しぼさっとしており、身体からは鼻を摘まむ程ではないにしろ少し臭う。だが、それよりもフォルスには1つ気になっている箇所があった。


 「…ちょっとそのまま大人しくしてろ」

 「え? どういう事…ってキャッ!?」


 フォルスは彼女の服を掴むと、そのまま腹部の辺りの布を捲り直接腹を見る。

 

 「何すんだよ変態!?」


 ネオは服を掴んでいるフォルスの手を叩いて曝け出されていたお腹を隠す。

 突然に行動にネオはガルルルと唸りながら顔を赤くしてフォルスの事を睨み付ける。


 「何だよてめぇ、そーゆー事目当てで一度はわざととっ捕まえなかった訳かよ!」

 「……安心しろ。別に体目当てなんてありきたりな屑のセリフは吐かねえよ。しかしお前、服だけじゃなく肌の方もボロボロなんだな」

 「…っ!」


 フォルスの言葉にネオの赤くなっていた顔は元に戻り、そこから眉をひそめて少し悲し気な表情をする。


 フォルスが服を捲ると、そこには青アザだらけの体があったのだ。


 「ハッ、その服に合う様に肌の方もコーディネートしたってか?」

 「……ウルセー」


 そっぽを向いてぎりっと歯を合わせて音を鳴らすヨミ。

 彼女の事情までは知らないが、明らかに誰かから暴行を受けていた事は明白であった。

 体の事に触れると今まで威勢の良かった彼女は黙り込んでしまう。しかしフォルスはそんな彼女を見てあざ笑う。


 「はっ、傷だらけの肌を見られて恥ずかしいってか? 心配せずともオメェのくだんねー身体に興奮なんてしねーよ」

 「っ、黙れ!」


 流石に癇に障ったのかギロリと睨みながらフォルスへと蹴りを放つネオ。

 その蹴りをひょいっと避けて後ろに跳ぶフォルス。


 「けっ、くだんねー事で熱くなってんじゃねえよ」

 「うるさいんだよッ!」


 ネオは目の前でニヤニヤ嗤っているフォルスへと叫ぶ。

 気が付けば目の端に涙が溜まっており、ソレに気付くとゴシゴシと目元を擦って涙を拭う。


 「ぐっ、こっち見んな変態ヤロー!」


 怒りをぶつけるネオであるが、その時今度は腹から「くう~」っと可愛らしい音が鳴り始める。

 

 「…うぅ」


 情けなさに再び目元から涙が零れそうになり視界が曇る。涙を見られまいと下を向くネオであるが、そんな彼女の足元に袋が投げ渡される。

 

 「耳障りな音だな。それ食って鳴りやませろ」

 

 彼が投げ渡して来たのは先程貰った焼きそばであった。

 袋の中から食欲をそそるソースの美味しそうな臭いにゴクリと喉を鳴らすが、すぐに首を横に振って袋を拾うとフォルスへと突き出した。


 「いらねーよ! 何だ、惨めで可哀想だから情けでも掛けようと思ったのか!! しかもケースに入っているとはいえ食い物を投げんな!!」


 施しは受けないと言わんばかりに投げられた焼きそばを返そうとするネオ。しかしフォルスはそれを受け取らず、落ちていた自分の財布を拾うとそのままその場を立ち去ろうとする。

 

 「おい何処へ…!」

 「ああ? 何処にも何も帰んだよ。もう制裁も下したしテメェに用も無くなった。後は何処へでも行けや」

 「ふ、ふざけんな! コレ持って帰れよ!!」

 「今そこまで腹減ってねえんだよ。いらなきゃ捨てたらどうだ」


 そう言うとフォルスはその場から跳躍して姿を消す。

 取り残されたネオは手に持っている袋を睨み付けると、ソレを地面に叩き付けようとする。

 だが、再び彼女の腹からは空腹を訴える音が鳴る。


 「……ちくしょー」


 少女は自分の腹を軽く叩いた後、その場で座り込んで袋からケースに入った焼きそばを取り出しソレを食べ始めるのであった。




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