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少年、闇の底から目覚める


 「……ん」


 闇に沈んでいた意識が浮上して行く事を実感しつつ、蓋をしていた瞼を少年はゆっくりと持ち上げる。

 ぼやけている視界が少しずつ周囲の景色を鮮明に映し出していき、視界だけでなくまどろみの中にあった意識も徐々に覚醒して行き周囲に映る景色を正しく認識して行った。


 「……どこだここ?」


 目覚めて開口一番のセリフは自分の所在地を尋ねる言葉であった。

 自分の中の記憶では、ゴーレムを倒すべく遺跡に入った筈だ。途中までは5人全員で行動を共にし、そして途中で分かれ道を見つけたのでそれぞれ別行動をとった。そこまではハッキリと記憶があるのだが、その後の記憶がほとんど消失している。


 「3つのグループに別れ、そして俺は1人で……」


 記憶を辿って行くが、やはり別れた後の記憶が曖昧である。

 頭を片手で押さえながらなんとか思い返そうとするファストであるがやはり何も出ては来なかった。


 「…しかしここは何処だ? 明らかに遺跡の中ではないな」


 途切れた記憶は残念ながら思い出せないのでそちらは一旦保留にする。となれば次に意識を向けるのは今の自分の居るこの場所に移る。改めて現状を見渡すと、自分はベッドの上におり、そして周囲は生活用品が色々と置いてある。よく見ればこの景色、こちらの方は自分の記憶の中にあった。


 「ここは村長の家…じゃないのか?」


 そう、依頼内容を訊くために訪れた村の村長の家と同じ風景なのだ。という事はあれから自分は遺跡からこの家まで運ばれたという事になる。

 いったい自分の身に何があったのか考えていると部屋の扉が開いた。村長が帰って来たのかと思うと……。


 「あっ! 起きたのファスト!!」


 やって来たのはこの家の所持者の村長ではなくサクラであった。

 その後ろにはブレーとクルスも一緒に居た。


 「おお、目が覚めたようだな」

 「よかった、中々起きないから心配した」


 目覚めたファストの傍へと駆け寄る3人。よく見るとサクラの眼の端には微かに涙が浮かんでいる。

 まだ状況がよく呑み込めていないが、仲間達に心配をかけた事は確かなので頭を下げる。


 「その様子だと随分心配させたみたいだな。すまなかった」

 「驚いたぞ。お前が遺跡で倒れていた場面に遭遇した時は……」

 「倒れていた…か…」


 ブレーにそう言われても正直ピンとは来なかった。しかしこの状況、そして記憶が無い事からブレーの言っている事が正しいのは明白だろう。

 

 「俺はどうなっていたんだ?」


 とりあえずは自身の身に起きた状況の整理から始めようとするファスト。発見当時の自分がどうなっていたかを質問するとサクラが答える。


 「私たちがゴーレムを倒した後なんだけど、ファストが選んだ通路を皆で辿って行ったの。そしたらファストが倒れていて……憶えていない?」

 「ああ…正直別れてからの記憶が曖昧だ。そう言えばゴーレムの方はどうなった?」

 「そちらは全て処理が完了した。だが……」


 何やら奥歯に物が挟まる様な言い方に眉をひそめるファスト。

 

 「ゴーレムは全て撃退した。だがそのうちの二体のゴーレムは倒れていたお前の近くで同じように倒れていたんだ」

 「倒れていた…俺が破壊していたという事か?」

 「いや、そのゴーレムには目立った外傷が無かったんだ。傍にお前が倒れていた事からお前が倒したとは正直考えずらい」

 「……他の誰かが倒した?」


 ゴーレムが外傷なく倒れており、その付近に自分も気を失い倒れていた。この事から自分やゴーレムは何者かにやられたと考えるべきなのかもしれない。

 ファストのその考えはブレーも同意した。


 「お前がゴーレムにやられるとは思えんし、そのゴーレムもお前と一緒に倒れていた。そう考えれば第三者の仕業と考えるべきだろうな。だが…お前を倒せる者となると相当の実力者だぞ」


 もしもファストが倒れていたのが第三者によるものならば相手は相当の使い手と言えるだろう。ファストの圧倒的強さを知っているからこそ尚更である。

 第三者の存在を考えるブレー。そんな彼女にサクラが早計ではないかと口にする。

 

 「でもまだ誰かにやられたと決まった訳じゃ…。もしかしたら遺跡内のトラップでも…」

 「その線は無いよサクラ。先程個人的に村長に尋ねてみたんだ。あの遺跡には何か秘密でもあるのかとな。しかし特別遺跡には大掛かりな秘密など有りはしないそうだ。無論遺跡内に何かしらの仕掛けが施している訳でもない」


 ファストをこの家に運んだ後、ブレーは村長に遺跡について問いただしたが、あの遺跡には侵入者を撃退する為のトラップの類は存在しないとの事。冷静に考えればあの遺跡はかつてフリーネが侵入した前科があり、その彼女には特に被害があった訳でもないので村長の言っている事は正しいだろう。

 そうなると必然的に自分達以外の何者かが遺跡内に居た事になる。


 「あの時、遺跡には我々意外に誰かが居た。それはもう確実だろう…」

 「じゃあ一体誰がファストを…?」

 「さあな…ファスト、お前は本当に何も憶えていないのか? 記憶の中に自分を襲った人物の手がかりの様な情報は無いか?」


 ブレーに本当に何も憶えていないかを尋ねられ、もう一度空白の記憶を思い返そうとするファストであるが、やはり有力な手掛かりは出て来なかった。


 「だめだ…何も思い出せない。憶えているのは皆で別れて探索を始めたこと位だ」


 その先は真っ白、自分が何者かに襲われたかどうかすら不明なのだ。

 頭を悩ませるファストに少し重い空気が漂い始める。そんな空気を払拭しようとしたのか少し強引にサクラが切り出した。


 「でも…ファストが無事で本当によかった」


 記憶を掘り返しているファストを心配そうに見つめながらも、サクラは安堵した様に彼へと微笑んで言った。それに続くようにクルスも首を縦に振った。


 「うん、無事で何より。倒れていたから心配した」

 「確かにそうだな。私など思わず思考が停止しかねたぞ」

 「3人共…」


 ファストは眠っていたから知らないだろうが、倒れている彼を発見してこの村まで運んだあと、1時間近くサクラ達はファストの様子を見守っていたのだ。中でも彼を好いているサクラとブレーの落ち着きの無さは凄まじかった。

 1時間近く自分を見守っていた事実は知らないが、それでも自分の事を心配していた事は十分理解出来たファストは今更ながら3人に頭を下げ謝罪と感謝をする。


 「心配かけて本当に悪かったな皆。そして、ありがとう」

 「そんな、頭を下げなくてもいいよ。ファストが無事ならそれだけで十分だから」 

 「ああ、それにお前がもし何者かに襲われていたと言うならばお前が頭を下げる理由は無いはずだ」

 「うん、悪いのはファストを襲った人」


 頭を下げるファストに対して皆は気にする必要は無いと告げる。

 

 「だが、ファストの記憶が無いのであればこの件は置いておくしかないな」

 「…ああ、そうだな。もしもこの件で何か思い出したらお前達には必ず話すよ」


 真相は気になるが、ファストの記憶が欠如している以上はこの件について考えても答えは出ないだろう。スッキリとしないのは事実だが、今はファストの身が無事であった事で満足することにした4人。

 ファスト自身、真相が分からないので自分の身に起こった出来事ではあるが今は頭の片隅へとこの1件を追いやった。

 それに疑念は残るが依頼を達成した事には違いない。


 「少しモヤモヤするが依頼の方は果たせたのだからとりあえずこれでアゲルタムには戻れるな」

 「あっ、その事なんだけどファスト。今日はこの村に泊まって行く事にしたの」

 「ん、宿泊するのか?」


 てっきり後は村長と軽く話をしてアゲルタムの町に戻ると思っていたのだが突然の宿泊に思わず聞き返すファスト。そんな彼の反応を見てブレーは少し呆れた顔をする。


 「お前の身にあんな事があったばかりなんだぞ。つい先ほどまでは眠りに落ちていた事を考えると1日くらいの滞在は至極当然だ」

 「はは…面目ないな」


 そう言われてしまうと情けないが、確かに少しゆっくりしたい気分ではある。この分だと既に村長に滞在の旨を伝えているのだろう。ならばここはお言葉に甘えゆっくりと過ごすとしよう。

 こうして依頼を無事? に達成した4人は今日1日はこの村に滞在し、明日にアゲルタムの町へと戻る事とした。

 


 

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