少女、戻らぬ少年を心配する
「もうこの辺りにはゴーレムは居ないみたいだね」
「うん、もう何も聞こえない」
別行動をしていたサクラとクルスの2人は道中で現れたゴーレムを撃退したその後、通路奥へとしばらく進み他にもゴーレムが居るかどうか確認作業を行っていた。だが、あの戦闘以降はゴーレムの存在は確認できず、奴等の唸り声の類もまったく聴こえては来ない。
一緒に居るクルスは余りにも何もなさ過ぎて欠伸をしている。さすがに気を抜きすぎだとサクラが注意する。
「クルスちゃん一応警戒は解かないでね。まだ何があるか分からないんだから…」
「うん…」
注意されればさすがに気を引き締め直してくれるが、こういうどこか緊張の抜けている部分があるのでサクラは彼女を1人で行動させるのは未だ抵抗がある。
それはさておき、この辺りにはゴーレムの気配も無く、一度他の皆と合流しようと考えるサクラ。
「一度分かれ道前まで戻ろうかクルスちゃん。他のグループも戻っているかもしれないし」
「うん、了解」
大丈夫だと思うが、他の二組の安否を心配するサクラ。
特にブレーとフリーネのグループに対する不安が大きかった。ブレーの強さはよく分かっているが、共に行動しているフリーネと言い争っていたところを見ると連携の面など心配だ。まあサクラの不安とは対照的に実際の2人は戦闘の際には中々の連携は取れていたが、それを見ていないサクラが知る訳も無い。
しばらく歩き分かれ道前まで戻って来たサクラとクルス。
再び別れている通路前まで戻ってみると、一番左側の通路の方からなにやら声が聴こえて来る。ブレーとフリーネが選んだ通路の方だ。その声は徐々に大きくなり、発生源の2人も顔を表した。
「だ・か・ら! 悪かったって言っているでしょ。本当にしつこいんだから!!」
「ふん、貴様の態度が悔い改めている様に感じれんから言っているまでだ!!」
「反省ぐらいしてるわよ!!」
「そんな女がここまで強気で言い返すか!!
サクラが予想した通り、激しく口喧嘩をしながらブレーとフリーネの2人が分かれ道前まで戻って来てサクラたちと合流した。
フリーネと言い争っていたブレーであるが、サクラとクルスの姿を見て意識をそちらに傾ける。
「おおサクラにクルス、お前達も無事だったか」
「はい、ブレーさんたちも無事で良かったです」
「まああの程度の人形に後れは取らんさ。ところでこちらでは三体撃退したんだがソチラはどうだった? ゴーレムの姿は確認できたか?」
「はい、私たちも三体倒しました。その後も探索したんですけどゴーレムの姿は確認できませんでした」
サクラの話を聞き、ブレーは自分たちも発見した数は三体以上は存在しなかった事実を伝えた。
残りのゴーレムの数は事前に聞いているフリーネの話から二体の筈だ。自分たちとサクラたちの選んだ通路にはもうゴーレムの姿が確認できない事から残りはファストの選んだ通路に居るのだろう。
「残りのゴーレムは二体。まあファストなら余裕だろう」
「(…隣にそのゴーレムを作った本人が居るんだから少しは言い方に遠慮しなさいよ。この筋肉ゴリラ!)」
もしも大部分のゴーレムがファストの方面に集約していたら多少は不安を感じたかもしれないが、自分達が処理した数から逆算すると、ファストの担当数は残りたったの二体である。この程度の数ならば今頃ファストも片付け終わっている頃だろう。
もうすでに依頼を完了したと思い込むブレー達であるが、そんな中クルスだけはファストの選んだ通路を眺めていた。
「どうしたのクルスちゃん?」
ファストの選んだ通路をじーっと見つめているクルスを不審に思ったのか声を掛けるサクラ。他の2人もクルスの様子が少しおかしいと思ったのか声を掛けてどうしたのかと問う。
「どうしたクルス。先程からずっとファストの選んだ通路を眺めているが……?」
「…何かおかしい」
「おかしい…何が?」
クルスが何に対しておかしいと思っているのか分からず首を傾げるフリーネ。
「ファストがまだ戻ってきていない。まだ奥の方を探索しているのかな?」
クルスがそう言うと、サクラとブレーの2人がクルスの言っている事の意味を理解した。フリーネはまだ状況を理解していないのか首を傾げるが、事情を理解したブレーが口を開いた。
「ファストがまだ戻ってきていない。確かに普通に考えればおかしいな」
「……何がおかしいの? 単純に私たちが早く敵を片付けて戻って来ただけじゃない」
単純に自分達の方が早く退治を終えただけではないかと思うフリーネ。だが、その考察を改めてよく考え直す様に言うブレー。
「よく考えてみろ。私たちですら容易にゴーレムを倒し此処に戻って来たんだぞ。私たち以上の力を兼ね備えているファストが未だに戻ってこないのは不自然ではないか?」
「……!!」
ブレーにそう言われてようやくフリーネも真意に気付き始める。
「で、でもまだ私たちと同じように奥の方を探索しているとか……」
「確かにそれも考えられる。考えられるのだが……」
残りのゴーレムの数は少なく、ファストならば倒すのに自分より時間は喰わないはずだ。仮に探索を続けたとしても戻って来るのにここまで遅くなるだろうか?
もしも、ゴーレム以外の何かを相手取って居たとしたら……。
「どうにも嫌な予感がする…」
ブレーはいつの間にか手に汗を掻いていた。
あのファストに限ってそんな馬鹿な事があるわけない。フリーネの言う通りまだ遺跡の奥深くを探索しているだけの可能性もある。
「(なのに…何だこの不安は……)」
拭い切れない不安は一度気にすると次第にどんどん大きさを増し、いてもたってもいられなくなる。それは他の者達も同様で、特にサクラは自分と同じ位大きな不安感を抱いているだろう。
「…ブレーさん、様子を見に行きませんか?」
「そうだな。私もそうしようとしていた所だ」
サクラが先に言ったが、自分も全く同じことを言おうとしていた。他の2人も同じ思いの様でサクラの案に同意して首を縦に振る。
「よし、行くぞ!」
ブレーが先頭へと立つと、駆け足気味でファストの選んだ通路を進んでいく。そして他の三人もその後へと続いて行った。
「(無事でいてファスト!!)」
まるで祈るように彼の安否を気遣うサクラ。
この不安が杞憂である事を望みながら、急いで彼の元まで足を運んだ。
サクラ達が移動している際中、ファストやゴーレムの声、戦闘音など一切の音が聴こえてこなかった。
その静寂さが何故だが彼女達の不安をより一層煽った。それに伴い、彼女達の不安は大きくなり続け、胸が痛くなり続けた。嫌な予感は消えるどころか膨れ上がり、額からは汗が流れる。
そしてしばらく進むと、先陣を切っていたブレーが突然動きを止めた。
「ちょっと、何で止まってるのよ! 速く進まないと…!!」
突然足を止めるブレーに少し苛立ち気味でフリーネが訳を聞く。
だが、ブレーはまるで彼女の声が聴こえていないかのように返答せず、身じろぎすらしない。
「ブレーさん…?」
サクラが隣に立ち彼女の顔を見ながらどうしたかを尋ねる。
しかしブレーは何も答えず、視線をただ前へと固定していた。固まったブレーの視線を追い、同じく前を見るサクラ。
「………え?」
サクラの口からは自然と小さな声が漏れた。そしてブレーと同じく彼女の思考は停止した。頭が真っ白となり、間抜けにもその場に立ち尽くす。
何故なら視線の先には、自分達が探していた少年が横たわっていたのだから……。




