少年、巨兵をあっさりと沈める
暴走状態のゴーレムを止めるべく、遺跡の内部へと侵入して行く5人。
唸り声を頼りにドンドン奥へと進んでいくと、最後尾を歩いていたフリーネがクルスを見ながらファストに話し掛けて来た。
「気にはなっていたけど、この娘も一緒に来て大丈夫? なんだか頼りないと言うか危なっかしいと言うか……」
「んぅ?」
自分のことを言われている事に気付いたクルスは不思議そうな顔をして振り返る。
その大人しそうな表情を見ているとフリーネは益々不安そうな表情となった。今回の依頼は自分の不祥事が原因とも言える。そんな依頼で大きな怪我を負わせるのはフリーネとしても避けたい。
そんなフリーネの不安を取り除くようにサクラがクルスの実力について話す。
「クルスちゃんなら大丈夫ですよ。こう見えて魔法の才能は私よりも上だと思いますし」
「ふ~ん…まあそれなら…」
以前自分の作り出したゴーレムと戦った実績のあるサクラがそう言うなら大丈夫かと思うフリーネ。
話を聞いていたブレーはクルスの頭を撫でながらフリーネを見て小さく皮肉を呟く。
「少なくとも自分の魔法を暴走させる様なヘマはせんから心配するな」
「スイマセンでしたネ!」
べーっと舌を出すフリーネ。
遺跡の入口で注意したにも関わらず、再び喧嘩でも始めそうな雰囲気に思わずファストはため息を吐いた。ずっと思っていたがこの2人、根本的に相容れない性格なのかもしれない。今まで一緒に行動してきたが、ブレーが敵対している人間意外にここまで突っかかる事も珍しい。
サクラも同じことを考えているようで、少し意外そうな顔でブレーの事を見ていた。
その時、遺跡内部の奥から今まで以上に大きな唸り後が皆の鼓膜に響き渡る。
「早速一体現れたな」
ファストが前方を睨み付けると、大きな地響きが聴こえて来た。自分たちの立っている地面が揺れ、先程までいがみ合っていたブレーとフリーネも流石に気を引き締め直す。
遺跡の奥から現れたゴーレム、大きさは以前戦った物より大きく、しかも所々形状も違っている。
皆が魔法で身体能力を高め、迎え撃つ準備が整った瞬間――――
「ゴアアアアアアアアッ!!」
雄叫びと共にこちらへと走って来るゴーレム。その速度はあの巨体からは想像できないほど速く、一瞬で間合いを詰めて来る。
フリーネは自分もゴーレムを作り出そうとするが間に合わず焦るが――――
「はッ!!」
掛け声と共に風を纏ったサードの拳がゴーレムの頑強な体をいともたやすく貫いた。そのまま拳を貫かれた箇所からゴーレムの体には亀裂が広がって行く。
「…消えろ」
その言葉と共に貫いた腕に風を纏い、亀裂が入り脆くなったゴーレムの肉体を粉々に粉砕する。
その光景はフリーネを驚かせた。彼が強いとは思っていたが、強化されたゴーレムをこうも簡単に倒してしまうとは思いもしなかったのだ。
「す、すご…」
驚きの余り言葉がほとんど出て来ないフリーネであるが、他の3人はそこまで驚いた様子はなかった。
「やっぱりファストは凄いよね、ああもアッサリ」
「ああ、流石だな」
「うん、一瞬だった」
他の3人も驚いている様ではあるがリアクションが低い。
同じパーティーを組んでいるので彼の圧倒的強さを見慣れているのかと思っていると、再び奥から雄叫びと共にゴーレムが迫り来る。それも今度は二体同時にだ。
するとファストの後ろに居たブレーが飛び出し、前方に居るゴーレムに斬りかかる。
「ゴアァァァッ!!」
唸り声と共に拳を握りブレーへと振り下ろすが、それをブレーは真っ向から大剣で受け止める。
ぶつかり合う岩と剣の衝撃が周囲に響き、ブレーの身体が少し後退する。だが、ほんの僅か後退しただけで吹き飛ばされた訳ではなく、彼女は受け止めた拳を剣で弾くと、大剣に雷を纏いゴーレムの体へと斬りかかる。
「ぜあッ!!」
掛け声と共に振るわれた斬撃は、まるで岩の肉体を豆腐の様にあっさりと斬り裂き、巨兵の上半身と下半身を二分した。
もう一体のゴーレムがブレーに襲い掛かろうとするが、それよりも早くサクラの放つ炎弾がゴーレムの動きを止める。
「フレイムスピア!!」
グラついて動きが鈍るゴーレムに行きつく間もなく、サクラの放つ炎の槍はゴーレムの体を貫き、そして一気に炎上する。
そこへブレーの斬撃が叩き込まれ、もう一体のゴーレムも呆気なく撃退された。
その光景を見てフリーネは思わず間抜けにも口を開けて呆けてしまう。
「う、うそ…あんなにもあっさり…」
自分の作り上げたゴーレムは決してそこまで弱くはないはずだ。少なくとも村の近くに居た魔獣の群れを無傷で追い声す程の力はあった。だが、ファストだけでなくサクラとブレーもあっさりとゴーレムを倒してしまった。無論こちらとしては助かるが、こうまで圧倒的に自分の作品を撃退されると自信が無くなりそうである。
そんな彼女に気付かず、ブレーが少し期待外れと言った顔をした。
「何だ? 暴走していると聞いていたから少しは警戒していたがそこまでの相手ではないな」
「……」
「むしろこの程度のゴーレムを制御も破壊も出来ない事の方に驚きだ」
「………」
「大体な、お前は 「…そこまでだブレー」 ファスト?」
ブレーの言葉を遮るファスト。彼は無言でフリーネの方を顎で指す。
よく見るとフリーネが下を向き、完全に自信喪失した表情をしていた。その落ち込み具合を見ていると流石に言い過ぎたと思ったのか思わず咳払いをして目を逸らす。
「ごほっ…んんっ。す、スマナイ」
先程まで言い争っていた相手ではあるが、流石に罪悪感が芽生えるブレー。
落ち込んでいるフリーネをクルスがヨシヨシと頭を撫でて励ましている。
「大丈夫フリーネ。皆は他のギルドの人達より強いだけ。他のギルドの人なら手こずるはず」
「グス…ありがと…」
元々フリーネがゴーレムを作り出したのは偶然であったが、それでも魔法使いとしてそれなりにこの村に来る前は実績を積んで来たのだ。それをあそこまで言われると落ち込みもする。
「とりあえずこれで三体撃破したわけだが、残りの数がどれ位か分かるかフリーネ」
「…ええ、作り出した数は合計十二体。その内三体、いや遺跡から逃げ出した個体も含めて四体は撃破したはず……」
「ということは残り八体か…」
フリーネが傍に居るので口にはしないが、今回の依頼はそこまで難しい物にはならないと思うファスト。しかしそれは間違いである。もしも他の者がこの件を引き受けていれば彼等の様にアッサリと先程のゴーレムを撃退は出来なかっただろう。
ファスト達は気付いていないが、彼等は既にギルド内、いやそれなりの実力者達から見ても飛びぬけた実力を有していた。ファストだけでなく、彼を基準に特訓を積んでいるサクラ、ブレー、クルスの実力も彼に及ばないとはいえ相当なものであるが、目標としている人物が遥か上の力なので今の自分達のレベルに気付いていないのだ。
「まだ奥底から唸り声が聴こえて来るな」
遺跡をある程度進むと、通路が三か所へと別れていた。その三か所の通路それぞれからは先程と同じ唸り声が聴こえて来る。
「ここから先はそれぞれ別れて動こう。この面子ならば大丈夫だろう」
「そうね…ゴーレムを作った私ですらそう思うもの…」
「あっ、すまん。そう言う意味では…」
「いえ構わないわ。むしろ頼もしい位なんだから。それでグループはどう配分するの?」
先程散々ブレーに打ちのめされて慣れたのか、ファストの言葉にそこまで落ち込みを見せないフリーネ。
「そうだな、グループ分けは……」
ファストがグループをどう分けるか決める前に、少し興奮気味でフリーネがファストの腕を抱き寄せて言った。
「それなら一番か弱い私はファスト君と一緒という事で!!」
「なっ、どういうつもりですかフリーネさん!」
納得がいかないと言った顔で抗議するサクラ。
勝手にメンバー配分をされ、その上ファストと二人っきりにさせるなど見過ごせるわけがない。
しかしサクラの抗議に対してフリーネはこう言い分する。
「だってさっきの戦いで皆の強さが私以上である事は明白なんだから。だったら一番強い彼に守ってもらうのが一番じゃない」
「そ、それは…」
あながち間違っていない言い分に思わず言葉を詰まらせるが、そんな調子づいている彼女の首根っこをブレーが鷲掴みにした。
「そうだな、か弱いお前はこの私が守ってやろうではないか」
「ちょっ、何を――」
フリーネが言い終わる前にブレーは彼女の首根っこを掴んだまま一番左の通路へと進んでいく。宙ぶらりんの状態で抗議するフリーネであるが、聞く耳持たずでブレーは通路の奥へと消えて行った。
「えっと…じゃあ私はクルスちゃんと…」
「ああ、それがいいだろう」
クルスの実力は把握しているが、それでもまだ彼女1人ではファストも不安が残る。ならばサクラが同行するのがこの場合は一番だろう。
サクラとクルスは一番右側の通路を選ぶと、ファストに手を振って奥へと進んで行った。
「さて…俺も行くか」
最後に一人残されたファスト。
二組が進んで行った通路を一度眺めると、残りの真ん中の通路へと歩いて行った。




