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少年、岩の巨兵の残骸を見つける


 アゲルタムの町で行われた料理対決、盛り上がりを見せていたこの対決であったが突如として闇ギルドの謎の襲撃により対決は中断され、勝負は結局のところお流れとなった。当然、フルド側が勝利した際のサードの貸し出しも無かったことになり、それに対してフルド側の従業員達は凄まじく落ち込んでいた。

 皆、店に来てくれた際に彼と親しくなろうと目論んでおり、あわよくば自分のモノにしようと画策していた不届き者も居た。ちなみにフルドの店の女性従業員達は年下好きが多く、サードがもしフルドの店に貸し出されれば少し危なかったかもしれない……。

 しかしこの勝負の後、僅かな変化が1人の少女に起きていた。




 サードが住み込みで働いている安腹亭。

 今日は店が定休日でお客は来ていない。店の中の床をモップで軽く掃除をしているサードとメイシ。すると厨房の方からは賑やかな2人分の女性の話し声が聞こえて来た。


 「どうしてこんな味になるのよ!? 麺類は少しはまともなのに!!」

 「もうっ、そんなしきりに怒らないでよ! 真面目にやっているんだから!!」

 「真面目でこの味、ある意味天才よ〝レンゲ〟!」

 「余計なお世話です~〝ナポリ〟!」

 「ああもうっ、頼まれたから料理の特訓に付き合ってあげたのに! これならゴロゴロしてればよかった!!」


 厨房からはつい最近仲良くなった2人の少女の声が響き渡る。

 その声を聴き、サードとメイシは小さく笑みを浮かべた。


 「中が良いわね、あの2人」 

 「本当に…」


 未だ厨房からは騒がしい声が聴こえてくるが、そんな2人のやり取りはどこか微笑ましく感じられるサードであった。







 アゲルタムの町の入口付近では馬車が待機しており、そこには4人の男女が集まっていた。

 そのうちの1人、ファストは馬車の乗り込みながら他の3人に声を掛ける。


 「さて、馬車も来たしそろそろ行くか」


 彼の言葉に残りの3人、サクラ、ブレー、クルスが頷いて答える。

 今日、この4人は町の外から送られて来たファスト指定の依頼をこなす為、依頼のあった村まで足を運ぼうとしているのだ。しかしそれなりに距離がある為、ファストが事前に馬車を用意しておいた。

 用意された馬車に4人が乗り込んだのを確認すると、ファストが御者の女性に出発する様に頼む。


 「それじゃあ出発してくれ」


 ファストが出発を頼むと御者は元気よく返事をした。男性に声を掛けてもらえ嬉しいのかその女性も通常以上の声量で返事していた。それに対してサクラが少し不満そうな顔をする。


 「もう…男の人に声を掛けてもらえて嬉しいのは分かるけど少し現金な気がする」

 「いちいち反応していたらキリがないぞ」

 「分かってはいるんですけど……」


 ブレーに諭されるサクラであるが、彼女だって周囲の女性の反応がおかしなものだとは思ってはいない。むしろ今の男女比率を考えれば当然の反応なのだ。実際自分も初めてファストと出会った時には気絶すらした位なのだ。

 ブレーはファストには聞こえない様に小さな声でサクラと話をする。


 「心配せずともアイツは誰にでも簡単になびく男ではない。私もそんな男に惚れる気はないからな」

 「それはそうですけど…はあぁ~…」


 視線を前に向けるとファストは膝にクルスを置いて窓の外の景色を眺めている。

 自分の気も知らずに外の景色を楽しんでいる彼を見ているとつい溜息が漏れてしまう。その姿を見ていたブレーは苦笑しながら、視線をファストの膝の上に座っているクルスへと向ける。


 「(ふむ…ああいう風に甘えてみるのも悪い方法ではないのかもしれんな?)」


 今度機会があれば試してみようかと考えるブレー。そんな彼女の視線に気が付いたのか窓の外から視線をブレーへと向けるファスト。

 

 「どうかしたかブレー?」

 「いや、何でもない」

 「…そうか」


 何やら真剣な面持ちをしているブレーが何を考えているのか気にはなるが、恐らく村についてからの依頼について考えているのだろうと思うファスト。だが実際は自分が膝の上に乗って甘えてみるべきかどうかなどとしょうもない事を考えていた。以前の彼女からすればこのような考えを持つ事など有り得なかったが、やはり恋をしてからは少し変わった気がする。

 ブレーから視線を外すと再び窓の外に視線を向けて景色を眺め始める。


 「(しかし、またあの村に行く事になるとはな……)」


 まだクルスと出会う以前、初めて3人で依頼を受けたゴーレム退治の際に赴いた村。そこから自分を指名した依頼を引き受けたはいいが、正直嫌な予感がする。闇ギルドを相手どる際の嫌な感じとは少し違う、関わって面倒に巻き込まれるのではないかという類の嫌な予感が……。

 






 長時間の馬車移動で疲れたのか、クルスはファストの膝を枕にして安らかな寝息を立てていた。ファストはクルスを髪を撫でながらも、もうすぐ目的の村につくのでそろそろ起こそうかと考えていると――――


 「ん…? アレは…」


 窓の外に視線を向けていると何か大きな岩の破片が辺りに散らばっていた。


 「…ちょっと止めてくれ」

 「え、まだ目的地に到着してませんが…」

 「分かっている。だが少し停車してくれ」


 御者の女性は戸惑いながらも指示に従い馬を止める。

 馬車が停車するとファストがクルスをゆっくりと膝から降ろすと、そのまま馬車を降りる。その突然の奇怪な行動にサクラとブレーがどうしたのかを尋ねる。


 「ファストどうしたの?」

 「オイ、何か見つけたのか?」


 2人に後ろから声を掛けられながら、目に入った岩が飛散している場所へと歩いて行く。


 「…やはりコレは…」


 足元に散らばる岩の欠片を見て自分の見た物が想像通りの物である事を確信するファスト。そこへサクラとブレーの2人も合流して来た。

 2人は周辺に散らばる岩の欠片を見て不思議に思う。


 「これって岩の破片だよね? でも……」

 「ああ…辺りに岩場は無い。こんな林道の入口付近に何故このような岩の破片が?」


 皆の今居る位置は林が並んでいる林道の入口付近である。ここを超えれば目的の村まで辿り着く。だが、この周辺には岩場の様な場所など存在しない。ならばここで砕かれ散りばめられているこの破片は何か?

 2人が不思議そうにしていると、ファストは破片の中でも一際大きな物を指差した。


 「見て見ろ2人共」

 

 ファストの指を差した破片に視線を移す。よく見るとソレは大きな岩で作られた腕のように見えた。よく見ると指まで再現されいる。ソレを見て2人もこの砕かれた岩が何かを察する事が出来た。


 「これって…ゴーレムなの?」

 「ああ、恐らくな…」


 飛散している岩の正体が何かを察する3人。

 この近くには岩場存在しない。ましてや自分達が見ているこの腕の様な部分、人工的に作られたとしか思えないのだ。しかも恐らく一体ではなく、複数のゴーレムがこの場に居た事が破片の量から予測できる。

 この先にある目的の村の方角を見ながらファストは呟いた。


 「間違いなくこの先の村で何かあったな」

 「ああ、間違いなくな。しかも私たちが思っている以上に不味い状況の可能性もあるな…」

 「急ぐとするか」


 くだらない依頼かと思っていた3人であるが、もしかしたら想像以上に面倒な事態なのかもしれない。

 3人はすぐに馬車に乗り組むと、急いで御者の女性へと馬車を進ませるように頼む。


 「馬車を動かしてくれ。出来る限り急いで」

 「りょ、了解」


 馬車に戻って来た3人の表情が少し険しかったので何事か戸惑う御者の女性。何か不穏な空気は感じ取れたようで急いで馬車を動かし始める。 

 留まって居た場所から移動を始め、未だ窓の外に映るゴーレムの残骸を見つめながらファストは再び呟いた。


 「嫌な予感がするな……」




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