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少年、ギルドの一員となる


 少年に抱き着かれてから約三十分間抱き枕扱いを受けるライティ。

 彼女は軽い混乱状態に陥りながらもなんとかこの状況を整理しようと必死に勤めるが、しかし密着している少年の体温にドキドキが止まらなかった。

 そして、ようやく彼も目を覚ましてくれた。


 「くぁ・・・おはよ~」

 「は、はい・・・」


 二度目の目覚めでようやく意識がはっきりとしたのか、今度は再び眠りにつく、なんてことはなく抱き着いているライティから離れて両手を頭上に掲げて伸びをする少年。

 この時、内心彼が離れたことに少し残念がるライティであるが、今はそれよりも彼について聞き出すことが先決である。


 「え、えっと・・・それで貴方は誰でしょうか?」

 

 ライティが少年に何者かを尋ねると、少年はにへらと笑いながら自己紹介を始める。


 「ボクはセコンドっていうんだぁ~、よろしくねマスター」

 「マ、マスター?」


 マスターと呼ばれて戸惑いを見せるライティ。

 謎の少年は自分のことを主人として見ているようだが、何故唐突にそのような展開になったかはまるで解らない。

 しかし・・・・・。


 「(ふむ・・・)」


 改めてよく目の前で小さく笑っている少年を観察する。


 年齢は自分とそう差はないだろう。同じか、もしくは一つ位下かといったところだ。髪は黄色、童顔で笑顔がとても愛くるしく感じる、そんなどこか母性本能をくすぐる少年。


 「(そんな子が自分を主人扱いする・・・これってもしかして最高のシュチュエーション?)」


 そんな考えが一瞬、彼女の頭をよぎったがしかし、彼の正体が解らぬ以上はいくら相手が男性であるからといっても完全に無警戒とはいかないだろう。

 

 「え、えっ~~とセコンドくん、あなたのことをもっと詳しく、明確に、はっきりと説明してほしいなぁ・・・なんて・・・」

 「あ~、う~んと・・・昨日、石を拾わなかった?」

 「石・・・・・あっ」


 昨日、自分は彼の言う通り確かに光り輝いている宝石の様な石を拾っている。

 

 「うん、拾ったけど・・・」

 「それがボク」


 ・・・・・うん、解りません。

 まとめるとこの少年は自分の拾った石ころから人間へと変貌していったということ?


 「えっ~と・・・」


 ライティはセコンドの正体を知ろうともう少し深く追及を進めて行った・・・・・。




 「つまり・・・あなたはこの世界の男性減少の謎について調査する為に派遣されたと?」

 「うん」

 「そして昨日拾ったあの石に私のマナが注がれ続けて目覚めたと?」

 「うん」

 「う~ん・・・」


 どうにも信じがたい。

 そもそも神様のような存在が実在するというところから怪しいものだ。


 「でも・・・・・」


 男性が優遇されるこの世界で、彼が自分のような一少女にこんなくだらない嘘を吐くメリットが感じられない。ましてや、もしも嘘を吐くならばもっと信憑性のある嘘を吐くはずだと思う。


 「マスター?」


 黙り込むライティにセコンドが首を傾げて近づいて来る。

 彼の顔が迫って来た事にライティの顔が赤くなり、僅かに顔を後ろにそらす。


 「あ、ああ、ごめんなさい。えっ~とセコンドくん?」

 「は~い」

 「と、とりあえずしばらくこの部屋に居てもらっていいかな?」


 とりあえずこの状況はある種、非常にまずいだろう。

 彼の話が本当であれ嘘であれ、男がこの部屋に居るという事実は色々と誤解を招きかねない。


 「あれ・・・」


 この時、彼女はある事に気付いた。


 「(そう言えば・・・サクラと一緒に居たファストさん、サクラと一緒に唐突に現れたけど・・・それにサクラとも親しそうに見えた)」


 思えばサクラが同年代の男性と突然親しくなってギルドに帰って来るのは変じゃないだろうか?それにあのファストという人物は一体何処からやって来たのか?


 もしかして、サクラも今の自分と同じ境遇なのでは・・・・・?


 「ねえ、セコンドくん・・・」

 「んう? なーにー?」

 「あなた以外にも、この世界にやって来た男の人っているのかな?」


 ライティがセコンドにそう聞くと、彼は彼女に頷いた。


 「うん、ボク以外にも何人かいる筈だよ、送られた人~」

 「・・・・・」







 「(サクラ、あなたも今の私と同じ境遇なの?)」


 遠巻きにサクラのことを眺めながらライティはそう思う。

 もしそうならば、彼女にも事情を説明してセコンドの言っている事が本当かどうか確認しておいた方がいいだろう。


 「セコンドくん、部屋でおとなしくしているかな・・・」


 今は自分の宿泊している宿の部屋で留守番をしているセコンドのことを心配するライティ。

 もしも彼の存在が宿に居る者達に知られてしまえば彼の身が危ないかもしれない。自分の宿に住んでいる女性達はなんというか、いわゆる肉食系が多いわけだから・・・・・。


 セコンドの身や、ついでに貞操について心配を寄せるライティ。


 その頃、当の本人はというと・・・・・。







 「くあ・・・んにゅう・・・」


 ライティのベッドに潜り込んで眠りについていた。

 その姿はとてもこの世界に送り込まれた神に創造された人物の一人には見えなかった。







 「それにしても、セコンドくん・・・・・かわいかったなぁ」


 今、自分の部屋に居るセコンドの事を思い返すと、ライティの頬が緩む。自分よりも僅かに小さく、そして幼さのどこか残る少年。女性の自分に負けず劣らずの柔らかそうな肌、柔和な笑顔、そして抱き着かれたときに何やらいい香りが鼻をくすぐった。


 「えへへへへ・・・」


 思い返すと怪しげな笑みが思わずこぼれてしまうライティ。

 

 「ちょっ・・・どうしたの彼女?」

 「さあ、何か変な物にでも中った?」


 彼女のことを近くで見ていた通行人が怪しげな笑みを浮かべるライティを見て、少し彼女から距離を置く。そんな周囲の視線に気付き、彼女は慌てて緩んだ表情を引き締めた。

 

 「あれ! サクラが居ない!」


 セコンドのことを考えていて意識が完全に上の空であったため、いつの間にか彼女の視界に映っていたサクラやファストの姿はいなくなっていた。







 ライティが自分の元に現れた少年の事で夢中になっているその頃、ファストはギルド内の受付でサクラと共にギルド加入の受付を済ませていた。


 「これでよし・・・とりあえず記入は終わったぞ」


 受付の人間に記入済みの書類を手渡すファスト。

 加入の際に手渡された書類に記入を済ませ、そしてついに登録が完了したファスト。そしてギルド加入者の証であるライセンスカードがファストに渡される。


 「このライセンスカードはギルド加入のいわば証ですので、紛失した場合はすぐに報告をお願いします」

 「ああ、解ったよ」


 そう言って受付嬢からライセンスカードを貰うファスト。

 その際にわざわざ受付の子はファストの手をちょんと触れた。


 「・・・・・」

 

 そんな彼女のあざとい行為にジト目を向けるサクラ。

 サクラからの視線に気付いた受付の子はすぐさま腕を引っ込めて目を逸らしている。


 「どうしたサクラ?」

 「いや、これから色々とライバルが増えそうだなぁって」

 「ライバル?」


 ファストがそう聞くと、彼女は何でもないと軽く手を振って答える。


 こうして、ブレーとの決闘で無事に勝利を収めたファストは、晴れてこのギルドの一員となったのであった。


 


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