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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少女、2人っきりで話をする


 「くそぉ…また同じ手で逃げられるなんて…」


 前回同様の手口で逃げられた事に悔し気な表情で歯噛みするファスト。目くらましまで予想は出来ていたが、それに加えて伸びるマナの刃に油断してしまった。攻撃は防げたが、その一瞬の隙にまんまと逃げられてしまっては意味がない。

 振り返ると他の皆はまだ視界が回復していないのか目元をこすっている。だが、見たところ大きく負傷した者は居ない様で少し安堵するファスト。

 

 「(だが、奴ら…何が目的だったんだ?)」


 今回の突如の襲撃の意味が分からず疑念を持つファスト。

 死人が片付けられた途端に撤退して行ったが、これではただ向こうの兵力を悪戯に削っただけのように思える。

 相手の目的が何か頭を悩ませていると、ようやく視界が回復して来たサクラとブレーがファストへと近づいてきた。


 「……逃げられちゃった?」


 分かり切っている事ではあるが一応尋ねて来るサクラに無言で頷くファスト。

 みすみす逃げられたことにサクラも落ち込んでおり、ブレーは少し苛立ちながら近くの岩を蹴り飛ばす。


 「またしても逃げられるとは……。奴等、一体何が狙いだったんだ?」


 その問いに答えられる人物はこの場には居らず、ファストはやりきれない思いと共に天を仰いだ。







 目くらましを使い上手く町の外へ脱出できたクチナシと仮面女。

 アゲルタムの町の外に出てからしばらくは全力で移動していたが、背後から追跡の気配も感じないので仮面女は安堵してようやく足を一度止める。それに続きクチナシも立ち止まり、アゲルタムの町がある方角を見つめる。


 「どうやら追手はいないようですね」

 「ミタイネ…フウ~~…」


 仮面女は首をコキコキと鳴らしながら、緊張の糸を解いた様に軽い口調でクチナシへと話し掛けて来た。


 「疲レタァ~…。魔道具ノテストガ限界ネ。トテモ彼ヲ捕ラエル何テ無理無理」

 「確かに、現に我々もこの様ですからね」


 クチナシは軽く火傷を負っている腕をさすりながらそう言うと、仮面女は彼女を見ながらぼやく様に言った。


 「アナタノ相手ハマダマシヨ。私ノ相手ノ戦力ハ桁違イノ強サダッタンダカラ」

 「否定はしません。私も一度彼と戦い見事に返り討ちにされましたからね」


 自分が戦ってい2人、特にブレーは確か強かったが、あのファストの強さはやはり次元が違う。何度か仮面女とファストの戦闘を所々で観察していたが、明らかに彼の強さが突出している事は理解できた。速度に自信を持つ自分が霞む程のスピード、そして自分が相手取って居たブレーを上回るパワー。自分が相手をしなくて良かったとすら思っていた。

 仮面越しで表情は窺えないが、恐らくジト目で自分を見ている仮面女。その無言の視線に耐え切れずに話しかける。


 「何です? こちらを凝視して…?」

 「……モシモ、モシモマタ彼ト戦ウ時ハアナタ二任セルワ。出来レバ私ハモウ戦イタクハナイワ」

 「珍しいですね。貴女がそんな弱気な発言をするとは」

 「……コレ見テヨ」


 仮面女は自分の付けている割れ欠けの仮面に手を掛け、ソレを外した。外気に直接素顔を晒した仮面女。その素顔を見たクチナシは――――


 「ふぶっ!」


 我慢できずに吹き出してしまった。

 口元を手に当て笑いを押し殺そうとする相方の姿に腹を立てながらも、あの少年ともう戦いたくないと言った自分の理由はこれで分かった筈だ。


 「くくっ…ふふふ……」

 「笑イ過ギヨ。ソロソロキレルワヨ」

 「ふぐっ…ごほっ……スイマセンでした」


 ようやく笑いを押し殺すクチナシ。

 仮面女の素顔は同じ女の自分から見ても美人だ。だが、彼女の右頬の部分が少し腫れ上がっており、美人ゆえに逆の一層面白く見えてしまったのだ。

 

 「全ッタク、女ノ顔ヲコンナニモ乱暴二殴ルナンテ…」

 

 頬を擦りながら文句を言う仮面女。 

 そんな彼女のセリフに対してクチナシはこう答える。


 「今の世では男は重要な存在、女性が殴られてもそこまで騒がれないのでは?」

 「……確カニソウネ」







 ファスト達の戦闘が終わった頃、ナポリを運んでいたサードは戦闘場所から大きく離れた場所まで移動をしていた。すると、前方に見覚えのある人影が見えた。

 その人物を見てサードは脚を止め、ナポリを降ろした。すると前から3人の女性が近づいて来た。


 「サード君、それにナポリも!!」

 「レンゲ…。それにメイシさんとフルドさんも…」


 サクラを見送った後、彼女達はその場に留まり帰りを待っていたのだ。

 サードがナポリと共に帰って来た事に心から安堵するレンゲ。そんな彼女の様子を見てナポリは無言でそっぽを向いた。


 「無事で良かった~。2人共心配していたんだから」

 「お帰りなさいサード君。それで向こうの状況はどうなの?」


 レンゲは2人の姿を見て安心しているが、メイシとフルドはまだ緊張感が完全に解けていない表情をしている。そんな2人を安心させようとサードは向こうの戦況を伝えた。


 「オレが戦線離脱する際、あの死者達は随分とやられていたよ。もうほとんど犯滅状態でコチラにも大きな被害はなかったはずです」


 首謀者と思える女も居たが、明らかに圧されていたのは相手側であった。あの様子だともしかすれば今頃戦闘事態終わっているかもしれない。

 向こうの戦況の行方を考えていると、頭部の獣耳を触れらて意識を逸らされた。


 「お~、ケモミミじゃん。やっぱその姿可愛いねサード君」

 「ちょ、ちょっと…」


 無遠慮に耳を触られて少し焦るサード。意中の相手に触られていると思うと恥ずかしく、彼女の手をどけて耳と尻尾を引っ込めた。

 まだ触り足りなかったのかレンゲが頬を膨らませて不満を言う。


 「あーっ、まだモフりたりなかったのに~」

 「…ねえ今の耳と尻尾、コスプレとかじゃないわよね?」


 この場でサードの変身姿を初めて見たフルドが興味津々と言った表情で先程のサードの姿について尋ねると、サード本人でなくレンゲが説明をした。それを聞きフルドはその変身を営業に生かせるのではないかと思い始める。


 「変身能力、コレなら女性のお客のハートもより掴めるのではないかしら?」 

 

 フルドのこの何気ない一言により、レンゲは目を輝かせてなるほどと言う表情をした。


 「確かに、何で気が付かなかったんだろ?」

 「イヤ、やらないから! レンゲも乗らないでくれ!?」

 「どうサード君、やっぱりウチで少し働いてみない? サード君の変身した姿で接客すればお客さん増えると思うんだけど…」


 フルドがそう言ってサードを誘おうとすると、メイシがサードを自分に抱き寄せて文句を言い始める。


 「ちょっとフルド、勝負はお流れになったんだからこの子がソチラで働く理由は無い筈よ」

 「くっ…まさかこんな結末になるなんて…」


 悔しそうな表情でこの結末に不満を言うメイシ。

 勝利がほとんど決まっていたにも関わらず、謎の襲撃により勝負自体がオジャンとなってしまった。返す返すもあの死人達が憎らしい。

 

 「……」


 しかしフルドと同じく報酬が得られなかったナポリは不満をいう事は無く、彼女は皆から顔を背けている。だが、チラチラとレンゲの方を何度か見ており、その視線に気付いたレンゲが話し掛けてきた。


 「どうかしたのナポリ?」

 「……何で名前で呼んでいるのよ」

 「え…あ~、何となく?」

 「……」


 しばし黙り込むナポリであるが、彼女はレンゲの腕を掴んで近くの家の物陰へと連れて行こうとする。

 突然の彼女の行動に戸惑うレンゲを差し置き、ナポリがメイシへと話し掛ける。


 「ちょっとコイツ借りますね。少し話がしたいです」


 そう言ってナポリは3人から離れて行く。 

 突然の行動に思わず引き留めようとするメイシとサードであるが、それをフルドが引き留めた。


 「ごめんなさい、少し話をさせてあげて」

 「フルド?」

 「もしかすれば、レンゲちゃんと話してあの娘の何かが変わるかも……」


 物陰へ消えて行く2人、ナポリが果たしてレンゲに何を言いたいのかは分からない。だが、彼女と対照的な性格をしているレンゲと話す事でもしかしたら何かが変わるかもしれない。

 やがて2人の姿は安全に家の影へと消えて行った……。


 


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