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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、首謀者を取り逃がす


 クチナシが右手に刀、左手に筒を持ちブレーへと突っ込んで行く。

 サクラは迫り来るクチナシ目掛けて炎の弾を放ち弾幕を張る。そしてそれを回避した所にブレーが攻撃を加えようと考えるが――――


 「ッ!」

 「なっ!?」


 クチナシはサクラの攻撃を回避せず、迫り来る炎の弾を刀で弾きながら一直線に進んできた。刀で斬り裂いた炎は散り、その飛び火が僅かばかりとは言えクチナシの肌を焼く。しかし彼女はまるで熱さを感じていないかの如く速度を落としはしなかった。

 小さな火傷を負いながらもブレー目掛けて刀を振るうクチナシ。それに対して応戦するブレーであるが……。


 「くうぅぅぅっ! このッ!!」


 速度面では完全にブレーを上回っているクチナシの剣撃は凄まじく速く、反撃するタイミングを掴めず防戦一方となるブレー。サクラも援護したいがクチナシが常に間合いを詰めているので、この状況で攻撃すればブレーも巻き込んでしまう。それを狙ってクチナシもブレーに対して密着し続けていた。

 クチナシの行きつく間もない斬撃は、ブレーの皮膚を浅くではあるが小さな切り口を一つずつ付けていく。


 「舐め…るなァッ!!」

 「!!」


 防戦一方のブレーであったが、大剣を振り上げ地面へと叩き付ける。

 凄まじい衝撃が大剣を叩き付けた際に発生し、間近に居たクチナシの体を弾き飛ば、彼女の身体が地面を転がって行く。


 「チィッ!!」


 舌打ちと共に体制を整えるクチナシであるが、その頭上からサクラの遠距離攻撃が降り注いでくる。しかしクチナシは左手に持つ筒にマナを送り込み剣を形成すると、迫り来る炎の弾を一閃して散り散りに振り払う。

 マナで形成する剣はどうやら長さを調節できるようで、頭上から距離のある炎の弾に刃が届くほど長く刃が形成されていた。そしてクチナシは更に筒へマナを送り剣の長さをさらに数倍にし、遠距離からサクラを剣で襲う。


 「な、何! あの出鱈目な長さ!?」

 

 サクラとクチナシの距離は十メートル以上は離れているにもかかわらず、筒から放たれる剣はそんな間隔などお構いしないに離れている彼女を捉える。

 遠距離から高速でとてつもない長さの剣を振るうクチナシ。サクラは炎の槍でそれを必死に受け流し、2人の合間に居るブレーも射程に入っているので大剣を駆使しながら防いでいく。


 「大道芸のつもりか、鬱陶しい!!」


 耳元で風を切る音を聴きながら、クチナシの剣劇を防ぎつつ距離を詰めようとするブレー。しかしあれだけ間合いがあるにも関わらずクチナシの振るう剣の速度は通常とほとんど変わらない。だが、ブレーにはこの状況でも活路が見えていた。


 「(サクラから聞いた予測を考えるに、このふざけた間合いからの一方的な剣劇は時期に止む)」


 あの剣を形成するには凄まじいマナを使用する、となれば剣を長くすればするほどマナの使用量もそれに比例して大きくなる。それを裏付ける様にクチナシの呼吸はまた荒くなり始めていた。

 振るわれるマナの剣を捌きながら、ブレーは身体能力をマナで限界まで高めて機を狙う。クチナシの振るう剣が弱まり、そして隙が出来るその瞬間を……。







 仮面の女は放たれる風の魔法を吸収し、相手の攻撃を無力化できると思っていた。だが、魔法を吸収するというアドバンテージを持っていながら、仮面の女は追い込まれていた。

 

 「そこッ!」

 「グハッ!」


 ファストの蹴りが女の腹部へと叩き込まれる。

 蹴りを受けた場所を押さえながら、仮面女はファストへと語り掛ける。


 「痛イワネェ…ゴホッ。女相手デモ容赦ガナイヨウデ…」

 「悪いな。あいにく外道相手に優しくするほど聖人君子でもなくてな」


 コチラの戦況は完全にファストが優勢であった。

 魔法を吸収される事を理解したファストは戦い方を純粋な体術のみにしたのだ。にも関わらず、魔法を封じてもファストの力は完全に仮面女を凌駕していた。


 「(クソ…マサカ魔法ヲ使ワズトモコレ程トハネ…イヤ、厳密ニハ魔法モ使用シテイルケド……)」


 戦い方を体術主体にしたとは言え、戦闘の要所要所ではファストは風の魔法を使っていた。だがファストは迂闊に吸収されぬ様、攻撃を当てる際、その部位に一瞬だけ風を纏って攻撃を繰り出しているのだ。

 魔法を発動する瞬間が一瞬のため、仮面女も魔道具で魔法を吸収できないのだ。

 

 「(ソレニシテモ…〝強化〟サレタ状態デモ歯ガ立タナイナンテ…)」


 仮面女の腕に装着されている魔道具は単純に魔法を吸収できる物ではなく、吸収した魔法を自分のマナに変換出来る機能が備わっているのだ。つまり魔法を吸収すればするほどに戦闘力が加算されていくという事だ。戦闘中にファストが彼女の力が上がったように感じたのは気のせいではなかった。

 しかしファストの魔法を何度か吸収し、随分と戦闘力が自分に加算され大きくなったにも関わらず、仮面女は劣勢の状況であった。

 

 「本当…ヤハリアナタハ別格ミタイネ。参ッタ参ッタ…」


 正直、仮面女には目の前の少年の底が見えなかった。目の前の相手はどれだけ力を上げても常にそれを追い越して来る。

 このまま戦っても勝てるビジョンが女には見えてこない。


 「(…ソロソロ切リ上ゲ時カシラ?)」


 用意したおいた死人もほとんど殲滅状態、しかも自分だけでなくクチナシの方も中々に手こずっているこの現状、このまま戦えば死人を片付け終わったあのクルスと呼ばれている少女、そして他の者も自分とクチナシの戦いに加勢してくることは自明の理である。サードと言う少年はどこかに行ったようだが。

 ファストの攻撃を捌きつつ、クチナシの方へと視線を向ける。彼女も魔道具によるマナの消耗が激しいのか表情が少し苦しそうである。


 「(今回ノ目的ハ魔道具ノ性能テスト、ソシテコノ街ノ男ノ戦力把握。モウ十分デショウ)」


 今回の襲撃は手に入れた魔道具の実践テスト、及び突如この町に現れた〝2人〟の男の戦力把握が主な目的であった。特にあのサードとやらは亜人の可能性があると見て実際に戦闘をしている現場をこの眼で見ておきたかったのだ。勿論、あわよくば少年2人を捕らえればとも考えてはいた。

 男性を捕らえておけば色々と今の世では利用価値もある。だが、さすがにそれはこの現状を見る限り図に乗り過ぎた考えであったようだ。捕らえるどころか自分は完全に負けているのだから……。

 そんな事を考えているとファストの拳が自分の顔面目掛けて飛んでくる。しかし仮面女はそれを防ごうとはせずにモロに直撃し、そのまま遥か後ろへと吹き飛ばされていく。


 「なっ、まともに受けた!?」


 避けるなり受けるなりすると思っていたが、まともに攻撃が入った事に少し驚くファストであるが、今の相手の対応、わざと自分の攻撃を受けたようにも見えた気がした。

 そして吹き飛ばされた仮面女は空中で一回転すると、ファストへ向かって行かずクチナシの方へと一気に地面へ蹴って向かった。


 「しまった! やはりわざと喰らって距離を取ったか!!」


 仮面女はファストの考察通り、わざと攻撃を喰らいクチナシの方まで距離を詰めていたのだ。

 一方、ブレーとサクラ相手にマナの剣を振るっていたクチナシも、仮面を殴られて割れ欠けた仮面部分を押さえている仮面女に近づき、剣を納めて合流した。


 「手コズッテイルヨウネ」

 「貴女程ではありません」


 お互いに軽口を言い合いがら並んで立つ2人。

 サクラとブレーの隣にファストが並んで立ち、3人はそれぞれ身構える。


 「大丈夫かブレー、サクラ!」

 「ああ、たいした傷は無い」

 「うん、私も大丈夫だよ」


 サクラは取り立てて外傷はないが、ブレーの方は軽い切り口の様な状態が肌に点々と見られる。しかしこれ位ならば回復系の魔法ですぐに治せるだろう。

 とりあえず目立った外傷も無いようで安心していると、そこへ死人を引き受けていたクルスも合流する。


 「こっちも終わった」


 彼女の言う通り辺り周辺に居た死人は全滅しており、同じく戦ってたギルドの女性達もファスト達の元へと集まって来た。

 大勢いた死人は全て倒され、残りは今回の事件の黒幕である仮面女とクチナシの2人だけとなった。

 仮面の女が隣のクチナシに囁きかける。


 「ドウ? 魔道具ノ性能ハ存分二試セタ?」

 「ええ、欠点もより鮮明に見えてきました。やはり実戦で使用するのと、頭の中で考えるだけとでは与えられる印象は違いますね」

 「目的ハモウ十分果タセタシ、ココハ引キマショウ」

 「出来ればこの町〝2人〟の少年も捕らえたかったですが…仕方ありませんね」

 「元々ソレハ出来タラノ話デショ」


 そう言って仮面女は懐からガラス玉を取り出した。


 「アレは! 全員目をつぶれ!!」

 

 ファストはそう言うと誰よりも早く瞼を閉じて腕で目元を覆う。しかし他の者達は間に合わず、ガラス玉が地面に叩き付けられると同時に放たれる激しい光で眼を眩ませてしまう。


 「キャッ!?」

 「くそっ、またコレか!!」


 皆の視界がゼロになるが、その中で唯一ファストだけは目を覆っていたため完全に視界は死んでおらず逃げようとする2人へと刀を持って向かおうとするが――――

 

 「させません」

 「ぐあっ!?」


 ファスト目掛けてクチナシのマナの剣が自分へと伸びて来た。ソレを刀で受け止めるが衝撃で押され体は僅かだが後方に押し出される。空中に投げ出された状態から一回転して着地するが、その時には既に2人の姿はもうなかった。




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